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インディアンスパイスファクトリーの中山さんに、西ベンガル料理についてきいてみた【東京マサラ部活動レポート】

コルカタに5年住み日本料理屋さんの立ち上げをされたあと、福岡の春日市で東インド料理専門店「インディアンスパイスファクトリー」を経営されている中山さんに、東京マサラ部としてオンラインインタビューを実施。西ベンガル料理について、根掘り葉掘り聞いてきました。

▼西ベンガル料理の概要はこちらの記事をご参照。▼


 インディアンスパイスファクトリー 中山さん


西ベンガル州で日常的に食べるお米ってなんですか?

西ベンガルは米の産地。ふだん食べている米といっても、種類が50種類くらいあるので価格と種類でピンキリ。スーパーで樽に入ったお米を量り売りするのが普通。日流通しているバスマティライスは高いので基本的に富裕層くらいしか食べず、普段は短めのお米を食べる。香りのするgobhindbhog米やブロークンライスを日常的に食べている。

Chinigura米はバングラデシュ側では食べるが西ベンガルではあまり食べないらしい。

日本米は糖分と水分があるが、インディカ米は少ないので団子状態にできるように、お米に吸わせてこねて食べるイメージ。

インド人は、粘り気がある日本米を腐っていると思って嫌う人が多い。日本米のような米はスティッキーライスと呼んでいる。日本米と形が近いものはあるが、水分を多く含んだものは基本的に売っていない。

現地の日本食料理店ではカリフォルニア米を使ったりしていた。コシヒカリなどの日本米をベンガルで作ってもらっていたが、無農薬で精米技術も低いので、石が混ざっているしあまり品質は良くなかった

検品が甘いのでダルやカルダモンなどに虫が入っていることも多い。炊き方はボイルでゆとり、蒸らしたりが多く、柔らかく仕上げることはなかった。露店では安く短いお米を使ってたが、そういうところでも柔らかいものに出会ったことがない。


バングラデシュと西ベンガルの料理の違いについて

色々と端折ったうえでわかりやすく言うと、インドになりきれない状態の場所=バングラデシュ。独立の際にムスリム系の人々が移った土地なのでムスリム料理の色が強く、インドよりもワイルド、シンプルで凝った料理も少ない。
ムスリムの国なので牛肉料理もよく出回っている。インド料理と関係ないが、輸出入の制限がインドよりも緩いし日本人駐在員も多いので日本食材が結構入ってきていて、しっかりと美味しい日本料理屋さんはインドよりも豊富にある。ダッカの和食や寿司はクオリティが高い。



バングラデシュの家庭料理(ビーフブナ)
バングラデシュの家庭料理(ダル)
バングラデシュの家庭料理(魚のカレー)
バングラデシュの家庭料理(豆と魚の頭と冬瓜のカレー)


西ベンガルの食事(プージャー)


マスタードを使った料理が多い。ペーストを作るときにおまじないのように青唐辛子を入れるのは何故なのか?また、マスタードはどのくらい細かく挽いているか。

青唐辛子を入れるというおまじないについては初めて聞いた。マスタードに関してはまっさらのペーストに挽いてからまたホールを加えることなどもあり、結局好みかもしれない。

マスタードオイルをほぼすべての料理に使うからクオリティは大事。マスタードオイルはまず最初に加熱して辛味成分を飛ばす。

西ベンガルのスーパーの棚はほとんどマスタードオイルで占められていて、他の植物油は隅の方においやられているようだ。


マスタードオイルのおすすめのブランドは?

日本で手に入るレベルのものはほとんど同じ。現地ではいろんなブランドを使い比べたりしてた。もっといい等級のオイルも現地にはある。高級なオーガニックのマスタードオイルは上品であまりツンとしない傾向がある。


砂糖の使い方

煮物や汁気を出すものには大体砂糖を使う。
コルカタはヨーロッパの影響を強く受けている。ベンガル湾に面している貿易港であり、東インド会社があったりイギリス領の時の首都があった。そのため古くからサフラン・生クリーム・砂糖などの高級食材が手に入る環境だったことが、インドスイーツのルーツがベンガルにあることと、そういうものを使った料理が発展した理由なのではないか。

