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「教員と研究者が研究に専念できるように」~大阪大学経営企画オフィスURA部門長、髙野誠さん

 産学や地域の人材が共創する「フォトニクス生命工学研究開発拠点(以下、フォトニクス拠点)」は、大阪大学の工学研究科や医学系研究科、産業科学研究所など複数の部局をまたがる大型プロジェクトです。大型プロジェクトともなると応募や立ち上げに多大な労力がかかるため、教員のバックアップ役は非常に重要。この役割を果たしたのが、大阪大学経営企画オフィスのURA部門です。どのようなバックアップをしたのか、URA部門長の髙野誠さんに聞きました。(聞き手、サイエンスライター・根本毅)

 フォトニクス生命工学研究開発拠点は、さまざまな生体情報を計測、数値(デジタル)化し、活用することで社会を支えるフォトニクス技術の開発と社会実装を目的に生まれました。大阪大学と連携しながら、大阪大学 大学院工学研究科・フォトニクスセンター、産業技術総合研究所生命工学領域フォトバイオオープンイノベーションラボ、シスメックス株式会社などの企業と一緒に研究を行っています。 フォトニクス生命工学研究開発拠点のWEBサイトはこちら

──経営企画オフィスは、どのような組織でしょうか。

 大阪大学の経営や研究をサポートする裏方です。

 経営をサポートする「IR(Institutional Research)部門」は、本学の強み・弱みをエビデンス・ベースで的確に分析し、本学の戦略決定を支援します。
 私が部門長を務める「URA(University Research Administrator)部門」は、研究力強化のための情報収集や分析・提案、外部資金の獲得支援を中心とした研究者支援などを担っています。

 フォトニクス拠点のように、部局横断型の大型研究プロジェクトをサポートするのは、「URA部門」の役目です。

──私が学生だった30年前には、URAやIRはなかったと思います。

 国立大学は昔から、「運営はしているが、経営はしていない」と言われていました。私の理解では、「経営」は組織を維持発展させることで、「運営」は粛々と続けていくこと。国立大学が2004年4月に法人化するまでは、国から運営費交付金というお金が来て、それを使って研究していれば良かった。民間企業のように発展させていこうという発想はなかったと思います。

 しかし、法人化されて運営費交付金がだんだんと減り、競争的資金を取ってこなければ組織を維持できなくなりました。法人化で「独立しなさい」と言われて独立しはじめ、「本当に自立しなさい」と言われているのが今なんですね。ですから、「経営」の支援が必要になっています。

 一方、研究費として外部から競争的資金を獲得する努力を誰がするのかというと、一義的には教員です。しかし、部局をまたがる大型プロジェクトは教員1人では取れなくなってきています。正確には、プロジェクトの獲得に時間を割いていると研究ができなくなってしまう、と言った方がいいですね。このため、研究開発のマネジメントの専門家であるURAが必要になっています。

インタビューに答える髙野さん

──経営企画オフィスはいつ設置されたのですか?

 さかのぼると、前身の「大型教育研究プロジェクト支援室」が2009年7月に設置されました。この頃はまだURAという言葉はありませんでしたが、役割は同じ「研究支援」です。やがて、URAが従来の事務職員や教員にはない知識と技能を持っていることが認められ、大学経営という観点から研究力強化業務に従事するよう求められました。こうして2016年4月に経営企画オフィスが設置されました。別の組織に属していたIRチームもこの時に合流しています。

──フォトニクス拠点の場合、どのようなサポートをしたのですか?

