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アーンドラ・ダイニングのパラマタ社長にアーンドラ料理について聞いてみた【東京マサラ部活動レポート】

銀座アーンドラ・ダイニングや御徒町アーンドラ・キッチンなど、アーンドラグループの社長を務められるParamata Saradhiさんに、東京マサラ部としてオンラインインタビューを実施。アーンドラ料理に関してよくある疑問を根堀り葉掘り聞いてきました。

アーンドラ料理の概要はこちらの記事ご参照。


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アーンドラ系列の社長、Paramata Saradhiさん。
カキナダ周辺のご出身とのこと。
日本語ペラペラで、軽快に何でも答えてくださいました。
一番好きな料理は奥さんの手料理で、ゴングラとエビ、マトンとジャガイモ。日曜日は絶対にマトンとジャガイモか、マトンとドラムスティックのカレーを食べるそうです。

※一部、調査はしたもののウラがとれていないものも含まれますのでご注意ください。



そもそも、お店をオープンした経緯は?

横浜国立大に在学中、アーンドラに旅行した日本人の友達がドーサやアーンドラの料理は日本人の口に合うと言っていた。当時はインド料理店といえば基本的にナンとかバターチキン、タンドリーチキンとかばっかりで、地元アーンドラのカルチャーを広めたいと思ったのがきっかけ。

そのうち、テルグ語好きな日本人と一緒にJapan telugu summer campというイベントでアーンドラ料理の発信活動を始めた。

IT企業で働いた後独立し、2009年頃に御徒町に今の「アーンドラ・キッチン」の店舗を見つけた。秋葉原で探していたが見つからなかったので比較的近い御徒町になった。当時はいまよりもなおさら南インド料理自体が知られていなかったので、最初は普及のためにサンクランティ、ウガディなどのイベントをたくさんやり集客をした。

南インド料理は辛いというイメージがあるが、それだけではなく色々なテイストがあるということを紹介したかった。


ダイニング、ダバ、キッチンの違いは?コンセプトは?

御徒町のアーンドラ・キッチンと銀座・渋谷のアーンドラ・ダイニングはParamataさんの経営。ダバとカフェは同じアーンドラグループだが、従兄弟が経営しているお店となる。

サンバルとかラッサムはお店によってちょっと味が違っていて、ダイニングとキッチンは北アーンドラ(沿岸部)の味になるが、ダバとカフェは南アーンドラの味に近い。南アーンドラ(ラヤラシーマ)やネロールはタミルにも近いテイストになる。


パッチプルスはどのシーズンに食べるもの?

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これはパッチプルスそうめん。

パッチプルスは「生の汁」を意味する北アーンドラ地方の料理で、タマリンドの酸味と青唐辛子やコリアンダーリーフの香りが効いた生ラッサムとでもいうような料理。だが、今のアーンドラの人は特別なタイミングでしか食べないという。ラッサムが主流になってしまい、普段食べるのは主にラッサムばかり。パッチプルスを食べるときは夜作ってすぐには食べず、朝まで常温で放置し、少し発酵したタイミングで食べる。

アーンドラのお正月、ウガディだけのタイミングで食べられるウガディパチャディというものがあり少し似ているが、全く別物。ウガディパチャディでは 6種類の味(甘・苦・酸・渋・塩・辛)を含むように、マンゴー・ジャガリー・ヒング・ニーム・青唐辛子・ペッパー・バナナ・サトウキビなどを入れて作り、王様にお祈りしてから食べる。

余談だが、似たようなものにバングラデシュのパンタバートのような、ご飯の残りとグリーンチリ、赤たまねぎに水を入れて発酵させたごはんも、アーンドラではよく食べられているという。



アーンドラ料理でよくつかう油は?

ピーナッツオイルとセサミオイルが一番使われるが、ピーナッツオイルは高いのでごま油が多い。マレーシアなどから輸入された安価なヒマワリ油が近年はよく出回っている。 ピクルスを作るときはセサミオイルを使うことが多い。

祖母や母の世代ではギーだけで料理を作る事が多かったが、世の中が変わってしまいギーが高騰したので植物性の精製油が使われるようになった。しかし、化学物質などを敬遠してまたギーやセサミオイル、オリーブオイルなどを使う人も増えてきている。安い油で作ると味が違うし、トラディショナルな料理もどんどん変わっていってしまう。


アーンドラのお米について

バスマティライスはパンジャーブから来ており、特別な時にしか食べない。アーンドラ州の中でも沿岸部と南部は気候帯が違っており、沿岸部はお米がたくさんとれる。主にソナマスリだが、粒が小さいチッティムチャル(Chitti Muthyalu Rice)という香り米も使う。

アーンドラのビリヤニ(プラオ)はチッティムチャルを使うノンベジのプラオ。カレーリーフが入ったりするので他のビリヤニとも全然違うようだ。

チッティムチャルはシーラガサンバライスにも似ているらしい。


ハイデラバード料理について

ビリヤニで有名なハイデラバードだが、テランガーナ州の州都でもある。テランガーナ料理とハイデラバード料理は少し混ざっていて、ハイデラバードは色々な人が集まっているから色々な料理があるが、本物のテランガーナ料理はもっと田舎の方に残っている。

ハイデラバーディビリヤニは生肉から炊き込むカッチャビリヤニ(カッチビリヤニ)で、肉をマリネして米と一緒に炊き上げる。ハイデラバードのビリヤニは北の方のラクナウから来た料理人が王様のために作ったが、ラクナウのビリヤニと南インドのスパイスが融合し、他地域とは一線を画するビリヤニとなり、ラクナウやカシミールよりもはるかに有名になったという。

