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怪奇倶楽部

(本作は1,648文字、読了におよそ3〜4分ほどいただきます)


「君、怪奇倶楽部のパーティーに参加してみないか?  ……おいおい、そんな訝しい目で見ないでくれよ。確かに唐突だけど、怪しい勧誘じゃないさ」 

「実は、前から君を誘おうと思ってたんだ。だって、君、あれだろ?  言っちゃ悪いが、恋人はおろか、友達だってろくにいないだろ?」 

「ごめん、ごめん、そういうつもりじゃなかったんだ。悪かった、気を悪くさせちゃったね、謝るよ。この通りだ。だからさ、気を取り直して……そんなに怒らないで聞いてくれるかな。それに、俺だって友達なんかいないさ」 

「俺だけじゃない。怪奇倶楽部のメンバーは、皆独り者ばかりなんだ。いや、独身って意味じゃなくてね……そうだな、学生やサラリーマンもいれば主婦もいるし、ご隠居の老人もいるよ。老若男女様々だけど、共通してるのは、皆孤独だってこと」 

「もう一つ、共通していることが怪奇趣味なんだ。ジャンルは様々だけどね。絵画や彫刻だったり音楽だったり。小説や漫画を書く人もいれば、映像を創る人もいる。中世の拷問や処刑の道具を収集している人もいるし、占いや魔術に凝ってる人もいる」 

「パーティーは、年に一回開催されるんだ。メンバーそれぞれが作品を出品して……まあ、言ってみたら、ちょっとした品評会って感じかな。もちろん、何も出品せずに、鑑賞を楽しむだけでも構わない。と言うか、作品を出品するメンバーは半数ぐらいで、残り半分は……俺もそうだけど、創作活動は何もしてないさ。単に怪奇物が好きってだけでね、毎年鑑賞オンリーだよ」

「パーティは、メンバーの一人が所有している古い洋館で開催されるんだけどね。夕方に集まって、翌朝に解散。特にルールとかスケジュールなんてなく、皆気ままに楽しむだけなんだ。心配しなくても、元々が人付き合いを苦手とする人ばかりだから、パーティーと言っても誰も干渉はしてこないし、自己紹介みたいなこともないよ。交流の場では決してないんだ」 

「実際、俺もメンバーのことなんか何も知らないさ。まあ、毎回顔を合わせていれば、顔見知りぐらいにはなるけど、それ以上ではないね」 

「不思議なのは、いつもパーティーが始まる時には十数人いるのに、解散する時には必ず一人か二人減ってるんだ」 

「いやいや、それがね、途中で帰ることは出来ないはずなんだけどね。いつも近くの駅に集合して、洋館の所有者がマイクロバスで迎えに来てくれるんだ。場所が山奥なので、歩いて帰るのはちょっと無理だろうな。ま、おそらく倶楽部のスタッフで、掃除とか後片付けで残ってるんだろうなって思うことにして、大して気にもとめてなかったんだけどね」 

「まあ、そんなことはどうでもいいんだ。それより、君も一緒に行ってみないか?  絶対に退屈しないさ。それに、晩餐だけでも行く価値あるよ。料理好きのメンバーもいてね、彼の作る奇妙なディナーは、皆が一番の楽しみにしてるんだ」 

「君も、まぁ、こう言っちゃ失礼かもしれないけどさ、その体型ってことは食べることも嫌いじゃないだろ?」

「怪奇倶楽部だけのことはあってさ、まともな料理はないんだ。所謂珍味ばかりだね。あ、因みに、虫とかゲテモノの類いは出ないから、その点は安心して。料理好きのメンバーと言っても、ちゃんと調理師免許は持ってるし、今は隠居の身だけど、一応プロのコックとして長年働いていた人だ」

「なんと言っても、彼の作るメインの肉料理は、一口食べると病み付きになること、保証するぜ。他所では絶対に食べられない料理でね、ちょっと筋っぽいんだけど、クセになる味で毎年待遠しいぐらいだよ。ワインともよく合うんだ」 

「パーティーと言っても、会費は不要、会場は提供されるし、運営はメンバーそれぞれが順番で係りを設けて回してるんだ。まぁ、係りによっては、多少は実費が必要なこともあるけど、大した金額にはならないよ」 

「俺の係り?  今年は食材の調達……じゃなかった、い、いや、そのぉ……新規メンバーの勧誘係をやってるんだ。それで、君を誘ってみたってことさ」