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2022年時事予想問題 第1位 夫婦同姓を「合憲」と判断した最高裁判決と、その後の動き

(0) はじめに

 選択的夫婦別姓に関するこの事柄は、いくつかの会社の重大ニュースに記載されていました。本稿では、それに載っていない部分(重大ニュースの原稿執筆時期より後に起こったこと)を重点的に説明します。

(1) 判決の概要

 2021年6月23日、最高裁は、夫婦はどちらかの姓を名乗る、という民法と戸籍法の規定を「合憲」とし、違憲としていた事実婚夫婦の訴えを棄却しました。
 この裁判は、最高裁判所の裁判官15人が全員参加する「大法廷」で審議されました。大法廷15人の裁判官のうち、合憲と判断したのが11人、違憲と判断したのが4人です。下の写真を参照してください。最高裁の裁判は「大法廷」と、5人で行なう「小法廷」がありますが、今回は大法廷です。それだけ重要な判断であったことがわかります。

出典:出展:https://www.asahi.com/articles/photo/AS20210623002981.html

 「通称使用が拡大しており、改姓した側の負担が減少している」というのが、合憲判断の理由です。ただ、選択的夫婦別姓を導入するか否かの「判断は立法が行なうべき」としています。裁判所は「法律に基づいて」判断するためです(憲法76条)。ボールは国会に投げ返された形になります。
 2022年1月現在の与党は自民党で、政調会長(党としての政策をとりまとめる)は高市早苗です。この人は選択的夫婦別姓に強く反対し、旧来からの戸籍制度を支持していることが知られています。ここ数年は、自民党が選択的夫婦別姓を進めることはないでしょう。選択的夫婦別姓を求める人たちは、政治的な「運動」を広めていくことが必要になります。
 ちなみに現状の政府の見解については、法務省のページが参考になります。法務省のページでも「国民が決めること」と繰り返されているのが印象的です。

(2) 通称使用の拡大と限界

 これまでは、結婚して改姓した人は、すべての公的書類や証明書を、新しい姓で作らなければなりませんでした。
 2016年から政府は旧姓を「通称」として利用できるようにしてきました。2019年には運転免許証、住民票、マイナンバーカードに、2021年にはパスポートに旧姓を書くことができるようになりました。このように旧姓を「通称」として使うことが拡大したために、最高裁は「夫婦別姓は合憲」という判断としたと考えられます。

警視庁(https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/menkyo/koshin/kyusei_hyoki.html)の例です。書き込むだけだと無料ですが、新しい免許証を作ると手数料がかかります。

 ただ、通称使用には限界があるという声が上がっています。
 まず、税金関係は今でもすべて戸籍名でなければなりません。クレジットカードや金融機関の対応は分かれており、通称使用ができないところもあります。
 象徴的だったのが、デジタル庁が発表した「新型コロナワクチン接種証明アプリ」です。2021年12月20日に発表された最初のバージョンでは、マイナンバーに旧姓が記載されている場合、証明書が発行できなかったのです。アプリを作る際に、通称が使用される可能性があることが考えられていなかったのです。2022年1月に修正バージョンが出て、登録できるようになりましたが、通称使用に関する認識はこの程度であるということを明らかにしたといえるでしょう。
 また、現状では結婚して姓を変えるのは、96%が女性です。わざわざ通称使用を申請しなければならないのは、圧倒的に女性が多いのです。もちろんそれに納得する女性もいるでしょうが、社会のシステム自体が、女性に重い負担を強いていることを忘れてはなりません。

(3) 最高裁判所裁判官の国民審査の結果

 2021年10月31日に行なわれた衆院選では、同時に最高裁判所裁判官の国民審査も行なわれました。
 国民審査対象の11人のうち、夫婦同姓を「合憲」としたのは、深山卓也、林道晴、岡村和美、長嶺安政の4人。開票の結果、不信任率は深山が7.9%、林7.7%、岡村と長嶺は7.3%で、いずれも7%を超えました。ネット上では「合憲と判断した人に×をつけよう」という書き込みもありました。
 残る7人は「違憲」と判断した3人と、決定後に就任した4人で、不信任率は6.0~6.9%でした。(東京新聞 https://www.tokyo-np.co.jp/article/140246 より)
 差はわずか1%です。統計的にも意味があるとはいえない数字でしょう。ですが投票総数は5860万票ですから、1%は58万6千票です。これを多いとみるか少ないとみるかは、評価が分かれるところです。ですが「合憲と判断した人に×をつけた」人が、60万人程度多かったのは間違いありません。「夫婦が同じ姓となることを合憲と判断した」ことに対して、異議を唱える人がこれだけいたのです。
 これまで国民審査の結果、やめさせらられた裁判官は一人もいません。国民審査は制度として、形だけのものになっていたことは否めません。ですが今回の結果を見ると、今後は判決の内容により判断する人が増えそうです。

(4) 受験では

 この他、定番ではありますが、女性裁判官がふたりしかいないことを受けて、ジェンダーギャップ指数の問題も出そうです。これについては各社の重大ニュースの解説をお読みください。
 一部の上位男子校の中には、明確に富裕層対象、エスタブリッシュメント対象に舵を切ったところがあり、そうした学校では、このような社会的格差に関する問題が出題されることはほとんどないと考えてよいでしょう。また競争が超絶激しい女子校の中にも、こうした問題を出す余裕がないところがあります。過去問を参照してください。
 ですがほとんどの学校は、社会的格差を「解決すべき最優先の問題」と考えています。別学、共学を問わずに、こうした社会的格差に関する問題が出ると思われます。幅広い格差の問題の一つとして、選択的夫婦別姓の問題も踏まえておくとよいでしょう。

 選択的夫婦別姓の導入については、次の本が手がかりになります。選択的夫婦別姓に関しては、2021年末に以下の本が出版され、まさに旬のテーマであることがわかります。
 サイボウズ社長の青野慶久さんが、選択的夫婦別姓導入を強く訴えています。企業から見ると、夫婦別姓の方がよい場合もあるのですね。

 男性の社会学者が、妻の姓を選んだ顛末を記した本です。姓を変える男性は少数ですが、だからこそ見えてくる不条理があります。

 各国の事情を示した本はこちら。

 選択的夫婦別姓導入に反対する側の本も読んでみましたが、「某国の陰謀」といった陰謀論に依拠しているものや、根拠があやふやな「日本の伝統」に依拠しているものが多く(すべての本で「夫婦同姓は日本の伝統」としていましたが、夫婦同姓になったのは明治以降のことなので、せいぜい150年ほどしか歴史がありません)、残念ながら納得できるものは一冊もありませんでした。

予想問題

2021年6月23日、最高裁判所は、「結婚した男女が同じ姓を名乗らなければならないことは、違憲ではない」という判決を下しました。合憲と判断したのは大法廷の裁判官15人中11人、違憲と判断したのは4人でした。

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