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078_後悔しないなんてあり得ない 2

前回の記事の続きです。

上司との面談が行われたのは奥まった別室でした。それは社長室の隣で、私が初めて入る部屋でした。
すでに何人かが先に面談を受けていて断片的にその情報は伝わっていました。上司が話し始めた内容は伝わっていたものと、ほぼ合致していました。

その条件とは
・本年度終了までに退職することを了承して欲しい
・会社で規定されている退職金に上乗せをする
・退職日は年度末までならいつでも良い
・会社都合の退職なので求職手当はすぐに支給される
・希望者は再就職支援機構を利用できる

ひと通り聞いてから、私は返答しました。
「持ち帰って家族と話し合いますが、私は了承する方向で検討します」
相手は無表情でした。すでに数人にこの退職勧奨を伝えているので、その反応に対して少し鈍感になっているのかなと思いました。
「そうですか。次回は2週間後にまた話をさせてください」

2週間、という事は10名の対象者に1日に1名か2名で面談を行っているという感じなのだろうか。と私は思いました。今にして思えば到底笑顔で受け入れられる話ではない、その上司の気持ちを安定させながら行っていたのかもしれません。

妙な話ですが、私はその上司の心情が痛いほど分かりました。

その上司も直属の上司も、私よりも年下で勤続年数も下でした。私は50歳を超えて役職がなく、単にキャリアだけが長いのです。客観的に見て肩を叩かれても不思議はない状態だと思われました。だからその上司にしてみれば会社の指示に従って当然の事をしているわけで、恨みを買ったり非難されたりする故はないのです。
しかし首を斬られる側にとっては無感情ではいられません。生活、住宅ローン、子どもの養育、等々シビアな現実に囲まれている者であれば尚更です。
私も大学2年の長男と中学校の次男を抱えていました。私は怒りにまかせて怒鳴っても良かったのです。でも冷静でした。そうした感情が何の意味もなく、むしろ人間らしい気持ちであれば上司への同情だと思ったのです。
逆を言えば、こうなってしまった会社や、お互いが共通の環境で幸せを共有できないのだという現実に、冷めた目で直視していたのかもしれません。

現在そのシーンを思い出しても、もしも立場が逆だったら… 私がテーブルの向こう側で首を斬る事を宣告する人間だったらどうなったでしょうか。

私も、ただの小心者です。人物は小さく大局観や長期的な展望などを持ちえないのです。そんな存在が例えどんな相手であれ一個の人間に対して「あなたは会社にとって不要だから退職しろ」などと言えるのでしょうか。言えないと思います。
クビにされて幸せだなどと笑止ですが、そういう立場を経験しなくて本当によかったと思っています。

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