昨年観たパーキンソン病題材の映画の個人的記録です。

昨年観たパーキンソン病題材の映画の個人的記録です。

1)
Ride with Larry (2013) の紹介
https://www.amazon.co.jp/Ride-Larry-Smith/dp/B01M3SQBZR

アメリカのサウスダコタからのパーキンソン病当事者の映画です。
この映画(ドキュメンタリー)はFOXで賞をとったりしているのですが、後に述べるシーンなどがあり日本では永遠に公開されないでしょう。Amazon primeのサイトで見つけたのですが、あなたのお住まいの地域では観られませんとなり、どうにもなりません。Apple TVではリストにも上がりません。なんとかならんかいと調べたらVimeoで観られることがわかりました(今日現在)。1500円程度でダウンロードできるので映画一回みれば1800円ですから迷わずダウンロード。PayPal即支払いで即みられました。保存してアップルTVのライブラリにいれていつもの画面にミラー。
Larryはコネチカットのキャリア警察官でしたが20年ほど前にパーキンソン病を発症し仕事を辞めてサウスダコタに引っ越します。そこで趣味だったパン作りを発展させ、街のスーパーの中でパン屋を開店し働いています。撮影されているシーンではLarryにはかなりのジスキネジアがほとんどの場面でみられます。姿勢反射障害もあり転倒することもしばしばありますが、働くこと、コミュニティに参加することを人生の意義においている姿勢がうかがわれます。
遅くなりすぎないうちになにかでっかいことがしたいという野望のある彼は、サウスダコタを自転車(というかリカンベントトライクの一種?)にのって5日間で縦断する計画します。チームができてRide with Larry …push the pedal against Parkinson’s disease… というイベントの記録が映画のメインとなります。歩けないパーキンソン患者さんでも自転車にのると上手くのれて振戦もなくなる。運動は抑うつにもよいなどの研究成果を発表したニュースなどもはさまれて、雨の中で停滞を余儀なくされるエピソードにもめげす、チームは彼の自転車(三輪車)と応援の自転車で町々を繋ぎながらゴールにいたります。
素朴で人なつっこい平凡な田舎町のアメリカ人、カントリーミュージックとアメリカのド田舎、白人しかでてこないアメリカ。先日ご紹介したハリウッドの映画とは全くちがう保守的なアメリカが映し出されます。ライドの間に過去のエピソードが紹介されます。
ところでこんなシーンが挟まっています。DBSは100万ドルする、今は22錠薬をのんでいて痛みもひどいとのシーンがあり、なんとかならないかとカリフォルニアを訪ねます。カリフォルニアではmedical marijuanaが台頭してきておりクリニックにてLarryがその効果を試みるシーンがはいっています。ガンジャをすって数分でジスキネジアがなくなりよいオンの状態に持って行けるシーンにはびっくりしました。サウスダコタでは違法なので、元警察官ですしもってかえることはできません。このシーンがあるためおそらく日本で公開されたり日本のサイトから視聴できるようにはならないでしょう。ただしこのシーンは作り話であるという説もあります。
アメリカ人のできるとこまで自分らしく生きて社会とかかわっていく姿勢には心打たれるものがあります。
Larryは実在の人物です。映画にでているパン屋からググっていきましたら、そのパン屋もちろん実在していました。Larry が開業したパン屋です。そしてLarryが2020年に亡くなったことが地元のobituaryに載っていました。すばらしいドキュメンタリー映画ありがとう。

2)
Love and other drugs(2010)
https://www.amazon.co.jp/Love-Other-Drugs-字幕版-エドワード・ズウィック/dp/B07GQ11XGS

クラシカジャパンが今月で配信を終了するので、FireTVを導入し、アマゾンのプライム会員になってプライムビデオで結構映画が無料でみられるようになったところに、M野さんから、若年性パーキンソン病の美女とファイザーのMRのラブロマンスLove and other drugsを紹介されたのでもちろん無料で観ました。ハリウッドが制作するとこのテーマもこういう風になるのね。R-15+指定で大人のシーン盛り盛りの映画です。1997年のアメリカが舞台。製薬会社とMRがいちばん豪華に活動していたころ、あのころのSSRI祭りとPDE5祭り、日本ではちょっと遅れて2003年頃を彷彿させる。あの頃が懐かしい医療関係者にはめっちゃたのしめます。ひとつひとつのセリフの意味が考え抜かれていてそこはさすがのハリウッド。こういうアメリカ映画大好き。ハリウッドの良かった頃の最後の時代の作品。
パーキンソン病のヒロインがイケメン彼氏のMRに付き合わされた出張先で患者さんの会にいって面白おかしくそれぞれがカミングアウトするシーンが印象的です。

