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技術に強みを持つ拠点に期待~シスメックス株式会社、岩永茂樹さん

フォトニクス生命工学研究開発拠点は、さまざまな生体情報を計測、数値(デジタル)化し、活用することで社会を支えるフォトニクス技術の開発と社会実装を目的に生まれました。大阪大学と連携しながら、大阪大学 大学院工学研究科・フォトニクスセンター、産業技術総合研究所生命工学領域フォトバイオオープンイノベーションラボ、シスメックス株式会社などの企業と一緒に研究を行っています。

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 フォトニクス生命工学研究開発拠点は、大阪大学フォトニクスセンターと臨床検査機器・試薬メーカーのシスメックス(神戸市)、国立研究開発法人・産業技術総合研究所(産総研)が運営し、さまざまな外部機関などと連携しています。シスメックスが担う役割は、医工連携の本格化や事業の実施・ノウハウの提供。シスメックスはどのような会社なのでしょうか。拠点への期待は? 拠点の副リーダーを務める同社中央研究所先端工学研究グループ部長の岩永茂樹さんに聞きました。(フリーライター:根本毅)

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──シスメックスはどんな会社ですか?
 血液検査をすると、検査結果に赤血球や白血球の数が記されていると思います。血球の数をカウントする機器や試薬が当社の主力製品です。血球計数のほかにも、検体検査の分野の製品を開発し、製造販売しています。血液を採るなどしてたんぱく質や遺伝子を測り、体の中の状態を知るための機器や試薬です。

──岩永さんは、どのような仕事をしているのですか?

 中央研究所で、主として先端工学の領域の新しい技術や製品の研究開発を行っています。光学を含む工学の領域での新しい技術、最先端の技術を臨床の場、診断の場に持っていくという取り組みです。その一環で、拠点で共同研究をしています。

──フォトニクス生命工学研究開発拠点が進める四つの研究開発課題のうちの二つですね。
 はい。シスメックスとして拠点に参画し、大阪大の藤田克昌先生が主に担当している「生体組織の無標識・高解像度イメージング技術の開発」と、産総研の藤田聡史先生が主に担当している「分光イメージングによる細胞診断技術の開発」に取り組んでいます。

──研究を進めていって、社会実装につなげる役割を果たすのですか?
 そういう役割があると理解しています。最先端の研究から製品の種を創出し、研究の種の実用化、製品化につながると考えて参画しています。

──担当する研究開発課題に関連する研究には、どのようなものがありますか?
 私はもともと、顕微鏡関連の研究をしていました。2014年のノーベル化学賞受賞者、ウィリアム・モーナー博士との共同研究で獲得した技術を応用し、2018年に研究用途の超解像蛍光顕微鏡を発売しました。
 これまでの蛍光顕微鏡に比べて空間分解能が10倍ほど高く、細胞の中のたんぱく質や遺伝子の分布をより精緻に観察できます。そういう顕微鏡自体はいろいろな顕微鏡メーカーから出ているんですが、当社の顕微鏡は比較的コンパクトで、暗室もいりません。将来的に臨床の現場で使いやすい形を目指しました。デザインにもこだわり、2017年度のグッドデザイン金賞をいただいています。

──今は研究用途だが、将来は医療の現場で?
 はい。当社は医療機器の製造販売が主ですので、医療の現場で使ってもらうのがゴールです。まずは基礎研究で使っていただき、この分子を測るとこの病気について分かる、などの研究成果を集める段階です。

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──他にも研究について教えてください。
 細胞の画像を撮るということに関しては、流れている液体中の細胞の画像を撮影する装置を医療機器として展開するため、研究開発を進めています。
 当社の主力製品は、細胞を流しながら一つずつ数を数えるフローサイトメーターという装置です。この装置の性能をアップし、流れている細胞の画像を撮れるようにしたもので、モレキュラー・イメージング・フローサイトメーターと呼ばれます。

──医療で使われると、どのような利点があるのですか?
 従来の装置では得られなかった細胞の情報が取れますので、より精緻な疾患の分類に使用できます。例えば、血液のがんなどの領域に技術を展開しようとしています。今までできなかった診断ができるようになる形ですね。白血病の検査において、これまでの技術では見えなかった異常な細胞を検出し、診断に役立てるイメージです。

──他にもありますか?
 直近では、血液の中にあるたんぱく質を測定するような試薬や装置の開発を進めています。具体的に言うと、アルツハイマー病の血液検査の研究開発に取り組んでいます。たんぱく質の量を測っているのですが、将来的にはたんぱく質の質も計測できるようになり、診断に生かされてくるだろうと思います。たんぱく質の性質を詳しく調べられる装置の開発は、この拠点の取り組みにもつながればいいなと考えています。

──アルツハイマー病の検査とは、どんな仕組みなのですか?
 アルツハイマー病になると脳内にアミロイドβというたんぱく質がたまっているんですが、逆に血中のアミロイドβの量は減るんですね。アミロイドβの減少を測ることで、脳内のアミロイドβの蓄積を把握するというアイデアです。今、研究の段階を少し超えて、製品を出すための開発を進めています。

──先ほど、たんぱく質の質とおっしゃいましたが、アミロイドβの構造も変化するんですか?
 そうなんです。たんぱく質一つではなくて、複数個がくっついて、生体内で悪さをすると言われています。そのくっつく性能とか、くっつき方が疾患とリンクするようです。

──拠点にはどのような期待がありますか?
 この拠点は、技術の強みがあります。ですから、これまで世の中にない、世界的にもオリジナルでユニークな技術がポンポンと出て、実用化されていく活動になるのが非常に楽しみで、期待しています。新しい技術の実用化は日本の活性化という観点からも非常に重要なので、少しでも役に立てたらと思います。

──技術の強みとは、具体的には何がありますか。
 例えば、ラマン顕微鏡があります。私はこれまで、見たいものに蛍光色素を付けて観察する蛍光顕微鏡をメインに取り組んできました。一方、ラマン顕微鏡は細胞内を染めずに細胞の情報を得ることができ、この点が特にユニークだと思います。染めずに見ることで、初めて見えるものがあります。
 また、再生医療の領域では、染めるものに毒性があると困ってしまうので、将来的に染めずに見る技術が必要になると思います。
 ラマン顕微鏡に限らず、光を使った新しい現象の発見、研究成果を生み出せると考えています。大きな広がりを持つと思います。

──拠点はバックキャスト方式で研究開発の方向を決めます。このやり方は初めてですか?
 いえ、会社で新しいテーマを考えるときは、バックキャスト思考を用いています。ただ、アカデミアの先生と一緒にバックキャストで物事を考えたことはなかったので、新しい発想が出てくるのではと期待しています。企業の研究者の観点で、実用化に対する技術の見方などに少し違うことが言えたら、と考えています。
 また、当社は川崎重工と共同で手術支援ロボットの開発に関与するなど、オープンマインドでの研究開発活動ができる企業だと見てもらっていると感じています。この点でも、経験を生かせたらと思います。


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