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Netflixオリジナルドラマ『アッシャー家の崩壊』ep2小ネタ解説

(以外、小説、ドラマのネタバレを含みます。)

この文章を書いているのはケビン・ベーコン出演のドラマ『The Following』を見てポーの小説を読みあさったただのオタクですのでお手柔らかに。


 『アッシャー家の崩壊』ep2: 赤死病の仮面、見ましたよ。
 ep2にして突然"イェェエイ.ᐟエログロ ダゼェエ.ᐟという勢いを感じてとてもよかったです。ほぼエロだった気もするが。
 さて、『赤死病の仮面』は私の好きなポーの小説の一つでもあるのでep2はかなり楽しみだった。なので、さぁ!どのぐらい悲惨に死ぬんだい?!という気持ちで再生ボタンを押したら『Dopesick』が始まり、『赤死病の仮面』は?となったものだ。いや、『Dopesick』も好きなのだが。
 この冒頭のフォーチュナート製薬へのデュパンの調査や、リゴドーンの件について(追記: リゴドーンはオリジナルなのでオキシコドンについてです。)はやはり『Dopesick』を見てほしい。ロデリックが主張している"中毒性のない"も大嘘なのが分かる。あと、彼ら製薬会社のクズさも分かります。(追記: ロデリックが保険会社員云々のくだりは記憶違いだったので消しました。すみません。Dopesickのあらすじ見直していたら「内部告発者」の文字があってそっちにまたウフフとなりました。この場合身内ではなく働いていた人ですが。)

画像を押すとDisney+にとぶよ。Dopesick見てね。

 では本題の『赤死病の仮面』( The Masque of the Red Death) に話を戻そう。小説のあらすじとしては、
 "赤い死"が蔓延している国内で城に貴族らと閉じ籠もったプロスペロー王。国民が"赤い死"に倒れている間もありとあらゆる娯楽を楽しんでいたプロスペローらだったが、仮面舞踏会(Masque)が開かれていたある夜、"赤い死"を象った謎の人物が城内に現れ—
というものである。"赤死病"は文字からして"黒死病(ペスト)"(モデル自体はコレラとされている¹)。一旦これに罹ると、身体が痛みだした後に毛穴から血があふれ出し、息絶える。そして犠牲者の身体は真紅の斑点だらけになっている、という恐ろしいもの。この小説を知っているだけで、ドラマのプロスペローが悲惨な死に方をすることは容易に想像がつく。それもそれがプロスペローだけではないのが。
 ドラマのプロスペローといえばロデリック曰く"クレイジー"。原作のプロスペロー王とは明朗闊達(明るく小さなことにこだわらない)で、独特の美意識を持つという描写、そして彼を狂人(mad)と見る者がいてもおかしくないとされている点において特徴が一致しているように思えるが、才智に長けているかは少し怪しい。政府の人たちを前にして何も考えずにべらべらと口から言葉を出すぐらいだし。まぁマンネ(※最年少)にはマンネの苦労もあるようですが。
 彼が"赤死病"と関わっているだけあって、彼には赤が常に付き纏っている。ep1から服は常に赤系統だし、車も赤、クラブの紋章も赤いドクロ—赤死病にかかった者の表現か?

ep1のプロスペロー
ep2のプロスペロー。マニキュアも赤。

 さて、プロスペローが開いた官能的なナイトクラブ=仮面舞踏会。(日本語では『赤死病の"仮面"』となっているが、英語では"Masque"、ポーがわざわざ"Mask"をこの単語に変えたこともあり、仮面舞踏会の意味が強い。²) そしてそこに赤いローブにドクロ—死後硬直を象ったマスクを被ったヴェルナ="赤死病"がやってくる。原作では"赤死病"の化身によって城にいた者はみな息絶えるが、ドラマでは屋上の水槽に蓄えられていた酸性の毒—アッシャー家が存在を否定してたそれによって死んでいく。なるほどドラマではロデリックの罪が回りに回っているからこのようなシナリオになっているのかな。その建物で違法なことなどせず、本当に環境に配慮していたのなら、それはただの水だったはずだから。ところで扉が開かなかったのは何故なのだろうか。元々そういう手筈だった?それともヴェルナの企み?因みに原作で扉を開かなくしたのはプロスペロー王自身であるので、自分で逃げ道(外は既に"赤い死"が蔓延しているので元々逃げ道などないが)を失くしてしまっているという皮肉がある。ドラマのプロスペローもそうだったのだろうか。

"赤死病"を象ったヴェルナ

 プロスペローが"赤い死"によって死ぬ前、彼はヴェルナに引き寄せられある部屋に入るが、その部屋こそ原作でプロスペロー王が"赤死病"に倒れた最後の第七の部屋、緋色の窓を持った黒い部屋である。
 第七の部屋。そう、部屋は7つのはずなのだ!
 原作では城の中にはプロスペロー王が拘ったある7つの部屋がある。全ての部屋は窓も含め同じ色で統一されていて、第一の部屋は青。第二は紫。第三は緑。第四は橙。第五は白。第六は菫(すみれ)。そして、例外的に紅い窓を持つ第七が黒。なのにドラマでは部屋は12!しかも映る際には監視カメラ映像を通してしか映らないため、色も確認できない!そこは少し残念な点だった。

黒い部屋に紅い光

 さて、最後にep2における『赤死病の仮面』以外のポーに関する小ネタを見ていこう。
 まず、ロデリックが自身の病気について言及しているが、原作の『アッシャー家の崩壊』においても彼は病気を患っている。病名こそ出てこないが、語り手に出した手紙の中で彼は肉体上の病が深刻であり、精神障害に押しつぶされそうになっていると述べていることから、ドラマでもこれに習ったのだろう。
 そして、かつてのフォーチュナート製薬の社長であるルーファス・グリスウォルド。彼は小説の中の人物ではなく、実在した人物で最終的にポーと敵対するようになった人物である。³ 因みにep1に出てきたロングフェロー(ロデリックとマデラインの母親に殺された男)も実在の人物、ヘンリー・ワズワース・ロングフェローから取ったものかもしれない。ポーはこの人物に作品を盗まれたと主張しており⁴彼とも仲が悪かった。ポーと何ら因縁のあった人物らの名前をロデリックとマデラインの人生を邪魔するキャラの名前にしているのかもしれない。また、ロデリックとグリスウォルドの会話の中で出てきたランダー製薬の"ランダー"は『ランダーの別荘』から取ったものだろう。
 家に帰宅したロデリックを出迎えたのは妹のマデラインと、アナベル。アナベルといえば、そう、アナベル・リーである。彼が彼女に作った詩がその『アナベル・リー』の詩である。テンション上がっちゃうね。彼女がどんな末路を迎えるのか、それも楽しみだ。

アナベル・リー

幾年か昔のことであった。 海沿いの王領に
アナベル・リイと言う名前で 人の知る乙女の住んでいたのは、
そしてこの乙女私と愛し合っていることの外は 余念もなかった。

エドガー・アラン・ポー、阿部保訳、(第54版2012年)『ポー詩集』新潮文庫、82頁

 また、フレデリックとレノーアがボトルシップを作っていたシーンで、船の名前を"グランパス号"としているが、これは『アーサー・ゴードン・ピムの冒険』でアーサーが乗り込んだ船の名前である。細かいね。
 そしてカミーユがとうとう"モルグ"について言及した。次のエピソード(ep3)は『モルグ街の殺人』。カミーユが死にます。どうやって死ぬのか。『モルグ街の殺人』のカミーユらしく死ぬのか。ep3も楽しみだ。

 因みにロデリックが話していた『イドの魔法使』(The Wizard of Id )は実際に存在している新聞掲載の漫画で、今も掲載されてるらしい。へーーー。
 あとこのエピではみんなの性癖がおかしいこともわかった。カミーユの3Pはまだしも(?)タマレーンのはちょっと、2周目で受け入れられました。夫はどういう気持ちなのそれ。まぁ人の性癖は人それぞれなのでね。いいと思います(?)プロスペローがモレラを誘う時にフレデリックと結婚してるとはいえ相手の性別を決めつけなかったのも良かったし。

 さてここまで書きましたが『アッシャー家の崩壊』、ep2について私が言いたいことは「部屋の数は7つやろ〜」です。以上。エログロホラーとして良いエピでした。
『赤死病の仮面』、読んでね。

The Masque of the Red Death(本文↑)

 英語でいいなら朗読もあるよ。
→ https://youtu.be/RDyqvPBBnJY?si=ma6NpSCV7jOTMJW3

 聞きながら寝てね。

 では、ep3で会おう。さらばだ。



参考
¹ ² エドガー・アラン・ポー、巽孝之訳(第七刷2016年)『黒猫・アッシャー家の崩壊—ポー短編集Ⅰゴシック編—』195-196頁
³ 西山智則、「盗まれたポーと複製の詩学─ 商品としてのエドガー・アラン・ポー(2) ─」、埼玉学園大学紀要(人間学部篇 )第15号、4頁
⁴ 小谷一明、「ポーにおける盗作とは何か」、県立女子短期大学研究紀要第38号(2001)、75頁
Edgar Allan Poe, The Fall of the House of Usher and Other Writings, London ( Penguin Books), 2003


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