3)
ニューヨークからのパーキンソン病当事者の映画
「Shake with me」
https://www.shakewithmefilm.com

 ニューヨークのアーチストDebraがパーキンソン病発症してから最初の一年半を息子のZackがプロデュースした30分程度の作品です。
ニューヨークらしい映画になっています。You’ve got mailとか、as good as it getsとかバンクーバーにいたころニューヨークものの映画に嵌まっていたので(おいおいそれって20世紀だろ)、久しぶりにニューヨーク映画をみると、やっぱりいいなあと思うのです。
 エレクトロニカのEvan Reinerの音楽がまたおしゃれですが、映画中程の音楽屋あこがれのジュリアードでのsing and dance for PD(映り込んでいる案内をみると11時から3時までの4時間)のピアノジャズもNYらしくて素敵です。
 パーキンソン病の診断は、左手指の軽度の振戦のみで特に寡動も表情の変化もないころのかなり早期に診断されており、neurologist(神経内科医)の診察や問診も興味深いシーンです。嗅覚障害には気がついており、最初の診察でパーキンソン病であることを告げられています。ヤール1度のごく軽い状態で、しばらくの間は投薬をされていないようにみうけられます。そのような極早期にも社会資源の活用がはじまっており、Rock Steady Boxingなるジムやジュリアードのsing and danceのセッションなどに参加しています。やはり受容まで時間がかかる、まだ学校の娘に知れると大学にいかないとかいいだすから診断を家族にもいわないなどの葛藤がのべられています。左手の振戦のみで右手の症状がない時期ですから、painting artについてはあまり困らずに順調に活動しており、むしろ社交的に過ごしていきます。いつか右にも症状がでる、その後の予後もなんとなくわかっている、その道筋を受け入れられるかなどが話され、神経難病ならではのストーリー展開です。いつから投薬を始めるかということにも夫も同席した診察で神経内科医と十分に時間をとって相談されるシーンも考えさせられました。服薬もはじまり、18ヶ月かかってパーキンソン病のコミュニティーになじんだ、自分のアートはより複雑に深化し自分らしくなったと受け入れて映画はおわります。

4)
映画「Kinetics」について
https://www.kineticsfilm.com

「コロナウイルスによる不確実な時代に楽しみや洞察に役立つように、この映画をあと4週間無料で観られるようにしました。」
との案内があり、昨年の京都でのワールドパーキンソンコングレスに出品されて上演もされていた、パーキンソン病のドラマ教師ローズと、寄宿舎学校の生徒ルーカスとの交流を描いたパーキンソン病関連の映画が現在以下のサイトで観られます。
 英語の映画で字幕もありませんので多少解説します。(わたくしの怪しい英語理解についてはご容赦を)
 ドラマの教師のローズはパーキンソン病であることに気がつきます。左手の動きがどうも悪い、きっとエントラップメントに違いないわとおもってGPにいきます。これは紹介しないといけないといわれて、神経内科医の診察をうけて、ショックかもしれないがパーキンソン病であると診断されます。まだ薬をのむほどではないけど、サポートグループもあるしパーキンソン専門のナースがいて彼女はとっても優秀だからそちらに行って下さい。とイギリスらしい診察風景が描かれます。診察はだいたい六ヶ月おきぐらいのようですね。
 ローズは壁や塀の上を走り抜けることに快感をみいだしひたすらそれを練習する、ルーカスという少年と出会います。もちろん学校でローズとルーカスが衝突しそうになって出会います。パーコウというスポーツだそうですが、ネットでしらべたらparkour、日本語ではパルクールと訳されていることが解りました。学校では授業を聞かないで寝ているし、そのくせ勉強はできてしまう彼はADHDの診断を下されます。
 ふたりの共通点はdesire to move 動くことに対しての渇望、でそれが映画の底流となります。
 ローズは自分のパーキンソン病であることについて自撮りのインタビュー(自分語り)を記録していきます。パーキンソン病といわれたこと、薬を飲むこと、副作用をしらべて、アゴニストの副作用は、私が角のドラッグストアー(イギリス定義)にいって店員を誘ってしまうことになるの、なんて素敵、なんていいながらも、うけいれられずいらいらしている様子が記録されます。
 ルーカスはADHDと診断され、リタリン(のイギリス版、多分)を処方されますが、これは私をおとなしくしてゾンビにするものだ、と叫んでビルの屋上(かれの追求するスポーツ、parkourのフィールド)で捨ててしまいます。
 ルーカスとローズは馬が合って、ルーカスはときどきローズの教師部屋にいきます。ローズは1人でランチを自分の部屋でとっているのは、学校に自分がパーキンソン病であることを知られたくないから、などすこしずつルーカスに心を開いていきます。ルーカスはローズの飲んでいる薬がマドパーであることに気がつきます。彼の祖母がパーキンソン病だったので知っていたのです。そうしてローズはルーカスにパーキンソン病であることを知られてしまいます。ルーカスは動きを極める練習をしているわけですが、練習すればできるとローズにいいます。ローズは私はパーキンソン病なのでできっこない、私の気持ちなどわからないといいますが、段々にお互いを理解していきます。
 自撮りビデオのなかで、パーキンソン病は治らない、薬は症状をやわらげるだけと嘆き、原因もわからない、50年前と同じ薬を飲む(あらためてそう考えると私もショックでした)しかない。Life threating ではないけどlife changingだと恨みます。
 ローズはかつては女優でボンドガールだったそうです(スーパースター映画ではないようですが)。ルーカスはno way といって感心しています。そのルーカスもスイスの母親が脳腫瘍になって試験がおわったら面倒をみにいくと、またルーカスにも人生の試練が訪れます。
 パーキンソン病の定期受診(どうも医師ではなくプラクティショナーナースの診察のようですが)の際に、隣にもう少し進んだパーキンソン病患者のおじさま(ルーカスに後に説明するときにはboyと呼んでいます)に、ローズは怒っていると指摘されます。パーキンソン病はf*ckerだと彼は笑い飛ばし、自分も昔は怒っていたがと、accept adapt adjustのマントラを教えてくれました。受け入れて、慣れて、修正していく。このメッセージを自分でルーカスに伝えられたところで映画は終わります。
 全編をつうじて決して明るくない映画ですが、ローズのパーキンソン病であることを受容して前向きに生きていくというメッセージを伝えるなかなか素敵な一編です。


この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?