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2023年版・子ども向け歴史マンガセット 7社の比較


はじめに

 2021年に、その時点で出ていた子ども向け歴史マンガを全部読んで比較した、「歴史マンガセット 各社の比較」という記事を公開しました。2022年末、小学館の歴史マンガがリニューアルされ、子ども向け歴史マンガの選び方が大きく変わりました。そこで改めて比較し、プラス面、マイナス面を挙げてみます。購入を考えている皆様の助けになればと思います。
 当noteは、中学受験社会を指導する者が執筆しています。そのため「中学受験に役立つかどうか」を念頭に置いています。長い記事ですので、時間を節約したい方は「まとめ」を先にご覧ください。

取りあげる歴史マンガセットは、刊行順に以下の7社です。
朝日学生新聞社「日本の歴史 きのうのあしたは…(2010年)
KADOKAWA「角川まんが学習シリーズ 日本の歴史(2015年、16巻は2022年)
集英社「学習まんが 日本の歴史(2015年)
成美堂出版「マンガ 日本の歴史(2019年)
講談社「学習漫画 日本の歴史(2020年)
Gakken「DVD付 NEW日本の歴史(初版2012年、DVD付き2021年)
小学館「小学館版学習まんが 日本の歴史(2022年)

 歴史マンガセットにはこの他「タイムワープシリーズ・通史編」(朝日新聞出版、2018)、「はじめての日本の歴史」(小学館、2015)、「日本史探偵コナン」(小学館、2017)などがありますが、本稿では取りあげません。

朝日学生新聞社「日本の歴史 きのうのあしたは…」

<解説>

*朝日小学生新聞に連載された作品をまとめたものです。歴史好きの少年と少女が、解説役の妖精とともに、過去の世界にタイムトラベルするという作品です。
*全7巻というコンパクトなボリュームで現代までをまとめています。また一人の作家(つぼいこう)が全部描いており、巻ごとの違和感がありません。一人の作家が全部描いているのは、このセットだけになってしまいました。

男女ともに楽しめるすっきりした絵柄です。

*刊行から時間が経っているため、新品の紙の本を書店で揃えるのは難しいかもしれません。一方電子やフリマアプリではかなり割引された価格で出ることがあります。
*各章の最後には、漢字書き取りと穴埋め問題があります。

<プラス面>

全部一人の作家が描いているのが最大の強みです。絵柄はスッキリしており、非常に読みやすいです。また絵柄のジェンダーが弱く、男子も女子も楽しめるようになっています。
*版が大きく絵も大きいです。フォントも大きいです。読みやすさはすべてのセットの中で一番でしょう。低い学年のお子さんでも楽に読めます。
*同時期の世界の動きが描かれており、世界全体の動きの中の日本の歴史を知ることができます。
*本の中に問題演習ページがあるのはこのセットだけです。

<マイナス面>

全体のボリュームが少ないです。知識量は中学受験には足りていますが、大学受験には対応しません。
*近現代が2巻しかありません(近現代の割合29%)。特に戦後は30ページしかありません。近現代への対応は不十分です。
*現在の研究状況から見ると、古くなっている描写があります。

<感想>

 さすがに現在では古さが否めません。また近現代が少ないというマイナス点もあります。ですが見やすさは一番で、わかりやすく歴史を知ることができるでしょう。また子どもたちへの願いがこもっているところも共感できます。

<こんな人へ>

*歴史に苦手意識を持っている人へ。
*小学校低学年の人へ。

KADOKAWA「角川まんが学習シリーズ 日本の歴史」

<解説>

*2015年に全15巻として刊行されました。近現代の割合が少なめだったため、2018年に別巻「よくわかる近現代史」3巻+歴史まるわかり図鑑で補足されました。2022年に16巻が刊行され、コロナ禍などの最新の事情がカバーされました。
絵柄が今風ですっきりしています。集英社、講談社、小学館は「少年マンガ・青年マンガ」のテイストが強いですが、こちらはアニメ的な絵柄です。*16巻以外は表紙と中身の作家が違いますが、表紙に似せて描いるのでギャップは少ないです。
*知識内容は中学受験+α程度で、中受最上位校にも対応できます。

<プラス面>

*刊行から時間が経っていますが、現在でも絵が新しく親しみやすいです。さすがはKADOKAWAといえましょう。また絵柄のジェンダー性が弱く、男子も女子も同じように楽しめます。

表紙と中身の違和感は少ないです

*内容は少なめですが、その分わかりやすく説明されています。中学受験だけを目的とするならベストでしょう。
*近年重視されている近現代は別巻と16巻でカバーされています(近現代の割合40%)。別巻3巻の戦前~戦後の描写は非常にわかりやすく、ここだけ買ってもよいぐらいです(ここだけのセット売りもあります)

