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コミュニティー資産とそれを築くための投資が致命的に重要なワケ

資産というとまっさきに思い浮かべるのは「金融資産」でしょう。貯金とか不動産とか株式とか。世にいう資産家とは、そうした金融資産を沢山もっている人たちです。金融資産は強力な力を持つので、資産家はだいたい権力者でもあります。しかし、その地位が盤石かというと、必ずしもそうではありません。投資に失敗したり株が暴落したりして、一夜にして資産と権力を失う、などということもままあります。

その点、「経験資産」はそう簡単にはなくなりません。一大事業を築いた起業家が、大きな失敗をして無一文になった後、そこからまた這い上がってきて別の事業を成功させる、という例はいくつか思い浮かびます。そうして立ち上げた次の事業が、最初の事業より大きな富を生み出したりもします。最初の事業で築いた金融資産を失っても、そこで培った経験資産は、決して一夜にして無価値になったりはしないのです。

とはいえ、そんな経験資産とて、決して永遠なるものではありません。昭和の時代に事業を大成功させた経験は、令和の今にそのまま通用するとは限りません。金融資産のように奪われたり、一夜にして消えてしまったりはしませんが、いつかは古びてなくなってしまうものです。それに対して、同じく永遠でこそありませんが、自分が生きている限りは、そして自ら壊してしまったりしなければなくならない、とても息が長い資産があります。それが「コミュニティー資産」です。

コミュニティー資産という言葉は、いまここで私がつくりました。なので勝手気ままに定義させていただくと、以下のようなものです。

コミュニティー資産とは、所属するコミュニティーの数と、それぞれとのつながりの深さのかけあわせであり、それがもたらす精神的な安心感、物理的な安心感、心身の健康、個性の化学反応で生まれるひらめき、あたらしい出会いの機会、新しい仕事の機会などのことである。

まず誤解していただきたくないのが、これはコミュニティーのオーナーや主催者のみのものではない、ということです。インフルエンサーや著名人が、サロンなど自分のコミュニティーを持っていると、そのコミュニティーを通じて書籍や商品をプロモートすることができます。なので、そのコミュニティーは、そのインフルエンサーにとって資産だよね、といった意味での資産では「ありません」。

ここで資産としているのは、例えばそのインフルエンサーのサロンに参加している人が、他の参加者との間に築くつながりです。それゆえ、主催者だけが持ち得るものではなく、参加者全員が手にできるものなのです。コミュニティーはサロンである必要もなく、オンラインである必要もありません。例えば、地元の町内会とのつながりを大事にし、会社を休んででも夏祭りの準備に精を出す40代の友人がいます。その友人にとって、町内会のメンバーとのつながりは、貴重なコミュニティー資産なのです。

これがなぜ貴重なのかというと、第一に精神的な安定をもたらしてくれるからです。会社が所属する唯一のコミュニティーだとしたら、そこから追い出されたりそこに居場所がなくなることは、世界の終わりにも等しい苦しみです。しかし、地元の飲み屋で町内会のメンバーが慰めてくれたら、会社でおかした大失態もしばし忘れることができるでしょう。町内会のメンバーであれば、例えば災害時などにお互い物理的に助け合うこともできます。

また、例えば自身がウェブ制作の仕事をしているとして、同じ町内会のメンバーである理容師さんから仕事を依頼される、などということがあるかもしれません。各メンバーにそれぞれ別のコミュニティーの知り合いがいることを考えると、知り合いの知り合いから仕事が入る可能性は決して低くありません。同じことが、新しいパートナーや友人との出会いについても言えます。

「LIFE SHIFT2: 100年時代の行動戦略」で、著者のアンドリュー・スコットとリンダ・グラットンは、「3ステージ」の人生モデルは終わった、と説いています。10代までに学習を終え、60代の中頃まで働いて、その後の引退生活で人生の余暇を楽しむ。そんな3ステージで人生が進んだ時代は、もはや存在しません。誰もが、学習・労働・余暇を、数年や、場合によっては数ヶ月などの短いスパンで繰り返す時代が到来したのです。そんなサイクルは、10代からはじまり80代、あるいはそれ以降まで続きます。

そんな時代にあって、メインで働く会社以外に、基盤となるコミュニティーをいくつか持つことは致命的に重要です。新しいことを学ぶのに、仲間と苦労や成果を共有しあうことは大きな助けになります。ネットワークがもたらす新しい仕事の機会は、正規のルートで仕事が見つけづらくなることを考えると、年齢を重ねるごと、転身を重ねるごとに有り難みが増していくでしょう。また、異なる個性の化学反応から、新しいアイデアの種やビジネス自体が生まれることもあるでしょう。

何より、何十年も学び働き続けるためには、心身の健康を保つことが大前提です。苦労や喜びを分ち合う仲間の存在は欠かせませんが、雇用主という「仲間の供給源」に頼れない人生のステージは、今後誰にとっても増えてくるでしょう。定年退職すればそうなりますし、より若い人でも、自由やひとときの安らぎや収入増を求めて、雇用されている状態から自らを切り離すことが普通になるからです。そんなとき、母港のようにいつでも立ち帰れるコミュニティーがあればどんなに心強いでしょうか。

どんな資産でも、築き上げるには投資が必要です。それはコミュニティー資産でも同じです。会社を休んでまで町内の夏祭りの準備に精を出すとき、友人はコミュニティー資産を築くための投資をしているのです。仕事をしてお金を稼ぐ(金融資産を築く)。学習して新しいスキルを身につける(経験資産を築く)。ここに、コミュニティーに時間を投資しコミュニティー資産を築く、という新しい時間の使い方を加えて考える必要があるのです

いくつかのオンラインサロンでは、サロン主の呼びかけに答え、無給で働くメンバーがいます。本業では営業をやっている人が、趣味の動画制作スキルを活かしてサロン主の書籍のプロモ動画をつくったりするとき、その人は本業では築けない経験資産を築いているのです。そして同時に、実はその人は、コミュニティーに奉仕することでコミュニティー資産を築いているのではないでしょうか。そう考えると、そうした行為は、時代の流れをとらえた極めて合理的なものに見えてきます。

ハーバード大学の”The Harvard Study of Adult Development”という研究は、724人の生涯を、対象者が10代のころから75年にもわたって追跡調査しました。調査対象者には、貧しい人も、恵まれた家庭に育った人もいました。社会的に成功した人も(大統領になった人も!)、アルコールで身を持ち崩した人もいました。そして、4代目の責任者であるロバート・ワルディンガー教授は、1世紀近くにわたり蓄積された膨大なレポートをこう一言で要約しました。

「人との良質なつながりが、人を幸せに、そして健康にする」

そうなのだとしたら、他ならぬコミュニティー資産こそが、人を幸せにすることができる唯一の資産なのかもしれません。

おわり

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<参考資料>

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