アーンドラキッチン御徒町では土曜日限定でハイデラバーディダムカッチビリヤニを出している。

パラマタさんは30年前からハイデラバードでビリヤニを食べ歩いているが、パラダイスもバーワルチーももはや昔の味ではない。今はピスターハウスのビリヤニが一番美味しいという。

ちなみに言語について。ハイデラバードはムスリムが多い特殊な街だが、何語で会話しているのかと聞くと、ハイデラバードのムスリムもテルグ語を話せるが、ウルドゥーとヒンディーは似ているので混ぜて使っているとのこと。昔は南インドではヒンディーは通じなかったり反発もあったが、今は大体どこでも通じる。

チェンナイでは「ナマステ」というとヒンディーだと怒られたりするが、アーンドラではあまりそういう風潮はない。アーンドラは他の文化に寛容で優しい感じがする。これはパラマタ社長の私見というが、実際に話していて物腰柔らかな印象を受けた。


ラヤラシーマ料理ってどのくらい辛い?

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ラヤラシーマのマトンカレー

南部のラヤラシーマ料理は激辛で有名だが、内陸のため気候がドライというイメージが強い。食べているお米の種類が違い、ソナマスリはあまり食べられない。料理に関してはレッドチリ(主に、唐辛子の産地で有名なGunturのチリ)をたくさん使う。米よりもragi(シコクビエ)やjowar(モロコシ)などの雑穀をよく食べている。カルナータカで食べるragi mudde(おにぎりのようなもの)なんかも食べられているという。


アーンドラにおけるミールスの最低限度の構成は?

サンバル、ラッサム、何かしらのカレー、vepudu (炒めもの)、ヨーグルトなどでローカルのお店で25Rsくらいで食べられる。おかわり自由なら50ルピーくらい。

カキナダの有名店、スッバヤホテルのa/c(エアコン付き客席)レストランだと、普通が25ルピー、おかわり自由が45ルピー。ただし、今は値上がりしているかもしれない。スッバヤホテルではカニのカレーや肉やエビのピックルなどが有名。kora meenuのプルスもおいしい。

雷魚の仲間、kora meenu
https://en.wikipedia.org/wiki/Channa_striata

 
ティファンについて

イドゥリ(蒸しパン的な)、ドーサ(クレープ的な)、ウタパム(お好み焼き的な)、ワダ(ドーナツ的な)などのティファン類はアーンドラ全体でよく食べられている。ペサラットゥ(緑豆の無発酵ドーサ)はアーンドラ沿岸部だけの食べ物。朝ごはんで食べたり、土曜の夜の断食のときなどに食べたりする。断食時でもペサラットゥやドーサ、ウプマなどに限り食べられる。

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この手前のやつがペサラットゥ

イドゥリは朝ごはんに人気で、毎日食べる人もいる。タミルとアーンドラでは少し違っていて、豆と米とrava(セモリナ)も入れて作るのがアーンドラスタイル。タミルだとravaを入れず、もう少しやわらかく仕上げる。付け合せはサンバルやショウガ・トマト・ココナツ・ピーマンなどのチャトニ類が多い。


アーンドラ特有の食材、ゴングラとは?

ゴングラはアーンドラでしかほとんど食べられていない。美味しく作るには、ゴングラを入れすぎても少なすぎてもいけない。ゴングラはチャトニーにしたり、エビやマトンと一緒に料理するとおいしい。



米料理がミールスに複数乗るが、食べる順序などはあるのか

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例えばこのターリーはお祭りということでプリホラ(タマリンドライス)、ベジタブルプラオ、白いバスマティライスの3つが乗っていたが、米だけで三種類もある。プリホラはお祭りのときには必ず作られる料理で、タマリンドで酸味を出したものが多いがレモンの場合もある。時に人参が入ることもある。ベジプラオも特別なお祭りだから作るもので、白ごはんは単にカレーをかけて食べたいからだそうだ。

食べる順番は辛いもの、酸っぱいものから食べるのがアーユルヴェーダ的な食べ方。ミールスはそういう順番にアイテムが並んでいる。


アーンドラでのパチャディとチャトニーの区別

アーンドラではあまり区別していないようだが、どう違うのだろうか。

チャトニとパチャディはほとんど同じものとして扱われるが、大まかにこのような印象があるそうだ。

パチャディ...ドライ。シルバッタでつぶす。
チャトニー...ウェット。臼と棒で潰す。

現代ではミキサーなどを使うのでほぼ同じと考えて良さそうだ。


スペシャルサンクス

アーンドラダイニング渋谷店に食べに行ったときに話しかけていただき、アーンドラ料理についてしつこく訊きまくっていたら、ターリーのおかわりをどんどん盛ってくれた上に、オンラインインタビューにまで快く応じてくれたパラマタ社長。さらには、アーンドラ料理のさらなる普及のためにということで、記事での公開も快く了承してくれました。

感謝してもし尽くせません。

アーンドラ・ダイニング渋谷店では、ゴングラを使った料理やカキナダやネロールなど地域を限定した料理など、今後もマニアックなイベントを続々開催されるそうなので乞うご期待、とのことです。食べに行きましょう。


▼ブログもやっています。

▼東京マサラ部室(https://twitter.com/masala_bu)でインドを作っています。

▼カレーのZINEを作っています。今度下北沢の本屋B&Bさんでオンラインイベントをやります。前代未聞のイベントなのでぜひ視聴してみてください。


https://booth.pm/ja/items/2798905


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