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ショートショート「高嶺の花子さん」

高校2年。

俺の学校生活が、こんなに酷なものであっていいわけがない。と、思いながら俺は今、生きている。まさに生き地獄。

まぁ、そうしてしまったのは、自分のせいなんだけど。

今日は皆さんに、俺が今まで生きてきた中で、一二を争う生き恥を見てもらいたい。

        ◆◇

俺は、山中。
事の発端は、日頃からつるんでいる友達の高橋に借りを作ってしまった事から始まる。
どんな借りかは秘密。
皆さんとこれからの人生、会う事もあるかもしれないし、ないかもしれないけど、とりあえず今は内緒でお願いしたい。

高橋が提示した借りを帳消しにするという条件は、2つのいずれかをクリアすること。
同じクラスの武井さんに俺が好きなことをバラす。もしくは武井さんを泣かせること。
期日は明日。

なんだこの条件、
穴があったらそこに高橋を埋めて塞ぎたい!

と、叫んでみたものの、その明日はもう明日だった。

俺は高橋の提示した条件のどちらかを、遂行する作戦を練った。俺の偏差値で繰り出される苦肉の作なんてこんなもんだ。もし、今後の人生で皆さんに会った時に、この事は聞かないで欲しい。悶絶ハズい。マジたのむ。

         
        ◇◆

その日が来た。
高橋からも念を押された。
忘れていてほしいと思ったが覚えていたのか。

高橋の誘いで、俺と武井さん、クラスの何人かで、放課後にカラオケに行くことになり、持込の飲み物やお菓子を買うため、コンビニで待ち合わせをした。

コンビニの店内には、バックナンバーの「高嶺の花子さん」が流れていた。メロディが流れればフルコーラス歌えるが、歌いたくはない曲だ。
最後の「なる~わけないかぁ~」が、俺をあざ笑っているようでムカついた。

そんな事を思いながら俺は、武井さんを注視した。武井さんと同じ飲み物を買うためだ。しかしながら、同じ飲み物を買ったことを、今気づかれてはいけないのだ。

ここまでは、よし。
次はカラオケボックス。
ここでは、武井さんが飲んだ量と同じ量を、自分も飲んでいく。ペットボトルを置いた瞬間、目視で同じ量かを逐一確認。

俺の作戦にぬかりはない。いよいよ本丸だ。
こういうのは、誰が見てるか見てないか分からない、なんでもない瞬間が実行に最適なんだ。


………確認よし。

みんなのペットボトルの蓋は閉まっている。
時は来た。


「わーーーーーーーーー!!!!」


俺は皆のペットボトルを全部なぎ倒した。
あとはもう知らない。

「お前なにやってんだよ!!!」

武井さんが「私の、私の…」と呟きながら、自分が飲んでいた同じ種類の2本のペットボトルを並べる。

「うそ!え、誰、私と同じの飲んでたの……
どっちかわかんないんだけど!」

「同じの飲んでたの山中じゃない?」

と、聞いた途端、

「山中???キモい!!サイテーー!!
 わーーーーーーーーーん!!!」

「花子!!泣かないでよ!!!」


高橋が歌うback numberの「高嶺の花子さん」よりも高いキーで、武井さんの泣き声が響き渡った。

武井さん、ごめん。


(fin)