26.保守・革新と探る未来

保守は本来、現状を下手に変えて一層悪くするよりは維持していこうという思想であり、一方の革新は現状、あるいは将来的に表れてくるであろう問題を解消するために変化を加えていこうとする思想である。

現状に存在する問題は放置すれば将来に綻びを生じると考えられるため、対立する2つの思想はつまるところ視点が短期的か長期的かの違いであり、そこを除けば共に社会を安定的に持続させようとしているものと考えられる。

この2つの適応戦略は生物の世界にも垣間見ることができる。

単細胞生物は安定した環境下では分裂すなわち無性生殖によって増殖するが、環境が変化する兆しを見せると有性生殖を行う。

風や昆虫といった不確定要素に命運を託すのを嫌う植物は主に自家受粉や栄養繁殖で増殖するが、環境の不安定性を織り込んでいる植物は、他家受粉で増殖する。

いずれの例も環境の安定性を根拠とし、不安定な場合は、複数のパターンを用意することでそのどれかが適応することを期待するものである。

そしてこのことは更に熱・統計力学の中にも垣間見ることができるのである。

系は(ヘルムホルツの)自由エネルギーを減少させ、安定化する方向に移行する。その際、自由エネルギーの減少に寄与するのは、ある温度より低い領域では(普通の意味での)エネルギーの減少であり、高い領域ではエントロピー、延いては状態数の増大である。強磁性体という特殊な場合では、ある温度とはつまるところキュリー温度であり、低温に移行するとき強磁性体として機能し、内部に磁区構造を生じる。

この様子は、第一次世界大戦により、社会が悪い形で安定化した結果、全体主義が台頭した状況や、複雑な社会への適応に疲れ、自分たちだけの世界に浸ろうとする島宇宙化した状況に似ている。

もとより“普通の”人間は情報を効率よく処理しようとする上で、パターン認識によってしか世界を認識できないようになってしまっている。だからこそ矛盾は取り残され、その中に保存されている。

一方で、自閉症と言われる人の多くはヒューリスティックな思考や多義的で曖昧な情報の処理を特に苦手とし、逆に、アルゴリズム的な思考に強い場合があるとされている。領野の数に違いがないかが気になるところである。

考えて物事を論理的に整合させるということは、時間的にもエネルギー的にも負担の大きい行為である。

しかし、長期的あるいは大域的に考えた場合、時間とエネルギーを十分に掛けて、より多くのパターンを検討して行かなければならない。宇宙の中で人間が知っている時間も空間も極めて小さいものなのだから。

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