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「東京裏返し」を読んだよ

後半一気にグルメになる。どうも、神山です。

ゲンロンカフェ「東京の未来は『北』にある?!」を視聴し、「東京裏返し/吉見俊哉」を読みました。この順番でよかったな、と思います。

本文中だとわりと強い口調で「いやそれは厳しいだろう」という提案をぶつけてくる。たとえば次のように。

まず、最も重要なのは、東京都心部からの首都高速道路の撤去です。[…]この都市の都心全体から、首都高速道路を見えなくする。そうして川辺や青空を取り戻すのです。そのためには、一方では日本橋川の上を走る首都高速全体の地下化が必要ですし、他方ではいくつかの可能な路線について、道路そのものを撤去していくべきでしょう。
吉見俊哉.東京裏返し 社会学的街歩きガイド(集英社新書)(Kindleの位置No.1215-1223).株式会社集英社.Kindle版.
まずすべきことは、不忍池の封鎖解除です。つまり、不忍池を分断しているフェンスを取り払う必要があります。上野動物園を、屋外は無料で誰でも自由に散策できる領域と有料領域に分け、少なくとも不忍池の周りは誰もが自由に散策できるようにするのです。動物園は公共施設なのですから、園内に来る入場者のことだけを考えていればいいわけではありません。
吉見俊哉.東京裏返し 社会学的街歩きガイド(集英社新書)(Kindleの位置No.1699-1702).株式会社集英社.Kindle版.

ゲンロンカフェでのトークイベントにより、これらが横暴なことを言っているわけではなく、そこにある文脈と、この先にある壮大な構想から導かれていったものだと腑に落ちました。

本書は著者が幹事長として参加する東京文化資源会議の提案が各章(それぞれ1日のまとめの部分)に重ねられています。単に当会議の提案を読むだけでは懐古、復古のようなノスタルジックなものに見えますが、対談と本書を通して、そうではなくこの提案はあくまで前進のための新しいものであることが示されてゆきます。又、それに併せたガイドブックとしての側面もあり、詳細地図もついています。

イベントでは、この本に併せて春木さんが7日間の街歩きをした(とてもハードで情報量が多い旅だった)と話してました。北海道に住んでいることもあり、7日間フルでの旅をするのは困難ですが、1日分とか部分的な観光をいつかやりたいですね。余談ですが、春木さんは高校こそ違いますし、学部も違いますが、同じ大学の出身であり、僕は学芸員絡みの講義をいくつか受けていたことから、ゲンロンカフェでの春木さんの師匠についての話などはケラケラ笑いながら見てました。小林先生(ダイナソー小林)の講義も数コマですが受けたりしていましたね、何もかもが懐かしい。余談は兎も角。

本書で鍵となっているのはスローモビリティ、地上を徒歩や路面電車=トラムで移動して、観光すること。出発地から目的地へワープするような現在の観光(特に東京近郊に顕著と個人的には感じる)ではなく、歩いたりトラムに揺られることで、その土地の起伏や道の作られ方を体で感じる(ブラタモリ的な)楽しみや、中央の発展に隠されてきた周縁の時にピンクで時にダークな歴史に触れる楽しみ、そして現在その土地で様々なことに取り組む人と交流する楽しみについて、ゆっくり考え直すということを勧められます。

イベントの中では、春木さんが札幌出身ということもあって、札幌や北海道の話題もちらほら出ていました。札幌は徒歩での移動があるものの、地下通路の発達によって景色を見ながらの移動がなくなっているという指摘に対し、それは残念なことだと吉見さんが言う場面もありました。なるほど確かに、札幌の人は札幌駅大通駅すすきの駅までを徒歩で移動することもままあり、よく歩いている一方で、地下街の移動における景色の変化については、冬季間の環境的な困難があるにせよ、画一的な中心部の碁盤の目という形状もあり、東京よりも乏しい。路面電車(札幌での呼び名だとトラムでなく「市電」)も、沿線に多様な店や施設が並んでいるかと言えばあまりそういうこともなく、観光的というよりはあくまで地域住民の移動手段のうちひとつに過ぎません。市電を足とした観光の面白さでいえば、中心地(五稜郭)から観光地(金森)、温泉街(湯の川)を接続している函館市の市電の方が一枚上手でしょう。

本書の最終日では川(舟)から見た東京についても語られます。東京において建物は自然の川ではなく人口の川=道路側にファサードを向けいることが多いそう。かつては川が人や物の流れを支えており、そちらを意識した建物や店があったにもかかわらず、です。これは北海道でいうなれば小樽がそのような土地だと考えられます。かつて海と運河によって発達した土地でありましたが、モータリゼーションが進み、運河は元の幅の半分が埋め立てられてしまっており、現存する運河沿いの北海製缶第三倉庫も解体の危機に瀕しています(令和2年度の解体は見送られました)。第三倉庫を観光資源として活用を考えている民間組織もできているらしい。外国人観光客にはレトロな街並みは好まれていたようですが、今はかつて……といっても一年前ですが……あった混雑が嘘のような状態となっています。

本の話に戻って。東京の北側、中央から見た辺縁の地域を再度観光のメインルートとして捉えなおすものです。それは東京の地図を逆転すなわち裏返す発想。この逆転は単なる平面的なものを指すわけではなく、速いから遅いへの反転や、画一的な人口林のような高層ビルや巨大なショッピングエリアではない、多様で自然林のような異世界的な(ダークでピンクな)東京への誘いとなっています。

北海道の未来は、札幌近郊の未来はどこにあるのか、懊悩せざるを得ないなか読んだ本でした。

ではでは。

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