<マイナス面>

*14巻・15巻と、別巻は内容がかぶっています。視点を変えて描いているので、それほど重なっている印象はありませんが。
*中学受験には十分ですが、大学受験には不足しています。

<感想>

*講談社小学館が出た現在でも、絵柄の面で大きなアドバンテージがあります。親しみやすさは一番です。
中受だけを目的とするなら、角川か学研が第一選択となるでしょう。

<こんな人へ>

*中受だけでOKという人へ
*現在のアニメ・マンガに親しんでいる人へ

集英社「学習まんが 日本の歴史」

表紙と中身の絵柄のギャップも示しています。

<解説>

*角川に続き、2015年にハードカバー版(大きな版)が刊行されました。2021年に角川と同じ大きさのコンパクト版が出ています。内容は同じです。両者は併売されており、大きさを選ぶことができます。
*表紙の絵を、ジャンプなど集英社の雑誌で活躍した作家が描いているのが最大の特徴です。1巻は「NARUTO」の岸本斉史ですし、2巻、18巻は「ジョジョ」の荒木飛呂彦です。これだけでも欲しくなる方がいらっしゃるのではないでしょうか。
*先頭にまとまってカラーがあります。また数ページに一度カラーページがあり、カラーページの割合が多くなっています。
*内容は中学受験にフォーカスしており、大学受験には不足です。

<プラス面>

全体的に余白が多く、読みやすいです。判型の大きいハードカバー版はより読みやすいです。前述したとおり、大きさが選べるのは大きな特徴です。

*中学受験に必要な知識は、ほぼ過不足なく手に入れることができます。
6巻の幡地英明、8巻の樋口大輔など、格段に面白い巻があります。

<マイナス面>

表紙絵と中身の絵が大きく違う巻があります。表紙の絵を期待して買うとがっかりするかもしれません。

表紙は荒木飛呂彦ですが…
中身はたなかじゅんのこういう絵柄です。

*現在の水準からすると、絵柄が古く感じられる作家が多いです。
*中学受験には十分対応しますが、大学受験には不十分です。

<感想>

*マンガそのものは理解しやすいのですが、表紙と中身との間に大きなギャップがあります。表紙サギと言われても仕方ない面もあります。中身を見てから買うことを強く推奨します。
知識量は角川とほぼ同等です。角川より余白が多く、読みやすいです。

<こんな人へ>

*目が悪い人など、判型の大きい本で学びたい人、読みやすさを求める人へ。
*表紙絵作家のファンへ。

成美堂出版「マンガ 日本の歴史」

非常に多くの作家・会社が描いているため、作者は省略しています。

<解説>

*解説ページを含めてオールカラーです。
*項目の最初にマンガがあり、その後解説ページがあるという構成で、他の会社のようにすべてをマンガで示しているわけではありません。形式は学研に似ています。
*おおむね雰囲気は統一されていますが、項目ごとにマンガの作者が違うことが多いです。
*内容的は中学受験には対応しています。大学受験には対応できていません。

<プラス面>

*他社と比べて明らかに絵柄が現代的です。歴史物としてどうなの?と感じるところもありますが、最近出ている中高生向け、大人向けの歴史マンガも同じような感じです。古い絵柄はキツイ、と感じる人には、このセットが第一選択です。

第1巻より。ちょっと衝撃的かもしれません。ただ大学受験向けも下の通りなので…。

<マイナス面>

明らかに当時の服装や髪型と違うと思われる描写が目立ちます。細かい設定や考証は気にすんなというスタンスではありますが、さすがにちょっと、と思うところがあります。
*マンガとしての表現がこなれていない部分があります。
*解説ページでカバーしてはいますが、中学受験でも分量がやや少ないです。

<感想>

まあいろいろツッコミどころの多いセットですが、私はこれはこれでありだと思います。講談社や小学館のような、少年誌~青年誌的な絵柄は、今のお子さんにはキツイのではないか?と思います。

<こんな人へ>

小学館、講談社、集英社は絵柄が古くてダメという人へ。

Gakken「DVD付 学研まんが NEW日本の歴史」

<解説>

*初版の発行は2012年で、歴史マンガを現代的な絵柄で描くリニューアルの動きに先鞭をつけたセットです。2021年にDVDが付属するバージョンが出ました。本には動画のアドレスとパスワードが付属しており、DVDの再生装置を持っていない人でも動画を見ることができます(DVDの方が分量が多いそうです)。
*どの巻も、マンガが112ページ、時代のまとめが32ページで構成されています。マンガのページ数が少ないので、時代全体を描くのではなく、時代のポイントになる事柄をマンガで表現しています。描いていない部分は後ろのまとめでカバーする形式です。
オールカラーです。
*マンガの欄外にはまめ知識があり、人物や出来事への興味が増します。

