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【月と蟹】道尾秀介

※インスタに投稿した記事より、一部加筆修正してお届けいたします。


 思春期の入口に差し掛かろうとする、三人の子ども達の物語。

 三人だけの世界で行われる、無邪気で残酷なヤドカリの嬲り殺しを伴う「儀式ごっこ」は、多感な子ども達の揺れ動く繊細な心でエスカレートし、切実でリアルな祈りへと変貌していきます。純粋だからこその残酷さとナイーヴな感性、自己を確立しつつあるものの、まだまだ童心も消えない「大人のなりかけ」。
 不十分な経験に基づくセンシティブな言動は、まさに思春期を迎えようとする「子どもの終わりかけ」。
 そんな三人が、様々な体験を通じ、危うい均衡の関係性が不穏な方向へと揺らぎ始め……

 この年代の子どもは、精神も肉体も、再形成の為に一度アンバランスに崩れ、不安定になるのかもしれません。
 そんな心身ともに「難しい」年頃ならではの閉塞感に押し潰されそうになり、身勝手な大人の言動に翻弄される三人の子ども達の危うさに振り回されます。
 ヒヤヒヤでもドキドキでもイライラでもない、言いようのない粘着質な感情がまとわり付いて離れません。だからこそなのか、後読感は決して良くはありませんが、色んなシーンが脳裏に生々しく焼き付いており、不思議とその映像は脳内でノスタルジックに、とても美しく映るのです。

「大人になるのって、ほんと難しいよね」

 誰もが通った道。そう、大人になるのは難しい。でも、誰もが気付いたら大人になっています。

 少しグロテスクな描写もあり、受け付けない人もいるかもしれませんが、子どもから大人への不安定な過渡期を書いた秀作だと思います。

直木賞受賞作です。

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