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冷たい闇の中であなたを想う

(本作は445文字、読了におよそ1分ほどいただきます)


雪が降っています。 

お庭も畑も、 
公園に続く小径も、 
あなたと歩いた林道も、 
真っ白に染まっていくのでしょう。 

雪は止みません。 

家も道路も街路樹も、 
全てに、白い蓋をするのです。

街中の光も影も、 
記憶も思い出も、
雪が覆い尽くし、
暗く、冷たく、閉ざしてしまうのです。 
あなたの心のように。 

春が来て、 
再び、世界が現れても、 
あなたに降り積もった雪は、 
全てを閉ざしたままです。

あなたの心は、 
とても、硬く冷たく、 
誰にも溶かすことは出来ません。 
壊すことも。 
崩すことも。

無理にそれをしようものなら…… 
きっと、私がそうしたように…… 

そして、私は、 
春が来て、 
全ての雪が消えるまで、 
眠り続けるのでしょうか? 

雪が、 
私の体温を奪い、 
存在をかき消し、 
生命を吸収しても、 
冷たい闇の中であなたを想います。

あなたを忘れない為に、 
記憶を繋ぎ止めておく為に、 
あなたが、なぜ、私を殺めたのか、 
肉体のない、凍えた魂で考えることだけが、 
冷たい闇の中で、 
唯一、私が出来ることなのです。