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<第14回>日本のデジタル化の「未来」と、今後の「世界基準」がわかる

『アフターデジタル~オフラインのない時代に生き残る』 
藤井保文&尾原和啓著(日経BP社)

イントロダクション~「デジタル化」の本質を理解していますか?

本書は2019年に発刊された、まさに「デジタル化」がよくわかる本です。主に中国の事例を中心に、日本の状況も、中国と比較しながらよくわかる構成となっています。とくに、前半の見学ツアーでの質疑応答などからは、リアルな「デジタル化できない日本」も見えてきます。

また、2020年には続編が発刊されており(『アフターデジタル2~UXと自由』)、ビジョン、思想などをより深く理解したい人には、こちらもオススメです。

今回も、本書の「まえがき」から、気になった部分を抜粋してみました。

"大企業、スタートアップの経営者であっても、日本のビジネスパーソンは「デジタルが完全に浸透した世界をイメージできていない」"
"日本の「デジタルテクノロジー」の取り組みは、オフラインを軸にオンラインを活用するのがほとんど、「無人レジを一部導入する」など"
世界では、オンラインとオフラインの主従逆転が起きている。考えのベースが「オンライン」、「オフライン」は「信頼獲得可能な顧客との接点」"
"本書は「世界潮流から見たデジタルトランスフォーメーションの方法論」を提示します"
"日本が世界に追いつき追い越すには、「データ×エクスペリエンスの切り口で考え、新たな視野を獲得することが大事である」"

ところで、この「アフターデジタル」の社会では、個人のすべての行動がデータ化されます。
移動、買い物、経歴など、生活のすべてが、です。
……ちょっと怖いな、と思った人もいたのではないでしょうか?
いわゆる「管理社会」「監視社会」を想像された方もいると思います。

具体的な事例として、中国のアリババグループの企業が手がける「ジーマ・クレジット」では、個人の経歴や行動データをもとに、その人の信用スコアを弾き出し、ECでの買い物をお得にしたり、金融口座開設の審査を軽くしたりしています。
これについては日本でも報道されていましたが、「切符が買えない!」といった、想定されるネガティブ面が多く、本質を理解するには不十分だったかもしれません。

では、この本質を理解するためには、何が必要なのかーー。それには、従来の「一度だけ買ってもらう関係」ではなく、「ずっと顧客でいてもらうにはどうすればいいのか」という思考に至れば、なぜ、あらゆるデータがこれからの企業にとって大切であるかが、わかってくるでしょう。

では早速、読み解いていきましょう!!

➋独断と偏見のお勧めポイント:「アフターデジタル」の思考法とは何か?

「OMO=Online Merges with Offline」でユーザーの行動に寄り添え

アフターデジタル時代の成功モデルとして、「OMO=Online Merges with Offline」、"オンラインとオフラインを融合し、一体と捉えたうえで、戦い方や競争原理を考えるデジタル企業の思考法"があります。

そして、このOMOが実践できている企業として、中国の「フーマー」という会社が紹介されています。
同社はアリババが展開している新型店舗で、2016年から展開されており、いまや中国内に100店舗を超えています。あの「Amazon GOよりも実用的」といわれており、世界中の人が視察に訪れているそうです。

フーマーの特徴は、
①リアル店舗に行って、自分の目で見て商品を選ぶことも、②ECを活用して、店舗にある商品を自宅に届けることも、できるということです。
そのとき、その瞬間に、自分にとっていちばん便利な方法を選べるわけですが、じつは商品は、自分がいつでも行けるリアル店舗から自宅に届けられているのです。

フーマーは、ECをベースにして、そのうえにリアルが組み合わされているのです。
これは、「ユーザの心理や行動特性を理解し、利便性を徹底的に考え尽くして設計したため」であり、オンラインとオフラインを分けるのではなく、一体として捉え、ユーザの行動に寄り添った結果、このような形にならざるを得なかった、と考えられます。

たとえば、無人コンビニも、あくまでUI(ユーザー・インターフェイス)の一つ、リアル店舗もインターフェイスの一つでしかなく、ユーザの一連の行動に寄り添った設計を考えることこそ、「アフターデジタル」の思考法なのです。

深掘りの勧め:中国はなぜ、デジタル先進国になったのか?

「デジタル化」とは、思考法の変革である

いま、中国は日本よりはるかに進んでいるIT先進国です。
中国ではインターネットを使用している人口が8億人を超え、その97%がスマホを保有しています。都市部では、スマホ所持者のじつに98%がモバイル決済を行なっているとの調査結果もあります。
すでにタクシーの配車や食事、医療品の配達など、すべてがアプリ上で完結しています。
そして、約14億人の国民が生み出すビッグデータと超優秀な人材が、政府の後押しによって新たな社会インフラとなるサービスを次々と生み出しているのです。

中国のデジタル化を大きく進めた要因に、「モバイル決済」があります。
具体的には、主流派アリババグループの「アリペイ(Alipay)」とテンセントの「ウィチャットペイ(Wechat Pay)」です。
どちらも中国人顧客への対応を見据えて、日本国内でも使用可能な店舗が増えていっています。
14億人からなる購買力を自国で取り込みたければ、自国の決済手段を使わせるよりも、彼らの決済手段をそのまま使わせるほうが、ハードルは低くなるわけで、日本の小売店でも、アリペイとウィチャットペイを採り入れる流れが加速しています。

その点、日本はどうなのでしょうか?
「ビフォーデジタル」の世界、リアルでいつも会える顧客がたまにデジタルでも買い物などをしにきてくれる、という考え方から、「アフターデジタル」の世界、オフラインからオンラインまでつねに顧客との接点をつくり、顧客の行動データを活用して、顧客に対して最適なタイミングでコミュニケーションを図る、という考え方へ、果たして変革することができているでしょうか?

こうしてみると、「デジタル化」とは、思考法の変革といえるかもしれません。

◆今回の名言◆

「悪い知らせは、早く知らされなければならない」
ビル・ゲイツ(1955年~/アメリカの実業家。マイクロソフト社の共同創業者・会長。ビル&メリンダ・ゲイツ財団共同会長)

そのクレームは、社長に届いていますか?
「会社をダメにするには刃物は要らぬ。悪い知らせが社長に届かないようにすればそれでいい」

★おまけ★最近読んでいる本

『アイアンハート』折口雅博著 (昭文社)

「ジュリアナ東京」「グッドウィル」「コムスン」で知られる著者ですが、グッドウィルの事件で突如、すべてを失い渡米したことを知らない人は、多いのではないでしょうか。その後、なんとNYで高級レストラン「MEGU」の国際展開を成功させ、さらに起業家コーチとして後進の育成を手がけていました。壮絶ともいえる経営者の半生は、500ページ超え。面白くて一気読みしてしまいました。お勧めです。