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新しい職場(新規レストランの立ち上げ)

今月の頭から新しい仕事に就いた。新規オープンのレストランでのクッカーの仕事だ。適当に求人サイトを徘徊して見つけた。

求人の投稿には新規オープンのレストランと場所や労働条件等の情報が記載されていた。新規オープンゆえに先輩という存在がいない。

どんな時でも下っ端の自分は、俗にいう兄貴や姉貴達に頼りっぱなしの人生だった。たまにはこういうのも良いかなと思い速攻で履歴書を送付し面接にこぎつけた。
自分はそろそろ年相応の振る舞いをしなくてはならない。同級生はみんな家庭を持っている。

マイケルジャクソンが亡くなったタイミングでこの世からネバーランドは消えた。成長なくして俺たちに生きる場所は無い。特に日本では。

このまま帰国すると俺は間違いなく渡航する前と同じ生活を繰り返す。
一生働いて絶望して一生リッチになれない。俺だって一度は成城石井で買い物がしたい。

話を戻す。後日面接会場に行った。集合場所はレストランの住所。行ってみるとまだ内装の工事をしていた。これが新規オープンってやつかと少しワクワクした。

店の前に恐らく私を待っているだろう的な人を見つけた。目線を送る。
向こうから私の名前を呼んできた。こういう時に自分は自分から話しかけることをしない。卑怯だから。

工事中なので別の場所に移動して面接を受けた。話を聞くとミドルイースタン(中東)系のレストランでピタサンドをメインに商売をしていくらしい。しかも肉は使わずに豆や野菜で勝負するそうだ。

肉好きな私は、普段ならその時点で黙って席を立って家に帰っていただろう。しかしたまたまその時期にミドルイースタン系の料理にはまっていた。

私がよく食べていた中東系の料理は、肉こそ入っているものの、クソほどガーリックを入れたソースや舌がぶっ壊れるぐらい塩辛い漬物で構成されていたため、肉が無くてもこの手の料理は美味いと思っていた。逆に興味津々だった。

全ての質問に”Yes!!!! OK!!!!! No problem!!!!" と答えたら三日後に採用の連絡が来た。

初出勤

そして初出勤の日が来た。面接から一週間後。その時もレストランは工事中だったため、コロナでクローズしている別のレストランを借りてそこでトレーニングを受けるという予定になっていた。

集合場所に出向くとそこには面接をしてくれた店長がいた。店長以外は私だけ。個別で時間を設けてトレーニングしてくれるのかと感心した。

と思いきや全然トレーニングでは無かった。

店長は未だにメニューを考えているとの事。試作品を作るからそれを手伝ってくれとの事だった笑。
オープン来週ぐらいだよな?まだメニューが完成していないってあり得るのか、、、しかしここはカナダ。なんの驚きもない。

さらに面白いのは、今から作る料理を後ほどやってくるオーナーに試食してもらいジャッジをしてもらうというイベントが待ち受けているってことだった。
聞いてねえよと思いつつも面白そうだなって感じでドーパミン過多状態に陥った。

店長も少し緊張してたのか、"この後なにをつくるの?"と聞くと"俺もわかんねえ"と返してくれた。その時に2人の距離が縮まった感じがした。

その日はひたすらにファラフェルというひよこ豆ベースのコロッケのような物と、ハムスというこれもひよこ豆ベースのペーストを作った。

その日は豆を食い過ぎて体がおかしくなった。夜寝ているときに足が攣って2回ほど起きた。身体が順応出来ていなかったようだ。

ひたすらに豆料理を作ってひと段落していると、オーナーがやって来た。
胡散臭いスーツを着こなした六本木にいるポンチ詐欺師みたいな身なり人間が偉そうにやって来ることを予想していたが全然違った。というかオーナーは一人じゃなかった。
四人いた。

一人はパーマでキャップをかぶった何歳か分からない人当たりのめちゃくちゃ良いおっちゃんとにいちゃんの間みたいな人。
違うレストランでファラフェルを買ってきてこれと食べ比べてみようぜ!って感じでやって来た。

もう一人は映画【バーフバリ〜伝説誕生〜】の主人公にそっくりのおじさん。
平気で人のレストランでタバコを吸い出した。
もしかしてこのレストランのオーナーなのか?でなければ何かこの人は違うルールで生きているタイプの人間だ。伝説なので問題はない。

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    【バーフバリ〜伝説誕生〜】

もう一人はタトゥーバリバリの少し若めのおじさん。自分の好きなローカルブランドの服を着ていたからそれについて言及すると、”あの店のオーナーは僕のBEST FRIENDだよ!”とのこと。直ぐに仲良くなった。


