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フォルマシオン・ミュジカルから得られるもの

今日はフォルマシオン・ミュジカルを学ぶことで得られるものについて、長所、短所を含めて書いてみたいと思います。

フォルマシオン・ミュジカルを学ぶメリット

フォルマシオン・ミュジカルには従来の読んで歌うソルフェージュとは違うさまざまなメリットがあります。ソルフェージュがソルフェージュとして切り離されているのではなく、音楽を演奏する上で直接に役に立つ技術として身につけられる教育がフォルマシオン・ミュジカルです。

課題が音楽的

本当の最初の数回の授業で使われる課題は、その時点でまだ強弱記号などを習っていないため、音とリズムだけになってしまいますが、早い時期から強弱記号、速度記号などを教えます。その学習以降の課題には習った要素が全て使われるようになります。つまり、楽譜から読み取るのは音の高さとリズムの他に、音楽を表現する要素もあるということを少しずつ学んでいくことになります。
あるフォルマシオン・ミュジカル1年目の教材では、キラキラ星のメロディーを強弱記号をしっかりつけて歌う練習をさせています。
そして、実際の楽曲からの抜粋を使って、楽典などの事項を学んでいきます。従って、音楽で音楽を学ぶようになります。理論と音楽が一致した学びになります。楽典の内容は、まず音楽があってそこから取り出された要素の集合体となっています。まずは音楽です。

初心者のうちから自分で音楽を読み込める

習い始めの頃から、楽譜から音楽を読み取る習慣がつきます。楽譜をただ音の高さとリズムが並んでいるものと捉えるのではなく、音楽が書かれているものと捉えることができるようになります。
もちろん、1年生の子供に音読をさせたらたどたどしくなるように、初心者のうちは特に、譜読みで気を付ける点をこちらが指摘しなくてはなりません。それでも最初から音楽を読み取る習慣を少しずつつけていくことは、3年後、5年後の楽譜の読み方に影響を与えます。
上にあげたキラキラ星のメロディーを7歳の生徒に歌わせましたが、こちらが促す必要はあるものの強弱をつけて歌えました。その子のピアノの楽譜にも強弱記号が書かれていますが、レッスン開始半年でこちらは時々自分から気をつけられます。
課題そのものが音楽を読み込む準備となるものになっているため、生徒たちはソルフェージュの課題でも音楽を読み取ることとなります。楽器の演奏の準備段階でも音楽を読む習慣をつけていくことで、楽器の演奏に直接役に立つソルフェージュの学びとなります。こうして、音楽演奏に大切な基本を少しずつ身につけていくことができます。

音楽耳を育てる

フォルマシオン・ミュジカルの教育を通じて、生徒たちは聴く耳、聴ける耳を育てていきます。それは絶対音感をつけるという意味ではありません。
お手本の音と自分の音を聴いて、違いを見つけ出して修正していく。音楽演奏テクニックの習得はその繰り返しです。つまり音を聴き取る力、聴き分ける力をつけるのです。音と音の間の大きさ(音程)を判別する、音の質(強弱や音の出し方)を理解する、自分の出している音の高さが基準と比べて外れていないかを認識する、といった力です。
耳が育てば、自分の演奏を聴いて間違いを判別して、修正ができるようになります。

音楽を読み込めるから、練習時間が短縮

楽譜から音楽を読み取る力がつくということは、自分の演奏の理想像を早くに掴めるということにもなります。理想が早く掴めるので、練習は理想に向かって近道を辿っていくことになります。やたらと音を出して練習しないでも済むようになります。音楽は音にして初めてわかることがあるとはいえ、なんとなくわかっているものを形にするのは、皆目見当がつかないで闇雲に弾くのより効果がありますよね。

自分で理想を見出すことができることから、練習の目標がはっきりしてくるので練習にも迷いが出ません。また、音が出せない状況でも楽譜を見て「音を出すことを想像する」力が着くことで楽器を弾く身体の動きまでイメージできます。イメージトレーニングの効果は科学的に証明されています。身体の動きをイメージしている時には、実際に動く時と同じように脳が働いています。

音楽に関する背景知識は一生役に立つ

音楽を楽しむ方法は楽器を演奏するだけではありません。聴衆としてコンサート会場に行くのも、CDを購入して家で聴くのも方法の一つです。楽器が弾けない状況になっても音楽を聴いて楽しむことはできます。
フォルマシオン・ミュジカルでは音楽史の内容にも少しずつ触れていきます。知識が積み重なることで音楽の楽しみ方が深まります。何も知らないでバッハとマーラーを聴くのはありですが、バッハとマーラーでは時代が違うと知っていれば、その音楽の作り方の違いに目を向ける(耳を向ける?)ことができます。ダ・ヴィンチのモナリザとゴッホの自画像の違いを、画家の個性の違いだけではない、時代背景から来る違いがあると認識するようなものです。

