エッセイ | 解散権は総理大臣の専権事項なのか?
序
最近、衆議院にいわゆる「解散風」が吹いた。選挙が近い云々ということに特に強い関心があるわけではない。しかし、NHKをはじめとする報道機関が「衆議院の解散権の行使は、総理大臣の専権事項である」と言っているのを聞くと、違和感を覚える。
今の内閣を支持する・支持しないということは言うつもりはない。現行の憲法では、衆議院の解散について、どのように規定されているのかということを書いてみたい。
(1)日本国憲法には解散権を明示した規定はない!
芦部信喜「憲法(新版 補訂版)」(岩波書店、1999、p299)を引用する。
まず、確認しておきたいのは、解散権を明示した憲法の条文はないということである。
仮に解散権というものがあるとしても、その権限は「内閣」にあるのであって、「内閣総理大臣」個人にあるわけではない。
(2)なぜ「解散権は総理大臣の専権事項である」と言われるのか?
憲法に明文はないが、衆議院の解散権は「内閣」にあるとするのが慣例である。また、内閣の決定は「全会一致」、つまり、すべての大臣の合意が必要である。
仮に一人でも反対する大臣がいる場合には、閣議決定することができない。内閣総理大臣一人の意思だけで、決められるわけではない。
しかし内閣総理大臣には、「国務大臣の任命及び罷免」する権限がある。
たとえば、閣議において、内閣総理大臣が衆議院の解散を決定したいと思っても、解散に反対する大臣が一人でもいるならば、解散はできない。
そのような場合には、反対する大臣を罷免(辞めさせる)して、総理大臣が罷免した大臣の職務を兼務するか、あるいは、衆議院解散に賛成の大臣を新たに任命するか、ということになる。
(3) 解散に反対する大臣もいた
記憶に比較的新しいところでは、小泉純一郎総理大臣が「郵政解散」を行おうとしたとき、反対した島村農相を罷免して、小泉総理が農相を兼務することにより、解散に踏み切ったことがある。
総理大臣に大臣の任命権・罷免権があるから、反対する大臣がいれば、賛成する者を新たに任命するか、総理大臣が自ら兼務すれば、解散することは可能だ。
(4)しかしながら。。
「解散権は総理大臣の専権事項だ」という言い方は、実質的には正しいのだろう。
そういったほうが確かに分かりやすいのだが、やはりおかしい。
というのは
①そもそも、憲法に解散に関する明文がない。
②かりに解散権というものがあるとしても、それは「内閣」であって、内閣総理大臣一人の権限ではない。
からである。
まとめ
「分かりやすいこと」が求められる時代である。
しかし、分かりやすくても、誤解をまねくような言い方は慎んだほうがよいのではないか?
政治関係の報道では、どうしても、興味本位になりやすい。冷静に憲法や法律を吟味することが必要だろう。
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします