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2023年6月に観たものたち:白鳥湖、ラ・ボエーム、ムーラン・ルージュ

ご無沙汰しておりました。
ちょっと、引越し等々、生活環境が大きく変わりまして、記事を書くどころじゃなくなってしまっていたんですが、やっと落ち着いてきました。

さてはて、今更ながら6月(と7月前半)に行ったライブとかミュージカルとかの感想を書き連ねます。


バレエ『白鳥の湖』

さてはて、オケはそれなりに聴いてきたつもりなんですが、実は、一度も生でバレエを観たことがなかったんですね。恥ずかしい。

てなことで行ってきました、新国立劇場オペラパレス。
建設時に大激論になりながらも、敢えて小ぶりに作られた劇場ですが、素人感想ながら、音響が良くてびっくりしました。オケピって、こんなに綺麗に音が聴こえるんですね。
オケピってのは、オーケストラピットのことで、劇伴用のオーケストラが鮨詰めになっている、舞台の前のくぼみのことです。マイクも全く使ってないのに、反響板だけで、音量も解像度(粒の聞こえ)もめちゃくちゃ良かったです。むしろミスったらすぐバレる。
私もよく知らないんですが、ここの劇場は、オケピの深さを演目によって変えられるようになっているらしいですね。噂で聞きました。

うーん、様子がわかるようにホールの写真を撮ってみましたが、何にも伝わりませんね。

肝心の演目も、非常にクオリティが高い。初めてでしたが、もうただただ感動しました。チャイコフスキーの最高傑作たる、あの「白鳥の湖」なんですから、感動しないわけがありませんね。曲やプロットが持っている力がすごい。白鳥湖といえば、皆さんもご存知の悲劇ですが、やっぱり悲劇の方が人間心を動かされますね。
また、どの曲もめちゃくちゃ有名なので、皆さんも行かれると「あ、これって白鳥湖の曲だったんだ」という謎の感動もあると思います。
画面構成も、振り付けも非常によく考えられており、人間が踊っているだけなのに、本当にそこに白鳥がいて、湖が見えてくるようでした。

難をつけるとしたら、良くも悪くも卒がない感じな気がしなくもなかったので、もっと個性が出てきてもいいのかもしれません。ただ、初バレエだったので、素直に感動。これから色々と観て、審美眼を養っていきたいと思います。

ところで、チャイコフスキーってのは、やっぱりバレエ音楽が一番ですよね。交響曲もいくつか書いていて、それなりに有名ですが、バレエ音楽と比べると、あんまり上等じゃないような気がしてしまいます。交響曲だと、場面展開とかが、ちょっと唐突で繋がってない曲が多いような……。一方、バレエでは、プロットに寄り添い観客を引き込むような多彩な曲を遺しています。今回観に行って、やっぱりバレエの作曲家だなと思いました。

オペラ『ラ・ボエーム』

さて、ついでなので、新国立劇場でオペラも観ました。
プッチーニの『ラ・ボエーム』。ボエームとは、日本語(英語?)でいうボヘミアンのことです。

ボヘミアンという言葉は、字義通りには「ボヘミア人」という意味ですが、少し文脈のある言葉です。
15世紀ごろから、ボヘミア周辺に流れ着いていた遊牧民族「ロマ(ジプシー)」に由来して、主にフランスにおいて「世間一般の規範や型の外で自由に生きる人(精選版 日本国語大辞典より)」のことを、ボヘミアンと呼んでいました。
その後、19世紀になり、今回のオペラ『ラ・ボエーム』の原作でもある、アンリ・ミュルジェールの小説『ボヘミアン生活の情景』 において、新たな文脈が付与されます。ボヘミアンとは、夢を追い自由に暮らす芸術家志向の若者を指す言葉として、再定義されたのです。

本作は、パリの屋根裏でシェアルームをしている芸術楽家崩れの青年たちと、貧しい勤労少女との恋愛もの。非常に美しい作品ですが、当時の社会状況が透けて見えるのも面白いです。
アンシャンレジームが崩壊したパリ。だからこそ繰り広げられる、おそらく実家は太いだろう自由奔放な青年たちと、貧しく働く少女たちという社会階層の異なる男女の恋愛。

楽曲としても、プッチーにはイタリアオペラの雄ですが、比較的新しい時代の人なので(例えば、代表作の『蝶々夫人』は、維新開国後の長崎を舞台とした作品。)、割にびっくりする和声展開だったりしますね。

ミュージカル『ムーラン・ルージュ』

この夏のミュージカル業界で、一番アツいのは、明らかにムーラン・ルージュですね(個人の感想)。トニー賞を受賞した大作が、コロナ禍を潜り抜け日本初演です!
別に狙ったわけじゃないんですが、この『ムーラン・ルージュ』も、プロットは『ボヘミアン生活の情景』を下敷きにしたものです。

舞台は、パリに実在するキャバレー「ムーラン・ルージュ」。幕が上がる前から、既に派手派手で期待感も高まります。

開演前撮影可だったんですが、始まる前からもう豪華な舞台に圧倒されます。

まずもってびっくりしたのが、どういう舞台転換をしているかわからなかったこと。だいたいミュージカルって、「あーこの場面の装置は、上手に入ってるんだな」とか、「この独白の間に舞台転換するんだな」とか見えてくるものなんですが、初見では「あれ?いつの間にどっから出てきたんだ??」という感じで全貌を把握できませんでした。
あと、個人的に最近のミュージカルはどうも、映像を使いすぎている節があるという問題意識を持っています。少なくとも私は、映像を使って誤魔化すのは手抜きだと思っています。その点、『ムーラン・ルージュ』は、装飾や画面構成は最新鋭でありつつ、映像はほとんど(たぶん全く)使わず舞台を作り込んでありました。
派手でありつつも、丁寧に作り込まれたセットが違和感なく目まぐるしく入れ替わる。評価の大きな基準の一つに、舞台転換のスムーズさを掲げている私としては、100点満点でした。

キャストも良かったですね。私が観た回は、望海風斗・甲斐翔真・伊礼彼方等々、錚々たるメンバー。歌唱も安定していましたし、特に望海風斗の堂々たる演技に、観客一同、心を奪われました。

ところで、原作の映画からそうですが、全編通して有名楽曲のカバー・サンプリングが多用されています。モーツァルトの『魔笛』、ビゼーの『カルメン』やオッフェンバックの『地獄のオルフェ』といったオペラ・オペレッタの名作はもちろん、ビートルズ、レディーガガ、アデル、マドンナ、ホワイトストライプスなど今なお著作権が生きている楽曲をふんだんに使用。本当に、ワンフレーズだけしか使われていないものとかもあり、なんというか、豪勢ですよね。権利関係の手続をやらされた裏方に同情します。

そんなこんなで、舞台装置も、楽曲も、キャストも最高。もちろん、プロットも、かなり現代風にアレンジされていますが、名作小説を引いていますから、しっかりと楽しめます。この夏最高のミュージカルでした。

終わりに

この6月〜7月で一番残念だったのは、POLYPHIA来日公演がキャンセルになってしまったこと。チケットを取っていたのですが、直前で中止になり、仕事に行く気が失せました。マジでPOLYPHIA崇拝しているので、生で観たかった……。

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