<プラス面>

*なんといっても映像が効果的です。今どきSD画質や古ーいCGがあったりしますが、動きと音がある映像での説明は、格段に理解しやすいです。映像がついているのは学研だけで、唯一無二の特徴です。

2.26事件の部分です。DVD用に新規に作られた映像が多いです。

*初版刊行は10年以上前ですが、今でも絵柄は新しいです。またカラーなので没入感が高いです。
*マンガ1ページあたりの情報量はかなり多く、角川、集英社よりも多いです。また欄外の情報が興味深く、ためになります。

<マイナス面>

*全12巻で、全体的な情報量は角川、集英社に劣ります
巻ごとの絵柄のばらつきが大きいです。特に10巻の伊藤博文は(すごくかわいいので)戸惑うかもしれません。

*刊行が古いため、最新事情には追いつけていません
*中学受験には十分対応できますが、大学受験には不足です。

<感想>

小学館が出たあとも、映像がついているのは学研だけで、独自の地位を築いています。映像の力は非常に強力です。他社とは学びの質や方法自体が違っており、マンガを読むだけとは異なった学習経験ができます

<こんな人へ>

*普段マンガをあまり読まない人へ。
*動画サイトに頻繁にアクセスする人へ。

講談社「学習漫画 日本の歴史」

<解説>

*大手各社から新しい歴史マンガが出る中、満を持して講談社から刊行されたシリーズです。
*内容は非常に細かく、大学受験に完全対応しています。また監修は現在注目されている若手が中心で、最新の研究結果が反映されています。
*マンガの作者は、講談社を中心に活躍した、週刊誌連載の経験がある作家が中心です。上の表の通り、14人中10人が週刊誌連載の経験があります。

<プラス面>

*最大の利点は、とにかく情報量が多いことです。ほぼすべての床にまめ知識がありますし、欄外にも注釈がぎっちり入っています。大学受験に十分対応できます。
*巻によって多少違いはありますが、基本的にマンガの見せ方がうまく、すいすい読むことができます。同コンセプトの小学館より読みやすいと思います。

10巻より。作者は「MMR」で知られる石垣ゆうきです。

<マイナス面>

*大学受験が前提なので、中学受験向けには情報量が多すぎます。また平安時代が多いなど、時代のバランスも合っていません
*情報量は多いのですが、小学館より判型が小さく、密度が高いです。
*近現代の割合が30%と低めです。
*マガジンらしい、少年マンガ的な絵柄ですが、今となっては絵の古さは否めません。

<感想>

*角川のヒットを受けて、角川を超えようとする気合いにあふれたセットになっています。ただ角川とはターゲットが違う(大学受験を前提としている)ため、直接競争する形にはなっていません。
*中受向けではないので、中受で使うならテキストに出てこない要素は読み飛ばすなどの工夫が必要です。歴史が苦手なお子さんに与えるには向いていません
*一方、歴史が好きなお子さんならどんどん読ませるとよいでしょう。歴史沼の入口になります。

<こんな人へ>

*すでに歴史に興味を持っており、さらに知ろうと思っている人へ。
*大学受験生に。また大人の学び直しに。

小学館「小学館版学習まんが 日本の歴史」

あおきてつおは集英社でも描いています

<解説>

*かつての小学館の歴史マンガは、当時の歴史学の粋を集め、伝説的な完成度を誇っていました。内容と絵柄が時代に合わなくなってきたため、リニューアルが予想されていましたが、2022年末にいよいよ刊行されました。
*最大の特徴は、歴史教科書で最大シェアを誇る山川出版社とのタイアップです。内容は山川の教科書に準拠しているため、大学受験まで対応しています。またそれぞれの時代の大家といえる研究者が監修しています。若手が監修している講談社とは対照的です。
近現代の割合が9冊=45%と多くなっており、すべての出版社の中でトップです。これは高校において「歴史総合」(近代以降の日本史世界史を総合的に学ぶ)が必修化されたことと関係するでしょう。
*角川、講談社、集英社コンパクト版に比べて判型が一回り大きく、多少見やすくなっています。

右が小学館、左が講談社です。箱の大きさもかなり違います。

<プラス面>

*内容は非常に細かく、明確に大学受験に対応しています。大学受験生が読むのに適しています。大人の学び直しにも向いています。
*複雑な内容(特に対立の構図)を絵で示し、わかりやすくなっています。また膨大な注があり、理解を助けるようになっています。
*講談社同様、最新の研究結果が反映されています。例えば桶狭間の戦いは「正面攻撃であった」と注がつけられています。

