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朝ドラ「カムカムエヴリバディ」と祖父の日記が伝える、100年のファミリーストーリー~大切な人が幸せであるために。私たちは「よりよき祖先」になれるか?~

「あずきの声を聞けえ 時計に頼るな 目を離すな
なにしゅうしてほしいか、あずきが教えてくれる
食べる人の幸せそうな顔を思い浮かべえ
おいしゅうなれ、おいしゅうなれ、おいしゅうなれ......
その気持ちがあずきに乗り移る。うんとおいしゅうなってくれる。
あめぇ~あんこが出来上がる」

上白石萌音さん演じる安子のセリフにあわせて、思わずとなえてしまう、「あんこのおまじない」。立ち上る湯気から、小豆の甘い匂いが香る。
その様子をテレビ越しに見ていると、あるはずのない香りに、気づけばこちらの鼻孔がくすぐられている。

昨年11月から放送されている、NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」は、
”3世代ヒロインがバトンをつなぐ初の朝ドラ”として、話題を呼んでいる。

昭和、平成、令和の時代に、ラジオ英語講座と共に歩んだ祖母、母、娘の3世代親子を描くファミリーストーリーだ。
冒頭の「あんこのおまじない」をかける安子は初代ヒロインで、二代目ヒロインの母、そして三代目ヒロインの祖母にあたる(現在は、三代目ヒロインのパートに入っている)。

前作「おかえりモネ」への名残惜しさから見始めたものの、その世界観にあっという間に魅了された私は、毎朝の15分が待ち遠しくて仕方ない。

1世紀(100年)に渡る家族の物語は、相当に心を打つ。
母(安子)から子(るい)へ、そしてその子(ひなた)へ、紡がれていく命のバトン。かつては子どもであったヒロインがやがて成長し、生きる道を懸命に見出していく。

年を重ねてはじめてわかる親の苦労や、何気ない言葉に秘められた思いが胸に迫る。時代は異なれど、誰しも若かりし頃があり、恋に浮き足立ったり、絶望に打ちひしがれたり。その時代を生きる一人ひとりが、悲喜こもごもの人生を歩んでいる。

視聴者の年齢によって、共感を重ね合わせる場面は異なるだろう。
しかし、普遍的なテーマは総じて私たちに、連綿と続く過去からの命の連鎖を想起させる。自分がここに生きている限り、その上に幾重にも重なった他者が存在しているということにほかならない。

自らの人生を過去へとさかのぼると、思い浮かぶのはせいぜい、両親と祖母くらいだ。顔も名前も知らない先祖は山ほどいる。血縁関係への意識が昔より薄れていることへの現れかもしれないが、それ以前に、私は祖父の存在すら危うい。
どちらもすでに亡くなっているが、母方の祖父とは一度も顔を合わせたことがない。私が生まれる前、母が高校生の頃に亡くなったため、そもそも記憶のうちにいないのだ。

だからなのか、祖父は数いる先祖の中でも、どこか神秘的なベールに包まれている。文字通り、雲の上の人だ。
生まれてこの方、掴むに掴めない存在だった祖父だが、昨年秋、前触れなく私たちの前に姿を現してきた。

「カムカムエヴリバディ」の放送が始まった11月。時を同じくして、祖父の手記が鹿児島の祖母宅で見つかった。

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