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【どこかでベートーヴェン】中山七里

※インスタに投稿した記事より、一部加筆修正してお届けいたします。


 シリーズ4作目はベートーヴェン!
 前作【いつまでもショパン】のスケールの大きさとは打って変わって、今回の舞台はとある高校です。
 時代設定は、このシリーズの主人公、ピアニスト探偵の岬洋介が、まだ高校生の時にまで遡ります。

 このシリーズは、最初の二作、つまり【さよならドビュッシー】と【おやすみラフマニノフ】は、どんでん返しを含めたミステリ要素にある程度の比重(と言ってもそこまで重くない)が置かれていた印象ですが、【いつまでもショパン】と本作は、かなりミステリ要素は希釈されているように感じました。
 その分、音楽やピアノへの造詣、楽曲のアナライズ、そして、ピアニスト、もっと言えば音楽家や芸術家の在り方など、普遍的なテーマがメインに近いのかな? と思います。
 とは言え、ミステリじゃないわけではありません。キッチリと事件と推理を絡めていますので、私みたいな音楽好きのミステリ好きには、たまらないシリーズです。

 また、四作に一貫して共通していることは、演奏描写の秀逸さです。運指もアナライズも演奏表現も、専門書より詳細でドラマチックに描かれており、演奏シーンの度に目が離せなくなります。
 その臨場感は、コンサート会場にいるような錯覚さえ覚え、生々しく心に響くほどです。これだけでも、好きな人にとっては読む価値があるかもしれません。

 本書に限っては、登場人物の大半が高校生という、ある意味で青春群像劇のような側面があるのも、大きな特色で魅力でもあります。
 思春期ならではの妬みや僻み、疎外感、親子関係、友情と恋愛、虐め問題、社会への不満、大人への反発、閉塞感、仲間意識、群集心理……一言で言えば、様々な『歪み』が終始散見されるのです。
 そう言えば、舞台となる学校も社会的な「歪み」から生まれ、立地条件の「歪み」もミステリの重要なポイントになります。
 だからこそ、純粋で真っ直ぐな岬洋介の存在が際だって映えるのかもしれません。

 余談ですが、最後の最後にエラリィ・クィーンを彷彿とさせる小洒落たオチがあり、おもわずニヤっとして本を閉じました。


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