 我々は、JST(科学技術振興機構)の「共創の場形成支援プログラム」(COI-NEXT)の育成型に応募する段階からサポートに入りました。初回の打ち合わせの時は、プロジェクトリーダーの藤田克昌教授もURAの役割をあまり知らなかったと思います。

 まず、申請書の作成を手伝いました。COI-NEXTのような大型プロジェクトにもなると、非常に分厚い申請書を作ることになります。教員は膨大な申請書を書かねばならないのですが、やはり教育と研究に割く時間の方が重要です。それに、大型プロジェクトを獲得するためには大学のコミットメント、すなわち大学がプロジェクトにどのように関与するのか、という観点も重要な要素になります。

 藤田教授も、経営企画オフィスと連携するメリットについて、「一般の教員では把握できていない大学の動きを知り、構想、企画、運営に生かせる」「URAが準備に積極的に関わることが前提のプログラムや提案書の内容となっているので、URAの協力なしでは提案は難しい」と話しています。

 申請書が完成し、書類審査を通った後は、面接対策です。部局を超えて、批判的にコメントをしていただける教員に模擬審査員をお願いし、模擬面接を実施しました。こうした努力が実り、COI-NEXTの育成型に採択されました。プロジェクトを立ち上げる際も、契約や書類作成などのサポートをしました。

──2年間の育成型の後、最長10年間の「本格型」に昇格しましたね。

 本格型に移行するため、より多くの部局を巻き込まなければなりませんでした。大阪大学は部局の壁が低いと言われていますが、それでも壁はあります。そこで、理事や経営企画オフィス長の主導で、「大阪大学として大事なプロジェクトだから、全学型にしよう」という機運が醸成されました。工学研究科長が医学系研究科長や産業科学研究所長を訪問し、一緒にやりたいと伝えたこともありました。

 本格型への昇格は、このような執行部レベルだけでなく、実務の現場を預かる部局の事務職員も含めて全学的に献身的なサポートがあった結果だと思います。

──本格型に昇格した後も、サポートを続けているのですね。

 基本的には拠点で雇用されたURAがサポートするのですが、昇格直後など体制が整っていない場合や、誰が担当するのか明快でなかった場合は経営企画オフィスのURAが遊撃手的に活動しました。今後、中間報告などの節目でもサポートします。また、拠点が別の外部資金に応募する場合なども、全学的な立場から必要なところは関わっていきます。

──大阪大学のURA活動の優れている点を教えていただけますか?

 大阪大学のURAは全国的にも進んでいると思います。進んでいる点の一つは組織。経営企画オフィスは「URA×IR」をコンセプトに掲げ、URAとIRが一体となって活動を展開しています。URAやIRを配置している機関は他にもありますが、大半は別々の組織でしょう。我々の職場を見ていただいたら分かると思いますが、URAとIRが入り交じって座り、完全に一体化しています。

 このような取り組みの結果もあり、大学執行部もURAやIRの重要性を認識し、経営企画オフィスは令和3年度の大阪大学賞も受賞しています。

 また、大阪大学は文部科学省の「研究大学強化促進事業」の補助を受けてURAの確保・活用を進めてきましたが、この事業の過去2回の評価においていずれも最高の「S」評価でした。2回とも「S」だったのは大阪大学と自然科学研究機構の2機関だけです。このように大阪大学のURAは客観的な評価も得ています。

<文部科学省の研究大学強化促進事業>
文部科学省が2013年度から実施している事業。22機関(大学や大学共同利用機関法人)を対象に、研究戦略や知財管理などを担う研究マネジメント人材(リサーチ・アドミニストレーターなど)の確保・活用や、集中的な研究環境改革を組み合わせた研究力強化の取り組みを支援している。

──その他にも、進んでいると感じているところはありますか?

 大阪大学独自の制度で、事務職員にURAのスキルを身につけてもらう「URA業務を担う事務職員」育成プログラムがあります。外からは見えにくいと思いますが、大学って事務職員が動かしているんですよね。教員が教育や研究に従事できるのも事務職員が活躍しているからです。大学での事務職員の役割は大変重要です。その事務職員が自ら手を挙げ、選抜されて経営企画オフィスに異動し、「URA業務を担う」、という制度が昨年度から動き始めました。 画期的なことだと思います。

 さらに、一緒に働く我々URAも、大学の仕組みを教えてもらって非常に勉強になります。フォトニクス拠点が本格型に採択され、また、順調に立ち上がったのは、このプログラムで来た事務職員が活躍したおかげでもあります。

──髙野部門長をはじめ、経営企画オフィスのURAの方々はどのような経歴をお持ちなのですか?