フォルマシオン・ミュジカルのデメリット

どんなにいいものでもデメリットはあります。フォルマシオン・ミュジカルの場合はデメリットを超えるメリットがあるので、デメリットがやらない理由にはなりませんが、デメリットがフォルマシオン・ミュジカルをレッスンに取り入れる際のハードルにはなりますし、そのハードルを乗り越えられないからレッスンに取り入れられないのはあると考えています。

生徒が育つまでに時間がかかる

一朝一夕、すぐに効果がわかるものではありません。そもそも教育は薄紙を剥がすようなもの、音楽もその他の分野と同様少しずつ学んでいくものです。フォルマシオン・ミュジカルは、特に初心者のうちは「なんとなく学ぶ」「少しずつ学ぶ」性質を持っています。なんとなくの学び、少しずつの学びが積み重なって初めて育った結果がわかるので、生徒さんたちが「楽しんでいる」「興味を引かれている」ことがわかっても、本当に学習の効果が出ているのか、という結果を確かめられるようになるまでには時間がかかります。
そもそもなんであれ習い事の上達を実感するまでには時間がかかりますが、音楽の場合は「弾けるようになるまで」の時間は他の習い事の比ではないと感じています。それだけの忍耐力を生徒さんと保護者さんにも求めることになります。

教えるのに時間を多く必要とする

実際の楽曲の抜粋を聴かせるのは本物の作品に触れるいいチャンスです。ただ、作品の演奏をCDなどで聴かせるのには時間を必要とします。1時間半程度の授業でやっているフランスのコンセルヴァトワールのフォルマシオン・ミュジカルならいざ知らず(それでも交響曲全楽章などは無理)、レッスンにほんの少し取り入れようという時にはこの実際の楽曲を聴かせる時間がネックにはなります。
楽曲の必要な部分だけピンポイントで取り出して聴かせて、残りは自分で聴いてもらうなどの対応が必要にはなります。

音楽に対する注意力を従来のソルフェージュ以上に必要とする

従来のソルフェージュでしたら音符が書かれている教材をやらせればそれで済みますが、フォルマシオン・ミュジカルの場合、課題から読み取れる音楽を表現する力が必要になってきます。
そして、課題として与えるものを選ぶにはあらゆる音楽へアンテナを張っていきます。アンテナを張るということは、耳にする音楽に対して注意を払うということ。教える側に音楽への注意力が求められます。
これはデメリットとは言えませんが、教える側のエネルギーを消費するので大変ではあります。

この教育から得られるものまとめ

演奏の基礎となる力がつく

フォルマシオン・ミュジカルをやると、従来の狭い意味でのソルフェージュ教育で得られる楽譜の読み書きにくわえ次のような力がつきます。

  1. 音楽を読み込む力

  2. 音を聴き分ける耳

  3. 曲の背景にあるものを考えつつ弾く力

これらは演奏の基礎力となるものです。フォルマシオン・ミュジカルが総合基礎音楽教育といわれるのはここから来ています。

初心者のうちから、楽譜にあるあらゆる記号に注意する習慣をつけていけば、楽譜を自分で読んで、音楽的に弾けるようになります。音楽を演奏するための音楽力は、漆を塗り重ねるように少しずつ身についていくものです。楽譜から音楽を読み取る習慣を学ぶのは早ければ早いほど、後になって差がつきます。

音楽に触れる最初から音を注意深く聴く耳を育てていけば、自分の演奏を聴ける生徒さんに育ちます。そこからさらに発展して自分の理想の音を頭の中で鳴らせるようになれば、自ら演奏に磨きをかけていくことができます。

曲の背景にあるもの。それは音楽史とは限らず、弾いている曲がどういう風にできているかということも含みます。私が子供の頃、先生には「考えて曲を弾くように」と言われましたが、何を考えて弾くのかを教えてもらえませんでした。ただ「今日のおやつは何かなぁと考えるのではないです」とだけ言われました。
この時に考えるべきだったのは、楽譜に書かれた記号とか、曲の構造などだったんだと今になって思いますが、当時の私の先生は実はわかっていなかったのかもしれません。

手がかかる分いいことづくめ

フォルマシオン・ミュジカルの教育は、特に初心者の時期は時間も手間もかかります。だからこそ生徒さんが大きく成長します。生徒さんが音楽的に自立すれば、生徒さんが練習できる範囲でレッスンして、上達が少し遅かったとしても確実に進歩します。
生徒さんが練習をたくさんして早く上手になるのは先生としては理想的です。しかし全ての生徒さんに当てはまる訳ではありません。楽器の学びを最優先にしない、できない生徒さんも通ってきますし、そういう生徒さんを枠の外に追い出さず、できる範囲で学んでもらうことが音楽文化の広がりにつながります。
その生徒さんたちが、少しでも効果的に上達できるような種まきがフォルマシオン・ミュジカルだと思います。フォルマシオン・ミュジカルで音楽の種を生徒さんに植えて育ててみませんか?

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