コルカタのダルは砂糖入れて甘めに仕上げる。めでたい料理や特別な料理にだけ使うわけではなく、砂糖を日常的に使う。

ただ、祝いの席やおめでたい料理ではスイーツや砂糖を使ったお米のお粥など砂糖を多く使った料理を作る風習もある。場所柄サトウキビも多かったりしたので、黒砂糖やきび砂糖が豊富だったので料理に使うのが定着していったのではないか。

メモ:インド3大甘いターリーといえばプネー、グジャラート、ベンガルらしい(AH小林さん)

ベンガル料理は混ぜて食べない。例えばシュクトを最初に食べるなど、なんとなく食べる順番が決まっているが、なにか合理的な理由があるのか?また、バングラデシュと西ベンガルでは食べる順番が違っていた。これは何故なのか?

難しいルールや理論はないと思うが、ヨーロッパ文化を強く受けた地域なので、軽いものから重い味付けのものを食べるという文化が浸透したのかもしれない。

それなりのレストランに入ると、こちらが指定しなくても軽いものから重いものへなるように順番にサーブしてくる。そういう食べ方が自然に馴染んでいるんだと思う。

家庭ではターリーではなく大皿で並べて食べるが、料理同士は混ぜず米とよく混ぜて食べる。料理同士を混ぜ合わせることはしない。

パンチの効いたものを後半においていく。

シュクト。ゴーヤ、青バナナ、ドラムスティックなどを揚げた上で牛乳で煮たシチュー状の料理


パンチフォロンって実際どのくらい使うのか?ラドゥニーが入っているパターンもあるか。

パンチフォロンはよく使う。カルカッタでも使うし、お店でも使う。煮物ではなく炒め物や和え物に使うことが多い。ノンベジよりはベジに多く使う。

マスタードシードはバチバチ弾けさせなくても良い。マスタードシードの代わりにセロリシードを入れることはベンガルでは見たことがない。

臭み消しのためにワイルドセロリシード(ラドゥニー)を使うことはたまにある。ミックスした状態ではあまり売っていなくて、パンチフォロンは家庭で作ってスパイスボックスのなかの一つに入れている。その際、5つのスパイスを同じ割合でミックスする。


西ベンガルでよく食べる魚と、日本で代用するなら何がおすすめか

川で取れる淡水魚を中心に食べるが、代用というか、スズキやコイやナマズなど共通して食べる魚もたくさんある。揚げ焼きする前提なので、あまり脂が乗っていない魚や部位のほうが使いやすい。

基本的にターメリック、塩、赤唐辛子でマリネして、素揚げしてからグレイビーに合わせる事が多い。



若者向けの味や年寄り向けの料理などはあるか

現地ではクラシックな伝統的な味ばかりで、フュージョン料理というのは日本の方が進んでいる。若い子たちの間ではイタリアンが流行っているが、特に美味しくない。

タイ料理やシンガポール料理などを混ぜた和食料理が流行っていたりする。

また、コルカタは中国人が多く住んでいるので、インディアンチャイニーズというインド料理と中国料理を一緒に出しているお店が多い。街場の食堂、メニューに普通に中華がある事が多く、棲み分けがないのが面白いところ。

ダルバートという言葉や料理の形式は西ベンガルでも一般的?

ダルバートという言葉自体はネパールだが、ダルやバートというワードはベンガル由来かもしれない。ギーバート=ギーライスなどはベンガルでもいうことがある。現地では、セット料理のことをターリーという表現していることが多い。


魚とエビ以外の海産物について。 カニ、イカ、タコ、貝類、魚卵も食べる?

魚卵はお腹に入っていたらそのまま使う事が多い。海岸沿いでは海老や蟹は普通に食べるが、イカ・タコ系は和食店が輸入物を使ってるくらいでインド料理で使っているところはない。

南インドはイカは食べる。インドでは北東やケーララなどではクリスチャンが多いので使う食材が違うのかもしれない。



終わりに:スペシャルサンクス

インタビューは終始和やかな雰囲気で行われました。和食の料理人さんの視点から語られるベンガル料理は日本人的にとても腑に落ちるもので、大変勉強になりました。

お忙しいなか快くインタビューと記事公開に応じてくださった中山さん、今回の場をセッティングしてくれたちゃいまいに特別な感謝をお送りします!


中山さんの願いはベンガル料理がもっと日本で普及してくれることだそうです。福岡を訪れた際にはぜひお店に立ち寄ってみてください。



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