夜を超えていく

 日が暮れると共に夜との戦いが始まる。小さい頃、夜に布団に入るのがとても怖かった。目を瞑るとともに目の前には無限の恐怖があった。幽霊、死神、そう言った自分の生命を脅かすような存在があるように思えた。足を布団から出さないように小さな体を丸くして夜の冒険を乗り越えていく。

 日が暮れると時間がゆっくりと流れる。昼間はあんなに流れるのが早い時間が夜になるとゆっくりかつ、鮮明に流れていく。ゆっくりと早く流れるその時間に安らぎを覚える自分がいる。ゆっくりと流れるその時間の中でできることを探す。紅茶を飲みながら本を読む、夜空を眺める。そうするとだんだん、自分の内側へと考えの根が伸びていくのを感じる。僕は何になりたいのか、人生に意味はあるのか、僕は何を成し、何を犠牲にして生きていくのか。そんな事を考えていくうちに夜が深くなっていく。

 歳をとるごとに夜が好きになっていく。悩むのも、感傷に浸るのも心地よく感じる事が出来る様になる。それだけ痛みに慣れてくるという事なのではないだろうか。幽霊や死神とダンスを踊れるようになったんだ。

 いつでも悩みはつきないけど、朝日は上り、月は沈む。そう思うと悩みっていうのはちっぽけであると同時に、普遍的なものであるといえる。だから悩みをなくすことよりも上手く付き合う方法を考えた方がいいのかもね。

 いい夜、悪い夜、騒がしい夜、静かな夜、エッチな夜、これから沢山の夜を超えていく。けれども僕はどんな夜でも超えていかないといけない。だからこそ夜を僕は愛してる。多分、夜も僕を愛していると思うから。

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