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2022年参院選 中学受験生向けトピック

はじめに

第26回参議院議員選挙は、2022年7月10日に投開票されることが決まりました。もともと選挙は中学受験で出題されやすいのですが、今回の選挙は憲法改正、円安対策&賃金対策などの大きな争点があります。きっちり対策しておくことが必要でしょう。そこでまず、中受に出やすいトピックや選挙の争点を挙げてみます。そして「候補者の選び方」「政治とは何か」を考えてみたいと思います。

1 選挙のしくみ

①選挙区

・都道府県を選挙区として候補者を選びます。投票用紙には候補者名を書きます。
・選ばれるのは選挙区ごとに1人~6人。大選挙区制を採用しています。
・1回の選挙では下の図の半分、74人を選びます(今回は神奈川補選があるので75人
・鳥取・島根と高知・徳島は「合区」となっています。二つの県から2人(1回の選挙では1人)を選びます。

出典:総務省ホームページ https://www.soumu.go.jp/2022senkyo/about/

②比例代表

・全国を一つの区として候補者を選びます。1回の選挙では50人を選びます。
・政党を単位にして投票しますが、投票用紙には政党名を書いてもいいですし、候補者の名前を書いてもいいです(非拘束名簿式)。
・政党は「特定枠」を設けることができます。特定枠の候補は優先して当選しますが、この候補は個人での選挙運動はできません(拘束名簿式)。

当選者の決め方
(1)政党名の得票と、その党に属する個人名の得票を合計して、政党の総得票数を求める
(2)ドント式で、各政党の議席数を決める
(3)特定枠を指定している政党の場合は、特定枠の名簿順に当選
(4)特定枠を越えて議席がある場合は、個人名の得票数が多い順に当選

出典:四日市市ホームページ https://www.city.yokkaichi.mie.jp/koho/200406/2nd/sp_03_2.htm

ドント式については、塾や学校で教わると思いますので、そちらを参照してください。
この通り、比例代表の制度はかなり複雑です。もともと比例代表制は、政党に投票するものでした。ですが、選びたい候補者に直接投票できないという問題点がありました。そこで、候補者名を書いてもよいことにして、個人名投票が多い順から当選ということにしました。これが非拘束名簿式です。
特定枠が設定されたのは、合区が問題になったためです。鳥取・島根と高知・徳島の合区では、2県で一人しか選ばれません、参議院議員が出ない県があるわけです。そこで選ばれなかった県から代表を出せるようにするため、特定枠を設定したのです。特定枠の部分は名簿順に当選なので、拘束名簿式になっています。
今回特定枠を設定しているのは、自民党2人、れいわ1人、ごぼうの党8人です。自民党の二人は、合区で候補者を立てていない県の人です(合区になっている二つの県両方から当選者を出せるようにする)。れいわは絶対当選させたい人を特定枠にしています。ごぼうの党は意図が不明です。

③投票の流れ

出典:総務省ホームページ https://www.soumu.go.jp/2022senkyo/how-to-vote/

・図の通り、投票箱は「選挙区」と「比例代表」があり、投票用紙を2枚書きます。衆院選は選挙区、比例代表、最高裁判事の国民審査の3枚書きますので、違いを確認しておく必要があります。
お家の方と一緒に投票所に行くことを強くオススメします。18歳未満の人も投票所に入れるようになりました。この選挙のあとは、国の選挙は3年間予定されていません。受験学年でない人も行くことをオススメします。
・投票日当日に都合が悪い人は、投票日前に投票できる「期日前投票」を利用できます。選挙のために届いた手紙を持って行くのが基本ですが、手ぶらでも投票できます。

2 今回の選挙の争点

①物価対策(円安対策、コロナによる所得減少対策)

