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1万円のお線香に火をつけて。

母親が面白いことを言い出した。実際には、「僕」にとっては面白いことなんだろうが。
親戚が亡くなったから、お線香をネットで頼んで相手宅に届けてほしいと。普通だったら、「プレゼントするから通販で頼んで」と書けばいいのだが、お供えのお線香はプレゼントではないだろう。まぁ、意味的にはそうなんだろう。でも、それは違うなと思う。

「線香はどれにすんの?」と聞くと、
「きゅうきょどう」と。

きゅうきょどう?なんだそれ?
調べてみると、お香とか和紙製品を売っている。何屋さんかわからなかった。コンビニや百貨店、ロフトみたいになんでも売ってる店は増えてる気がするけど、一見すると共通性のないものを売っているお店はそんなにないんじゃないかな、と思った。知らないだけで、あるんだろうか。そういや、金物屋さんというものも最近知った。東京のかっぱ橋が有名らしい。テレビの町ブラで観た。調理用のボウルからタコ焼き機やらかき氷機やら、屋台で使うノボリも売っていた。これは何屋なんだろう、と思った。金物屋さんなんだろうけど、そういう意味ではなくて。。。

どうやら「きゅうきょどう」は「鳩居堂」と書くらしい。
まぁ僕はどの線香が欲しいのか分からないので、母親にスマホを渡して商品を選んでもらった。数分後、選んだ商品を見てびっくりした。1万円もしたのだ。
「え?1万円分の線香も送ったら、床抜けるんちゃう?」というと、
「いや、こんなんだよ」と、母は手で写真を撮る時にしかしないであろう、親指と人差し指をピンと伸ばしたポーズで空虚に四角形を作った。あまりにも小さな四角形だった。
「何本入り?」
「何本かは分からんけど、5束くらいやで。老眼で写真見えへんけど」
とスマホの画面をこちらに向けた。老眼ではない僕が見ても、5束しか入っていないように見える。
「え?これで1万円?税込み1万千円?」
「鳩居堂って高いんよ。まぁ線香界のトップブランドちゃうか。京都の人やったらみんな知ってると思うけど。うちの爺ちゃん亡くなった時も、仲の良い人は鳩居堂のお線香くれたで。で、これを熨斗付けて、上書は御供で、下は・・・」
正直、5束の線香が1万円と知った時から疑問がいっぱいで、聞きたいことは山ほどあったのだが、指示通りに注文した。あとで通販サイトを見てみると、10束で6万円の線香もあった。

最後に「ホームセンターとかで売ってる線香と何が違うの?」と聞いた。
母は、「値段と、たぶん香り」と面倒くさそうに答えた。
線香って香りなの?匂いなの?臭いなの?と、またしょうもないことを考えながら話は終わった。

そうか。結局、宗教でも、他人に思いを伝えるのは金額なんだ。
ビッグな芸能人が結婚した時や子供を産んだ時、「あの人からご祝儀いくら貰った」とか「あいつに祝儀〇〇万つつんだわ。ほんましょうもない」とか聞くけど、「結婚する方もかなり金持ってるんやから、10万くらい嬉しくないやろ」と思っていた。違うんだな。10万は安くない。ちゃんとピン札とご祝儀袋を用意して、名前を筆で書いて、わざわざ持ってきて、挨拶してくれる。この一連の流れを、自分のためにしてくれたことが嬉しいんだ。
確かに、ここぞというときに相手へ敬意を伝える方法は、挨拶に出向くこととお金を渡すことしかない。宗教でも同じか。オリジナルのお経を入れたCDとか送っても、気持ち悪いもんね。

納得したように見えて、やっぱり、すぐ消えてなくなるものに1万か、という感覚はある。それなら、1万円分の食べ物を買って渡せば、御供にもなるし家族が食べれるじゃん、とも思う。けど、線香をあげるところが宗教なんだな、たぶん。そういうことにしておく。

お線香や仏壇の写真を記事アイコンにするのはアレだったので、蚊取り線香にした。他意はない。

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