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娘ちゃんとぬいぐるみサン

前回の記事では、繊細娘ちゃんの心の内がイマジナリーフレンドの存在から透けて見えるようなエピソードを紹介しました。

感性の繊細さゆえの膨大なインプットを、どのように整理・アウトプットするのか。A先生のお話から、ぬいぐるみサンがそのサポート役を担っていることがうかがえました。

今回はそんなぬいぐるみサンと娘ちゃんのお話です。

娘ちゃんとぬいぐるみサン

娘はぬいぐるみが大好きで、1歳代後半からぬいぐるみをかわいがっています。最愛のぬいぐるみは1~2週間ごとに変わり、ぬいぐるみとのやりとりを楽しみます。それぞれのぬいぐるみの性格にさほど違いはないようで、「〇〇って言って」という要望してくるセリフは決まったパターンです。
多くの場合、娘がお姉ちゃんとなり、赤ちゃん・わがまま・甘えん坊というキャラのぬいぐるみをたしなめます。

保育園に行く朝は、一緒に出掛けるぬいぐるみを決めるにあたって次のようなやりとりが繰り広げられるそうです(ちなみに、園にはぬいぐるみを持っていけないため園の駐車場でバイバイするとのこと)。

 娘ちゃん:(ぬいるぐみサンたちに向かって)今日は誰が一緒に行きたい?
 ぬいぐるみ(A先生):わたし行きたい!/わたしも!/わたしも~♪…

そうして選ばれた一人(?)のぬいるぐみサンが、チャイルドシート替わりのドリンクホルダーに乗せられ出発するのだそう。

保育園に行くのが辛いとき、娘ちゃんはぬいぐるみサンのセリフを担当するA先生に「『保育園行かないで』って言って」とリクエストをし、娘ちゃんが保育園に行かないようにぬいぐるみサンが引き留めるやりとりになるそうです。そのやりとりは、園に行かなくてはならないことを頭でわかっていて、それを自分に言い聞かせているかんじとのこと。“園に行かなければいけないけれど気持ちが乗らない”という葛藤がなく保育園に行きたくない気持ちが固まっているときは、娘ちゃんは自分の言葉で「今日は行きたくない」と伝えるのだそうです。


娘ちゃんの気持ちに余裕があるときは、次のようなやりとりにもなるのだとか。

~娘ちゃんから「今日はぬいぐるみちゃんが初めて保育園に行くってことね」と場面設定~
 ぬいるぐるみ(A先生):保育園ってどういうところ?
 娘ちゃん:友達がいて、先生がいて遊ぶところ。先生には「ダメ」って言われし、人もいっぱいいるから気を付けてね。
 ぬいぐるみ(A先生):娘ちゃんは初めて保育園に行ったとき、どう思った?
 娘ちゃん:いっぱい人がいたから怖かった。でも大丈夫、慣れるから。


日常のやりとりでは、娘は嫌だったことや不安なことなど自分の言いたいことを話すことが多く、私が聞きたいことはあまり教えてくれません。
ですが、ぬいぐるみを使って気持ちを聞くと、調子が良いときは答えてくれることもあります。ぬいぐるみを介した方が本人の気持ちに触れるやりとりがしやすい気がします。


このようなぬいぐるみサンとの会話の中で、年中さんだった頃の娘ちゃんはいたずらをしたり他のぬいぐるみをいじめたりする様子がありましたが、年長さんになってから、それが減ってきたそうです。
その変化についてA先生は「以前は保育園で自己主張をすることができず、その分ぬいぐるみに対して、わがままや攻撃性を出していたのかなと思います。年長になったころから娘は自己主張や攻撃性を保育園でも出せるようになってきたので、ぬいぐるみにぶつける必要がなくなったのかなと思っています。」と話していました。


娘の場合、外の世界で経験する病院受診、保育園での生活、お買い物…そういった日常の出来事をぬいぐるみとの遊びのなかでも改めて再現しているようなこともあります。例えば、歯科受診で緊張したとか、先生に怒られたことなど、ネガティブな印象を受けたことを再現するようなことも多いです。
クリエイティブに遊んでいるというよりも、経験したことを自分の中で消化している感じに近いですね。


娘ちゃんには、バブ子ちゃんと言ってかわいがっているぬいぐるみサンがいるそう。ある日バブ子ちゃんと一緒に外出した先で娘ちゃんが、A先生の知人に会い、連れていたバブ子ちゃんについて尋ねられると「あかちゃんマンです」とサラリといってA先生を驚かせたそうです。

相手や状況をみて“ふつうの会話”に合わせられてしまう器用さは、繊細さゆえかもしれません。そのとき飲み込んだ自己表現を発散する出口としてぬいぐるみサンとのやりとりが必要なのかもしれませんね。

イマジナリーフレンド

ぬいぐるみを相手としてマイシナリオのごっこあそびを楽しむのと似て、実在しない存在「イマジナリーフレンド」とあそぶ人もいるそうです。

前回記事にした、娘ちゃんにとっての“ねーね”の存在がそれに当たるそう。

イマジナリーフレンドとのやりとりは、自分がコントロールできる安心な世界と言えます。自閉スペクトラムの子、とくに小学生年代にそれを持っている子がいますが、“人に言うとおかしいと思われるから”と、イマジナリーフレンドと人前で話したり、その存在をオープンにしたりすることは少ないです。
想像の世界で遊ぶイメージで、国や会社などコミュニティを独自につくり、その中でストーリーを構成して会話などやりとりを展開します。あるお子さんは、イマジナリーの会社組織を持っていて、現実世界でのストレスや緊張が高まるにつれ会社で抱える社員数が増えていくというように、外でのストレスが多くなると、ファンタジーの世界への没入度が高まるような印象もあります。外の世界で、世界に合わせて疲れた分、自分の思い通りになるファンタジーの世界で自由に遊んでバランスをとっているのかなと感じます。


A先生のお話はここまで。

「消化」という言葉がとても印象的でした。
膨大な情報を消化して自分の中におさめる、言えなかった気持ちを表現する、そんなプロセスを助けてくれるのがぬいぐるみやイマジナリーフレンドとの安心安全な時間なのですね。

近頃よく耳にする「多様性」という言葉には様々な側面がありますが、社会・経験を消化する速さやプロセスもその一つになるのかなとも思いました。

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