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貴方とゼロになる

(本作は1,647文字、読了におよそ3〜5分ほどいただきます)

 ネガとポジは陰と陽……そう、平たく言えば反対言葉、つまり対義語ね。でも、対義語は反発し合う言葉じゃない。補完し合うのよ。だから、合わせるとフラットになる。ゼロでもいいわ。凹と凸もそう。プラスとマイナスも同じ。右と左、白と黒、理系と文系、知性と本能……他にもあるかしら?  でもね、大切なことはバランスよ。力量に偏りがあると、重ねても平にはならず、大きい方の特性が残るの。時には、飲み込んだり、吸収したりね。数学も物理も音楽も料理も、全部同じでしょ? 対等に、ピッタリとフィットしないと補完は成立しないのよ。
 男と女? そうね……互いに、欠けてるところを求め合う点は、補完関係に違いないわね。え? もっと艶めかしい話? そうね、舌を絡める時も身体を重ねてる時も、やっぱり相性って重要でしょ? メンタルもフィジカルも、それこそ、ピッタリとフィットする人と重なりたいものね。
 話を戻すわね。もし、男と女という意味で、私と貴方が対義語なら、貴方と彼女も対極に位置するわね。ってことはね、数学的に私は彼女と等価よ。いえ……そうね、実際は等価ではないのかも。ただ、属性は同じね。浮気とか不倫というのは、単に名称の問題。チャプターに過ぎないわ。そして、名前は記号。重要じゃない。重要なのは本質。本質の姿形は、名前が変わっても不変よ。不変は普遍。不変なものは、普遍的なものでもあるわ。私と貴方の関係も普遍的。その関係をどう呼ぶかなんてどうだっていい。道徳も価値観もどうでもいい。そんなもの、コミュニティが都合良く押し付ける、その場凌ぎの糞ルールよ。だって、社会の変遷でそれらも変わり続ることは、世界中の歴史が証明してくれるでしょ? だから、本質的とは言えないわ。だって、本質は変わらないもののこと。私たちは、愛し合うし求め合う。この感情と行動こそ本質。抱き合ってキスして、セックスして、フラットになる。真逆の存在だからこそ、ゼロへの収束に向かおうとするの。
 でもね、やっぱりバランスが大切ね。彼女の存在に引け目があったから、私は貴方と一つになれても、完全な補完関係ではなかった。常に、私の絶対値の方が小さくて、バランスは偏っていた。彼女に対してもそうね。属性は同じはずなのに、彼女の方が少しだけ、私より絶対値が大きかったの。対極ではないのだけれど、彼女が陽なら私は陰だった。いつも、彼女には陽が当たり、私は陰に隠れてた。ところがね、これからは変わるわ。想像出来る? 私はね、もう彼女と同じ属性ではなくなるのよ。
 どういうことか分かる?  貴方はね、まもなく私の一部になるのよ。どうしたの?  そんなに怯えた顔をして。これはね、セックスと同じよ。私と貴方が同化するだけ。私はね、彼女より優位な立場にいたいの。それだけよ?  たったそれだけのことなのに、貴方は彼女に陽を当て、私を陰にしたわよね?  でも、私と彼女は対義語じゃないわ。だから、同じベクトルで競うつもりなんてない。もっと簡単で確実な方法があるからね。それはね、私の中に貴方を取り込むこと。私は貴方、貴方は私。一つになるのよ。対義語は反発し合う言葉じゃない。補完し合うのよ。だから、合わせるとフラットになる。ゼロでもいいわ。凹と凸もそう。プラスとマイナスも同じ。右と左、白と黒、理系と文系、知性と本能……他にもあるかしら?  でもね、大切なことはバランスよ。力量に偏りがあると、重ねても平にはならず、大きい方の特性が残るの。時には、飲み込んだり、吸収したりね。大丈夫よ。貴方の全てを飲み込まないわ。私の絶対値の方が小さかったものね。ゼロになるまで……余った部分は必要ないわね。そうね、捨てちゃいましょう。それとも、彼女に差し上げましょうかしら?
 ゼロはね、何を掛けてもゼロになる。プラスもマイナスもない完成形なの。強固な同化、完璧な結合よ。私が貴方をバランスよく吸収して、ゼロになる。だから、もう、彼女なんて蚊帳の外。貴方は私、私は貴方。覚悟はいい?