今回の選挙では、急速に進む物価高に対し、どう対策するか求められます。
現在の物価高の大きな原因が円安です。円安は、日本の製品が安くなるため、輸出には有利です。一方外国のものが高くなるため、食料品、光熱費、輸入製品が高くなるのです。
円安が進んでいる理由はこうです。アメリカやEU諸国は、急速に進むインフレを抑えるため、金利(利息の割合)を上げて市場に出回るお金を減らそうとしてます。一方、日本は景気対策でまだまだ市場に出回るお金を増やす必要があると考えているため、ゼロ金利(マイナス金利)政策を維持しています。円を持つよりもドル、ユーロを持っていた方が利息でお金が増えるため、円を売り、ドル、ユーロを買う動きが加速しているのです。
また、光熱費の上昇には、ロシア・ウクライナ戦争も大きく関わっています。戦争により、ロシアからの化石燃料の輸入が止まっています。世界的に化石燃料の供給が減っている(ように見える)ため、大幅に値上がりしているのです。
物価対策は、コロナによって生活が苦しくなった人達への対策にも関係しています。消費税を下げたりなくしたりしようという政党もありますし、給付金を出そうという政党もありますし、賃金を増やそうという政党もあります。
経済政策は、私たちの生活に直接影響します。それぞれの政党がどのような対策を表明しているか、よく調べておくとよいでしょう。

②防衛費

2022年2月に始まったロシア・ウクライナ戦争により、私たちをめぐる国際環境は大きく変わりました。ロシアはいざとなると実力行使することが明らかになったのです。
また、日本の周囲の状況も緊張が高まっています。中国は三隻目の空母を進水させ、海洋進出を進めていますし、北朝鮮の核開発も進んでいます。
NATO(北大西洋条約機構)加盟国は、防衛費をGDP比2%にすることを求められています。そして今回のウクライナ戦争で、それまで防衛費を抑えていた国も、2%まで増やすことを表明しています(ドイツなど)。またそれまでロシアを刺激しないように、NATOに加盟してこなかったフィンランド、スウェーデンは、正式に加盟申請しました。
2022年度予算では、防衛費は5兆3687億円となっており、予想GDP540兆円の1%程度です。それをNATO加盟国同様の2%まで増やすのか(もっと増やすべきという政党もあります)、それとも他の、他の国に比べて後れをとっている分野にお金を回すのかが問われます。
また、「集団的自衛権」も問われる可能性があります。NATOは集団的自衛権を持っており、加盟国の一つが軍事的に攻撃を受けたら、他の加盟国も参戦することになっています。多くの国が集団的自衛権を持つことによって、攻撃されることを防いでいるのです。今回ウクライナがロシアの攻撃を受けたのは、NATOに加盟していなかったためだという意見もあります。ウクライナがNATOに加盟する前に攻撃に踏み切ったという意見もあるので、判断が難しいところではありますが。
現在の日本は、限定的にアメリカとの集団的自衛権を認めています。今後アメリカとの集団的自衛権を強化していくのか、あるいはNATOのような集団的自衛権を前提とした軍事同盟に加わるのか、問われることになるでしょう。

③原発再稼働

今年の夏は猛暑となり、電力不足が予想されています。すでに6月末は記録的な猛暑となり、6月26日から30日にかけて、経産省は「電力需給ひっ迫注意報」を出しました。また岸田首相は、節電するとポイントがつく制度を発表しました。
ひっ迫注意報が出た直接の理由は、「修理を進めていた火力発電所の修理が終わる前の6月に猛暑が来た」ためです。ですがもうひとつ、原発を再稼働するかどうかについての政府の方針が、まだはっきりしていないためです。現状では政府は「原発の再稼働は急がない」姿勢をとっており、実際に東電管内の原発(新潟県の柏崎刈羽原発)の再稼働は進めていません。それに対し、急いで原発を再稼働し、電力需給の安定を目指すという政党があります。また福島の原発事故がいまだに完全に終息していない現状を踏まえて、「原発を即座になくすべき」「段階的になくすべき」という政党もあります。柏崎刈羽原発は致命的ともいえる不祥事が起こり、対策が不十分だったことも重要です。
原発をどうするのかについて、それぞれの政党の意見を見ておきたいところです。