8巻より

<マイナス面>

*講談社同様、大学受験前提なので、中受だけを目的とするなら内容が過剰です。中受に使う場合は、講談社同様に取捨選択が必要になります。中受向けには15巻セットの「はじめての日本の歴史」が出ており、そちらを使ってくれということなのかもしれません。ただ「はじめての日本の歴史」はネットでは入手できますが、書店に陳列されているのを見たことがありません。
絵に癖がある作家が多く、合わない人もいるかもしれません。中身を確かめてから購入をお勧めします。
作者が変わると同じ歴史人物でキャラクターデザインが変わるので、違和感があります。ちょっと工夫すれば回避できたはずの問題ですが。

<感想>

*かつての小学館は、歴史沼の入り口の一つとして、強い魅力を持っていました。残念ながら今回のリニューアルでは、そこまでの伝説的な力は持っていないように思います。
*ですが内容は非常に高度で、大学受験に十分対応しています。また山川の教科書だけではわかりにくい部分を、マンガという形で分かりやすく伝えています。大学受験を考えると、非常に有力なセットであることは間違いないでしょう。
*中学受験を前提とすると、内容が過剰なのは講談社同様です。歴史が得意でないお子さんに与える本としては向いていません。また絵に癖がある作家がいます。選ぶ際は中身をよく確認する必要があるでしょう。

<こんな人へ>

*大きい本がいい、という人へ。
*歴史のうち、特に近現代に強い興味を持っている人へ。
*大学受験生へ。また大人の学び直しへ。

まとめ

<巻数・大きさ・価格>

7社の巻数、大きさ、価格をまとめたのが次の表です。価格は定価で、Amazonでは違った価格で出ていることがあります。

巻数のプラスは別巻を示します。

<情報量・読みやすさ>

全体的な情報量は、おおむね次の図となります。

点線の左側は大学受験対応で、点線の左右では情報量に大きな差があります。

全体的な読みやすさは、おおむね次の図となります。

いずれも筆者の主観に拠っていることにご注意ください。

<どうやって選ぶ?>

小学館の登場によって、歴史マンガの選び方は大きく変わりました。まず「大学受験まで使うか否か」を考える必要があります。

(大学受験対応)
大学受験まで使うなら、小学館と講談社の二択です。
版が大きくて比較的読みやすい小学館か
●ぎっちり知識の詰まった講談社か

という選択になります。ですが両者とも、中学受験では内容が多過ぎ、細かすぎ、巻の配分も中学受験には合っていません。歴史が非常に好きだったり、マンガや本を読む力が強いお子さんでないと、もてあます可能性があります。

(中学受験対応)
大学受験を想定せず、中学受験までしか考えないなら、角川、学研、集英社、成美堂出版、朝日学生新聞社が選択肢となります(朝日は中古か電子になるでしょう)。
アニメ絵で感情移入しやすい角川か
●映像の力が超強力な学研か
●余白が多くて読みやすい集英社か
●絵柄が極端に現代的な成美堂出版か

という選択になります。いずれも大学受験までは対応しないので、大学受験には使わないと割り切る必要があります。

(最も重要な選択基準)
ただ、これまでいろいろ各社の特徴を書いてきましたが、実はそれはほとんど無視して結構です。歴史マンガは、自分で興味を持って、主体的にどんどん読んでいくことが重要です。そこで決定的な基準になるのが「絵柄が気に入るかどうか」です。お子さんが実際に読んでみて、気に入ったものを購入するのが鉄則なのです。
ですので、お子さんと一緒に書店に行って、実物を見てみるようにしましょう。そしてその上で、本稿を参考に、セットを決めるのがよいと思います。

<おわりに>

本稿を書くにあたって、改めて既存の歴史マンガを全部読み直してみました。伝説的名作と評された、「あの小学館」がリニューアルし、明確に大学受験にフォーカスしたのは、とても印象的ですね。これから数年は、子ども向け歴史マンガに大きな動きはないと思いますが、あったとしても「大学受験に対応するか/否か」という動きに変わりはないと思います。本稿が皆様の選択の助けになれば幸いです。
なお、本稿を書くにあたっては、実際に小学館のセットを買うなど、多くの資金と時間をかけています。本稿が参考になった、という方は、是非投げ銭をお願いします。投げ銭いただいた方には、本稿で使った表と図のExcelファイルをダウンロードできるようにしてあります(実用性があるかは疑問ですが)。皆様の投げ銭が次の活動につながります。ご協力をお願いします。

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