こちらの国の人はしばじばベストフレンドという言葉を使う。本当に仲が良いのかは分からないがこの感じが大好きだ。ブラザーやホーミーにファミリーといった言葉も。

こっちでは”彼はただの知り合い”みたいに言う人は少ない気がする。

最後の一人は2mぐらいの身長のあるLed Zeppelinのマーチをきた一番年配の方。オレンジのキャップを被っている。お洒落だ。
口数は少ない。愛想も他のオーナーと比べて良くはない。激ネガな自分は初見で彼は私のことが嫌いだろうと思ってしまった。

試食会その1

試食会が始まった。オーナー達が店長と私が作った料理を次々に口に運ぶ。
彼らもミドルイースタン系の料理にそこまで馴染みがないのか、
”こんな味なんや!いいやん!うめえ!”ぐらいのペースで話が進む。

良い感じに時間は流れているがオープンは一週間後だ。大丈夫なのかこれで?とずっと眺めていた。

するとLed Zeppelinのマーチを着たオーナーが、”何か目玉になる商品を作らないとなあ”と言い出した。

おい、待ってくれ。目玉は今あなたが食べているピタサンドだろ?何度も言うが来週オープンするっての知ってるか?って感じになって笑ってしまった。

時間軸が違う。これがカナダ。

Led Zeppelinのマーチを着たオーナーは更に、”これを油で揚げたらうめえんじゃねえか?”と言い出した。

これだよこれ!これが海外だよ!って少し離れたところで一人で興奮していた。 

試食会その2

沢山の課題を抱え次の日も同じように試食会が行われた。この日はオーナーが彼らの友達を連れてきた。自由だ。店長にあれは誰?と聞くと、"分からない、リッチピーポー"と答えた。

揚げたピタサンドは案の定美味かった。しかし揚げたピタに揚げ物のファラフェルを挟むのでバカみたいにヘビーだった。案の定誰も完食できなかった。

二日目に暴走したのはパーマでキャップのオーナー。
彼は食べ物が本当に好きな感じだ。塩やシーズニングをこれでもかとかける。多分俺と一番味覚が近い。

店長が作った付け合わせのフライドポテト、私も味見をしたが少し塩気が足りなかった。普通はこれでちょうど良いのだろうが、バグった私の舌ではなんの味しない。

パーマでキャップのオーナーが試食すると案の定”もっと塩とスパイスを入れたほうが良い”と言うことだった。

店長が”まだ入れるんですか?”と聞いても”もっといけ!まだまだ!”と言う感じで塩を求め続ける。

塩に対する価値観の違いは男女間に置けるいわゆる夜の営みの価値観の違い以上にお互いの関係性に大きく関与してくる。

遥か昔”塩”によって戦争が勃発した程だ。それだけ重要なことである。

しこたま塩を入れさせたのちに味見をしたオーナーは”Yessssss!!!"と叫びガッツポーズをした。オーガズムに達した人間を見てるようだった。すこしうるさかった。

私もそれを食べたがガッツポーズはしないものの多幸感に包まれて”Oh my God! It's soooooooo nice!!"と小声で叫んだ。

薄味派の店長は最初はそんなに?みたいな顔をしてたが”このレストランでは濃い味が正義”と言う絶対的なルールが出来上がった瞬間を目の当たりにし、なんとなしにそれを理解した感じだった。

その日は私もオーナー直々にピタサンドの作り方を習った。

オーナーの理想とするコンセプトとしては具をこれでもかと詰め込み、原型を留められないぐらいパンパンにしてそれを包み紙で包んで形を保てみたいな感じだった。

ドカ盛りの文化を大事にしている私には容易に理解できる内容だ。
しかしファラフェルを3個も入れろと言う指示が出た。

直径3センチのコロッケのような揚げ物が3個も入ったサンドイッチ、マジでヘビーだ。

そこにいた全員が”これは多すぎるだろw” となったが、彼は”これでいいんだよ!行こうぜ!”と聞く耳を持たなかった。

案の定そこにいた誰もが完食できなかった。

全員が右手に食べきれない一口齧ったファラフェルを持っていた。

めちゃくちゃ面白かった。しかし俺が揚げたファラフェル。全部食えよと思った。

と言う感じで試食会は終わった。

最後に”このレストランはいつオープンするのか?”と聞くと、”工事が終わらないと分からない”との返答がだった。
了解した。何も驚かない。

そしてそれ以降決まっていたシフトも全部後ろ倒しになり今に至る。


いつになったら働けるのか。
今後どうなるかが楽しみです。

終わり。

トップ画像は試食会のために借りたレストランの店長。壁に打ち付けたポテトを棒状にする器具でひたすらフライドポテト用のポテトを準備していた。次の日からリオープンするらしい。







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