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#1 手紙

 前略、と書いておきながら、私はいつも挨拶を書いてしまいそうになります。お手紙を書くことに慣れていないからなのでしょうね。お恥ずかしい。と、こんなことを結局書いていたら前略も何もあったもんではありませんね。重ねてお恥ずかしくって顔から出た火でこの手紙を燃やしてしまうやもしれません。そうなると書き直しですわね。私ってそういうところがありますの。そういうところというのは、その、あの、おっちょこちょい、というのかしら、そうゆうところがございますの。そんなところが可愛いなんて言ってくれる人もいくらかいましたよ。でもそれも若いうちだけね。ああやだやだ。うんと若い頃は歳をとるなんて信じられなかったのに。それも若さがなせる技ですね。でもちゃあんとこうして歳を食ってます。でもあれね、歳をとったらとったでまた考えることも多いし、辛いことも多いなと思いませんか。私なんかしょっちゅう思っています。でもそんなしょんぼりした気持ちでばかりいられませんもの。人は年老いても内側には少年少女がいつまでも住んでいるんですって。私、それって当たってると思います。キッカケさえあればいつだって童心に還ることができるんです。私はそのキッカケをお金にしようって決めました。だってお金があれば何だってできますでしょ。しかし生憎私はお金にあんまり好かれてないようです。だからあなたにお手紙を書こうと思って。お金を貸してくださらない? 少しでいいのよ。少しといっても、そうね、五万円ほど。都合つかないかしら。お返事をお待ちしております。

追伸
念のため銀行口座を書いた紙を同封しておきます。この手紙があなたのお家に届くことを祈って投函します。だって覚えてるかしら、バッタリ会ったのが最後だからかれこれ20年だもの。

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