オカマとの出会い
オカマは私よりも年上で、学年が違ったが、全校集会などではいつも女子に囲まれていて目立った存在だった。
背筋はぴんと伸びていて姿勢がよく、手をひらひらさせながらにこにこ喋って、笑い声は遠くまで響いた。
女子の相談事にのってあげることが多く、オーバーリアクションなところがみんなに好かれている要因だったのではと感じる。
一方私はというと、友達も作れず一人でいることが多いだけでなく、勉強にもついていけずよく教室を抜け出していた。
そのため、時々カウンセリングルームに通い、優しい先生にいろいろと話をきいてもらっていた。
そして、彼女もまたカウンセリングルームに通っており、なんだかいつの間にか仲良くなっていった。
「ほら、同性愛っていうのも一つの精神的な病気なんだって」
と彼女は語っていた。
また、カウンセリングルームの先生は「景子は物事を尾ひれをつけて話すことがあるから気をつけてね」と注意された。
だから、いつも景子の話す話には嘘が多かった。
けれども、物事をいつも馬鹿正直に受け止めてきた私には、その虚構話は最高に面白かった。
川沿いの道を二人でずっと歩きながら話し、その時好きだった人の話とか、近くの高校の男子に人目ぼれしちゃったとかとにかくいろいろ話した。
彼女のお宅にも頻繁にお邪魔した。
しかし、彼女の両親は私のことをあまりよく思っていなかったらしい。
「また女を連れてきたって思われてるわ」と、彼女もあまり両親と上手くいっていないようだった。
録音してあったラジオを聴いたり、マリリン・モンローの「紳士は金髪がお好き」を繰り返し興奮しながらみた。
「いいね!マリリン・モンロー!かわいすぎだね!こんな女の人になりたいね!」
「もちろんよ!絶対整形してこんなスタイルになるんだから!」
そんな冗談もいいあった。
そして、時々駅を乗り継いでプチ遠出みたいなこともした。
中学生の自分にはそれが新鮮だった。
ショッピングモールで、ニキビに良いと言われる洗顔料のサンプルを大量にとっていったり、フェイクファーを手に取り「オードリーみたいね」と談笑した。
モールの最上階で、ジェラートを買って半分ずつ分けたり、待ちゆく人を眺めていろいろネタにして話すのが得意だった。
「今の見た?あれはキャッチの男よ。ほら、また女に声をかけてる。いやあねぇ」
「あの女の服見た?ああいうのウンコスタイルっていうのよ。ほんと嫌らしい」
「みて!あのおじさんの歩き方面白いわね!」
私は、人がどうしているこうしているということに、全く興味がなかったので彼女の人を見る目の鋭さにいつも感心させられた。
テレビでも、いわゆるオカマタレントがでてくると、人の挙動や身なりをものすごく観察している人ばかりだ。
彼女もそうだった。
人をみる感性が有り余っていたんだ。
それと同時に、人から自分がどう見られているかということも敏感に感じとっていた。
「今あのおじさんに見られてた」
「見られたらこうやって、いつも睨み返してやるの。みてるんじゃねぇって」
「街中にいるとね、本当にいろんな人に見られて嫌なの」
しかし、私はその一つ一つの目線に全く気付くことがなかった。
「だからあなたと歩くと本当に落ち着くのよ。心強いの。本当にあなたのこと大好き」
彼女に大好きと言われるとやはり嬉しかった。
このまま幸せな関係がいつまでも続けばいいと思っていた。
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