連作短編集 | 夢十夜
第一夜
こんな夢を見た。
疲れが溜まっていたせいか、スマホを持ったまま、いつの間にか眠りに落ちていた。
気がつくと、どうやら何かのテーマパークの入口に立っている。中年の男性がほうきを持ちながら、一心不乱に清掃作業をしている。
「お出かけですか?」とその男性は私に話しかけてきた。お出かけも何も、私はテーマパークにやってきたのだ。私は、そんな質問は愚問だと思った。
「いや、この中に入りたいのです。どうしたら中に入れますか?」と私は至極真っ当な返事をした。
それに対して清掃員の男性は答えた。
「レレレ・・・」
第二夜
こんな夢を見た。
どうやら、前日に見た夢と同じテーマパークにいるようだ。
私はパーク内の食堂で何か食べようとして、メニューを見ている。だが、ウェイターが来る気配がない。
「この店の照り焼きバーガー🍔を注文したいのですが。。。おいしいですか?」
私は近くにいた、常連客らしい白いハチマキをした、ちょび髭をはやした男性に話しかけてみた。その男は腹巻きに手をつっこんだまま、こう言った。
「賛成の反対の反対の賛成のなのだ。」
「訳がわからない」と叫んだところで目が覚めた。
第三夜
こんな夢をみた。
まだ歩くことはできないが妙に賢そうな子供を背負っている。たしかに自分の子供である。不思議なことに、子供を背負った私のあとを、あまり賢いとは思えないような青い服を着た男の子がついてくる。その両頬には、奇妙な渦巻き🌀模様が見える。
「君はだれかな?」と私は青い服の男の子に話しかけた。
「ぼくのことはよく知ってるはずだよ。」とその男の子は言った。
「君のことは全く知らないよ・・バ、カ、ボ、ン」と無意識に言ったところで目が覚めた。
第四夜
どこか場所はわからないが、他人の家にいるようだ。
「今になる、バカになる、きっとなる、バカになる、」
「浅くなる、朝になる、素直になる」となぜか歌いたくなったときに目がさめた。
第五夜
こんな夢を見た。
だいぶ昔にタイムスリップしたようだ。新聞には、1543年と記してある。
いきなり「本官をバカにするのか?」とふたつの目玉がひとつにくっついた化け物に話しかけられた。
どうやら、私は彼の敵のようだ。
新型の鉄砲で撃たれたと思った瞬間に目が覚めた。きっと、これでいいのだ。
第六夜
常陸国、牛久と呼ばれる町で、大仏を刻んでいるという評判だから、散歩がてらに行ってみた。
「しかし、でかいもんだなぁ」と私は思わずつぶやいた。
「なあに、遠くから見えればそれでいいのさ。美しさや風格なんてあとからついてくるんだかんね。」とやや訛りのある言葉で、近くにいる男に話しかけられた。
「無造作に作ってるわけじゃないし、町のランドマークになるよ。目立つんだかんね」と言われたときに目が覚めた。
第七夜
何でも大きな船に乗っている。豪華客船のようだ。
「大変だ。氷山にぶつかる。」と言う声を聞いたあと、船が沈みはじめた。
「タイタニック号は間もなく沈没します。救命ボートにお乗りくたさい。」と言うアナウンスを聞いたときに目が覚めた。
第八夜
どうやら今日は床屋にいるようだ。赤と青縞模様の服を着た、眉毛をしっかり描いた小柄な美しい女性に散髪してもらっている。
そのあと、洗髪した。
「お湯加減はいかがですか?」と尋ねられた。
「大丈夫です」と私は答えた。
「かゆいところはありますか?」
「大丈夫です」と私は答えた。
本当は若干、股間がかゆかった。
第九夜
世の中がなんとなくざわつき始めた。今にも、戦争が起こりそうに見える。
布で顔をおおった人々は、昨年からの行動抑制で、気分的に落ち込んでいる。
まだダメなのか?もっと旅行したい。
「選挙が近い」と、つぶやいたときに目が覚めた。
第十夜
王妃がさらわれるとのうわさ話を聞いた。
さらわれる、といっても王妃ご自身の決断である。
そっと温かく見守りたい。
そう思ったときに目が覚めた。
王妃の心は王妃のものなのだろう。
私には何もいえない。
昨年9月に投稿した小説です。若干改行した箇所がある。
言うまでもなく、夏目漱石の「夢十夜」を下敷きにしているが、昨年の世相を反映させた箇所もある。