④憲法改正

現在自民党を中心とする改憲勢力(自民、公明、国民、維新)が求めている憲法改正の内容は、次の4点です。
(1)自衛隊を憲法で明記、自衛隊の位置付けを明確にするとともに、自衛権を持つことを明記
(2)災害、戦争時などに発せられる「緊急事態条項」の制定
(3)参院選での合区の解消
(4)教育の拡充
細かい内容については、他のページをご覧ください。例えば自民党はこちら。日弁連の(2)への反対意見はこちら
この案に賛成する勢力が、参議院の総議員の3分の2を維持するかどうかが問われています。これらの勢力が82議席を越えると、憲法改正の発議が可能になります。
憲法改正というと、(1)の自衛隊の位置付けが一番注目されますが、実際の争点は(2)であるともいわれます。東日本大震災クラスの自然災害やコロナ禍のようなパンデミックにおいては、政府がもっと強い力を持ち、人々を従わせることが必要なのかもしれません。そのようにして感染拡大を抑えた国もありました。一方現在の憲法では基本的人権が「侵すことのできない永久の権利」と定められており、非常時には国民の権利を制限できるこの条項に反対する意見もあります。特に(2)に注目して、各党の姿勢を見てみるとよいでしょう。

⑤同性婚(婚姻の平等)、選択的夫婦別姓

現在、法的な「婚姻」は、現在は男女一人ずつのカップルにだけ認められています。婚姻関係になると、法的に「家族」として認められ、相続もできます。ですが現在では、同性のカップルや、二人以上のカップルには、その権利は認められていません。現在では「どのような形の家族にも、異性カップルと同等の権利を認めるべき」という、「婚姻の平等」が求められています。
また現在では、男女が婚姻すると、どちらかの姓に合わせなければなりません。姓を変える側は非常にめんどうくさい手続きが必要になります。また姓を変えるのは96%が女性で、現状では明らかに女性が不利になっています。そこで、「姓を変えたくない人は変えなくてもよい」「婚姻した男女の姓が違っていてもよい」ことを求める、「選択的夫婦別姓」が求められているのです。注意すべきは、「夫婦の姓を別にしなくてはならない」ことを求めているのではなく、「変えたくない人は変えなくてもよいという選択肢を設ける」ことを求めていることです。
「現状の制度は日本の伝統に基づいているため、変える必要はない」と主張する政党もあれば、「積極的に変えていくべき」という政党もあります。いざ自分が姓を変えることを求められたら、どう対応しますか? 姓を変えた人は、どんな問題に直面しましたか?この問題は、私たちのこれからにも、密接に関わってくる問題です。

3 選挙情報Webサイト

実際に投票するとなると、誰に投票すべきか迷うでしょう。政党がどのような主張をして、どのような政策を持っているかという情報は、普段なかなかアクセスしないからです。また候補者がどのような人なのか知らない、という人も多いでしょう。選挙前になると、様々な選挙情報サイトができますので、それを活用すべきでしょう。

①総合情報

選挙ドットコム https://go2senkyo.com/
JAPAN CHOICE https://japanchoice.jp/
NHK参院選2022 https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/sangiin/
選挙の方法、各政党の政策、候補者の情報などを総合的に集めたサイトです。「選挙ドットコム」の運営者の中には、維新からコンサル料をもらっている人がおり、結果も維新寄りになっているのではないか、という情報があります。

②ボートマッチ(Vote Match)

えらぼーと2022(毎日新聞) https://vote.mainichi.jp/26san/
読売新聞ボートマッチ 参院選2022 https://www.yomiuri.co.jp/election/votematch/
JAPAN CHOICE 2022参院選 投票ナビ https://japanchoice.jp/vote-navi/
ボートマッチとは、質問に答えていくと、自分の考えに近い政党や候補者を示してくれるサービスです。
中学受験生も、実際に自分で考えて、候補者を選んでみましょう。分からない言葉が出てきた場合や、選んだ結果がどうなるかよく分からない場合は、お家の方に聞いてみましょう。受験生が自分で政治のことを考えることが重要です。
なお、このあと3年は国政選挙が予定されていません。受験学年ではない人も、今のうちに候補者を選ぶとよいと思います。