 私はNTTから来ました。NTTでは研究所で研究・開発に従事した後、研究企画部門で研究開発のマネジメントを担当しました。まさに、民間企業でリサーチ・アドミニストレーションを担っていたわけです。URAという仕事は最近始まった特別な仕事のように思われていますが、研究に取り組む企業ならどこにでも存在する仕事です。私と同じようなキャリアを積んできた方は、大学でURAとして活躍できると思います。

 URA部門にはいろいろな経歴の人がいます。私のように企業から来た人のほか、研究者や大学の事務職員からURAになるケースも結構多いです。他機関でURAをしていた人や博士課程を出てすぐに来る人もいます。人文社会科学系出身の人もいます。博士号を取得している人が半分くらいいて、絶妙なバランスだと思っています。動物園なんですよね。いろいろなバックグラウンドを持った人がいるから、組織としていろいろなところで活躍できるんだと思っています。

──フォトニクス拠点も含め、大阪大学にはCOI-NEXTの拠点が全国最多の4つあります。他の3拠点にも経営企画オフィスは関与しているのですか?

 はい。すべての拠点形成に何らかの形で経営企画オフィスが関わっています。

 大阪大学で最初に本格型に採択された「量子ソフトウェア研究拠点」(北川勝浩プロジェクトリーダー)では、経営企画オフィスから専属のURAをつけました。また、私も応募段階から申請書の点検、学内外の組織との調整、面接選考対応などいろいろと関わりました。

 関谷毅教授がプロジェクトリーダーを務める「未来型知的インフラモデル発信拠点」も申請書の点検などに我々が直接関与しました。現在、本格型への昇格に向けて準備を進めていますが、フォトニクス拠点の昇格時に得た知見を生かしてサポートしています。

 福﨑英一郎教授がプロジェクトリーダーの「革新的低フードロス共創拠点」も、育成型から本格型への昇格に向けて準備を進めています。こちらは、経営企画オフィスのIR部門がサポートしています。

 このように、4拠点すべてを経営企画オフィスが全学的な視点を持ってしっかりとサポートしています。先日、フォトニクス拠点のキックオフシンポジウムが開かれましたが、4拠点長全員がそろってパネルディスカッションに参加しました。この忙しいときに、総長や理事、そして4拠点長が1カ所に集まるというのは、なかなかできないことです。これは、大阪大学のCOI-NEXTにかける熱意の表れだと思います。

 4拠点が連携し、お互いを盛り上げていこうとしています。もともと大阪大学は産学連携がすごく強いのですが、さらに強くしていこうという思いと勢いを感じますね。

──経営企画オフィスを中心に、4拠点が密に連携するということは、各拠点のノウハウを他に生かせるというメリットがありますね。

 ぜひ生かしたいと思います。一例ですが、フォトニクス拠点が本格型昇格の面接審査を受ける際に、関谷教授と福﨑教授が模擬面接の審査員を快く引き受けてくださいました。そのおかげもあって藤田教授の拠点は本格型に昇格したのですが、本格型への昇格審査を受ける立場となる関谷教授や福﨑教授にも得るものがあったのではないかと思います。

 4つのCOI-NEXT拠点が互いに影響を及ぼしあいながら、次のステージに行こうとしていること自体が非常に大事ことだと思います。

──次のステージとは?

 さらに大きなプロジェクトにしていくことです。大きなプロジェクトであれば、より大きな社会的インパクトを与える研究ができます。研究成果を実社会で役に立てていくために、常に前進するのがトップレベルの教員や研究者だと思います。ただ、教員や研究者だけで進むのは困難です。事務職員とURAが共に前進する事が必要なのです。

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