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短編 | イケメンじゃないほうが良かったのに。


「あの、何か?」というのが、ぼくの口癖だった。
 普通に学校へ向かっているだけなのに、通り過ぎる見知らぬ女の子がいつもぼくの顔を見る。最初のうちは無視していた。しかし、ぼくのほうを見る女の子があまりにも多いから、頬っぺたにご飯粒か何か付いているんじゃないかと心配になった。

「あの、何か?ぼくの顔に付いていますか?」

「ごめんなさい、つい…」

「つい、何ですか?」

「何でもないんです、ごめんなさい」

 どの女の子も何も言ってくれない。ただ女の子たちに対する嫌悪感が増していった。


「なんかさぁ、女の子って気味が悪い。何の用事もないのに話しかけてきて、人の顔をジロジロ見て、こっちから話しかけると逃げていくから」

「それって、お前がイケメンだからじゃないか?」

「ぼくがか?からかわれてるとしか思えないんだけど」

 そうなのかなぁ。ぼくはイケメンなんだろうか?

「どうすればいい?」ぼくは友人に尋ねた。

「どうすればって言われてもなぁ。今度、お前のことをジロジロ見てくる女の子がいたら、黙って手をとって握ってやれば?」


 ぼくは半信半疑ながらも、友人の言う通りにしてみようと思った。


 明くる日、今日もまたぼくをジロジロ眺める人がいた。しかし、今日は女の子ではなく、年上のお姉さんだった。

「キミ、かっこいいね」

ぼくは黙ってお姉さんの手をとり、ギュッと握りしめた。

「キミ、積極的だね。お姉さんといいことしようか?」

「いいことって何ですか?」

「わかってるクセに…」


 ぼくはお姉さんと一緒に歩いた。気が付くと人気のない神社にたどり着いていた。

「あたしのこと、好きにしていいのよ」

「好きにして、と言われましても」

 ぼくがなにも手を出さない様子にしびれを切らしたお姉さんは、ブラウスのボタンを外し始めた。上半身はブラ1枚になった。

「これ外してくれる?」

「わかりました」

 お姉さんのブラに触れた。少し汗をかいていて、湿っていた。

「アレ?外れない」ぼくは初めての経験に戸惑った。

「あわてなくていいのよ」


 その夜、ぼくはお巡りさんに補導された。

「そんないいわけが通用すると思うかい?キミに服を脱がされた女性は、キミに無理やり裸にされたと言っているぞ。正直に話したほうがいいんじゃないか?」


 結局ぼくは、高校には戻れなくなった。学校をやめざるを得なかった。


 ぼくはそれ以降、すべての女に塩対応することにした。陰で、みなぼくのことを『塩人』と呼んでいるらしい。

(1006字)
おしまい


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