③政策比較

みんなの未来を選ぶためのチェックリスト -参議院選挙2022- https://choiceisyours2021.jp/
特定の政策について、各政党がどんな姿勢であるかを、○×で示しています。特に若者政策、教育政策に注目するとよいでしょう。

4 問題点

①まだ低い女性候補率

日本は、2021年のジェンダーギャップ指数が156カ国中120位で、G7では最下位です。それは管理職や議員など、意志決定者の女性率が低いことが大きく影響しています。今回の選挙でも、候補者に占める女性の割合は、全体で33.2%にすぎません。各党の割合は次の通りです。
自民:19人(23%)
立憲:26人(51%)
公明:5人(21%)
維新:14人(30%)
国民:9人(41%)
共産:32人(55%)
れいわ:5人(36%)
社民:5人(42%)
NHK党:19人(23%)
(出典:https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_62b18425e4b0cdccbe6231ef
今後は、もっと女性候補率を高める必要があります。男女比を強制的に1対1にする、クォータ制の導入を考える必要があるかもしれません。

②高い供託金

参院選に立候補するためには、一人につき選挙区300万円、比例代表600万円を納めなければなりません。要件を満たせば供託金は返ってきますが、満たさないと没収されてしまいます。
かつては売名のため、あるいは選挙はがきやポスターの証紙を他候補に売り渡すために立候補する例がありました。そのため立候補するためには、高いお金を納めなければならなくなりました。
ですが、これではお金のない人は立候補できません。日本国憲法では平等権が規定されていますが、平等な参政権が侵害されているともいえるのです。

③低い投票率

出典:総務省ホームページ https://www.soumu.go.jp/2022senkyo/about/

特に若年層の投票率が低いことが問題になっています。NHKの記事によると、若者の投票率が1%下がると、一人当たり78000円の損になるとされています。(https://www.nhk.or.jp/politics/articles/statement/20220.html)

④1票の格差

NHKによると、今回の参院選で一人当たりの有権者数が最も多いのは神奈川選挙区で96万5927人。最も少ないのは福井選挙区で31万8534人。その差は3.032倍となります。
神奈川県の人の1票の重みは、福井県の人の3分の1を下回ることになります。これは憲法14条の平等権に反しているといえます。

おわりに

選挙直前になってしまいましたが、参院選のポイントをまとめてみました。
中学受験生が候補者を実際に選ぶのは、まだ早いと思う方もいるでしょう。ですが受験生は、あと6年もすれば有権者です。衆院選1回、参院選2回経験すれば、実際に投票できるようになるのです。
また、中学校が求めるのは、政治をはじめとした世の中の動きに関心を持ち、問題を解決しようとする人です。「実際に候補者を自分で考えてみました」という人と、「政治に関心はなく投票に行くつもりもない」という人では、中学校はどちらを合格させたいと思うでしょうか。
候補者選びは、政治分野の学びを実践する、非常にいい機会です。受験生は、実際に投票した気持ちになってみましょう。お家の方と一緒に投票所に行くのも、非常に有益です。また、選んだ候補者が当選するか、開票速報を見てみましょう。当選しても、落選しても、受験生の心に強く残ります。
近年、ネットを主な媒体として、ネット上で目立つ行動をして注目を集める政党が現れています。そうした政党は、一見今の状況を変えてくれるように思えますが、実は極端な思想を持っていたり、科学的根拠のない陰謀論を信じていたり、差別的政策を掲げていたりします。なかには政党交付金だけを目的としている政党もあります。「面白そうだから」「既存の政党とはなんとなく違うから」といった軽い理由で選んでしまうと、私たちの未来に大きなマイナスになる可能性もあるのです。
ですからやはり政治を「知る」ことが重要です。そして現在起こっている様々な問題に対して、きちんと対応する政党や政治家を選ぶことが大切なのです。上記の総合サイトや、各党のマニフェストを見て、自分の一票をどこに投じるのがいいのか、考えてみるといいでしょう。

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