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デイグラシアの羅針盤を遅ればせながらクリアした感想と考察

デイグラシアの羅針盤
評価 B
魅力 ★★
驚嘆 ★
納得 ★★★
面白 ★★


  • 𖤣𖥧𖥣𖡡𖥧𖤣 あらすじ 𖤣𖥧𖥣𖡡𖥧𖤣

「どうすれば、彼女たちは生きてあの海を出ることができたのか。
もし、違う選択をすれば、結果は変わっていたのか」
2033年8月1日、
深海遊覧船は水深700mの海底に沈んだ。
一瞬にして失われた50名の生命。
残された者たちは、閉ざされた深海で生存への道を模索する。
だが、その水底には、彼らが予想もしなかった脅威が潜んでいた。
“二人の生存者”の片割れは、
繰り返す記録と記憶の果てに、彼女たちを救うことができるのか。
「生存者を決めるのは、あなたです」
これは正解のないノベルゲーム。

デイグラシアの羅針盤 公式サイト
  • 𖤣𖥧𖥣𖡡𖥧𖤣 一言感想 𖤣𖥧𖥣𖡡𖥧𖤣

★叙述トリックがよく効いた小説を読んでいる感覚
★やや文章がくどい
★選択肢は一ミリもない
★クリアしてからが本番

各所で絶賛されていたのでプレイ。プレイ時間は20時間ほど。
正直な話、一回クリアしただけでは特に面白くない。
ただ、よく考えればおかしなことにプレイ後気がつき、考察を始めると沼る。
噛めば噛むほど美味しいスルメ系ADV。

※以下ネタバレ注意!!!!!!!!


  • ✼••┈┈┈┈••   考察 ••┈┈┈┈••✼

1.物語の真相はなんだったのか

本作はエンディング3つとエクストラ6つの構成になっている。
だが、実際に起こった出来事は
「プロローグ」「白い部屋」「エクストラ」の3つだけである。
エンディングは全て主人公が白い部屋でシュミレーションしているVR
つまり、エンド3で全員生存のように見えるのもVRであり幻。
現実は生存者2名で固定であり、その2名も一葉と縁となってるので
他のメンバーは全員死亡。これが物語の真相であり、本当の結末。

・・・と、思わせて実はもう一段階ある。

この物語で語られる生存者2名の記述を正確に思い出すと、

救助隊が昏湾湾に到着し、2名の生存者を救出。
一人は片桐一瀬。もう一人は不明。

一見、SHEEPⅢのことに思えるが最後に解放されるエクストラを読むと、
この時昏間湾では「もう一つの事故」が発生していたことがわかる。
それは、片桐一瀬と西芳寺望と潜水服の少女、
3人が巻き込まれた「風の島爆発事故」。
この事故の原因は主人公達が脱出に使ったオゾン爆発であり、
観測船ゆうなぎの衝突によりメタンが漏れていた風の島に引火し
大爆発を引き起こしたのである。

従って、この生存者2名とは「風の島爆発事故」の生存者であり
SHEEPⅢの遭難事故の生存者ではない。

主人公が後悔しているのはこの内救えなかった1名(恐らく光理)のことだと考えられる。

実際、エンド3の最後に流れるのは

SHEEPⅢ遭難事故の生存者は6名

とはっきり「遭難事故」といっており、爆発事故の生存者2名は「生存者」としかいっておらずミスリードが起きるように仕組まれている
※SHEEPⅢ内の時間が1時間進んでいるのもトリックに貢献しており、作中では4時30に爆発ボタンを押しているが実際は3時30分のため、プロローグと辻褄が合う
※生存者2名=遭難事故と仮定した場合、「乗員名簿に片桐の名前はない」とプロローグで明言されていることと、生存者の片方に片桐一瀬の名前が読み上げられるのは辻褄が合わない。従って生存者2名は爆発事故の生存者であることが確定。

以上より、本当の結末とは
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「SHEEPⅢ遭難事故」の生存者は6名。
6名を生存へと導いたオゾン爆発に誘因され海上では「風の島爆発事故」が発生。
3人が巻き込まれた結果、片桐一瀬と西芳寺望の2名が「爆発事故」の生存者となり、潜水服の少女である光理は死亡。
(皮肉にもトロッコ問題のように6名を救った結果1名が犠牲に)
救助後、一葉の提案したオゾン爆発により光理が死亡したことから病む一葉。
「そうならない結末」へ辿り着こうとして白い部屋でVRシミュレーションを繰り返す(エンド1〜3)こととなり、アリスに感染しながらも生還したサンプルとして監視下に置きたいロムルスによって自覚なく囚われる日々を過ごす。
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2.2033年版メアリー・セレスト号

作中何度も出てきて食傷気味になるメアリー・セレスト号の話。
実はこの話こそが最も真相を暗示しているのではないかと思う。
メアリーセレスト号の話はざっとこんな話だ

1870年代のポルトガル沖。船員が誰一人乗っていないまま海を漂う船が発見される。船員は行方不明であり、生存者は0名。船の名前はメアリーセレスト号。
船員はなぜ消えてしまったのか。海上では一体何が起こっていたのか。

メアリーセレスト号の話は全世界で話題になり、「船で一体何が起こったのか?」を多くの者が想像した。ホームズが「船が発見された時お茶はまだ冷めていなかった」と「架空」を追加したように多くの人々が「架空」を作り、想像し、生存者0という現実の結末(エンディング0)がありながら、新たなエンディングを追加していったのである。

本作のSHEEPⅢとは、言わば2030年版のメアリー・セレスト号なのである。

わかりやすく置き換えるとこうなる。

2030年代の昏間湾。船員が誰一人乗っていないまま深海を漂う潜水艇が発見される。船員は行方不明であり、生存者は6名。船の名前はsheepⅢ。船員はなぜ消えてしまったのか。海中では一体何が起こっていたのか。

これが言わばエンディング0であり、実際に起こった結末である。
そしてエンディング1〜3とはメアリー・セレスト号のように追加された架空に過ぎないのだ。

3.描かれないエンディング0

主人公は現実を受け入れられず、VRシミュレーションにより
「どうしてこんな結末を迎えたのか?」を探ろうとする。
つまり結末(現実)→原因(架空)を探っているわけなのだが、
ここでエンド3のとある人物の発言を思い出してほしい。

「結末から原因を探ることは無意味であり、因果関係と思っているのは誤った原因と結果を結びつけているに過ぎない。
結末とは、その時最善を尽くして選んだものであり、その行動に目的はない」

もう主人公の行い全否定である。

しかしこの発言には本作全体にかかる非常に重要な意味がある。
読み手が真相に辿り着くために必要な行動とは
原因(架空)から結末(現実)を探る」こと。

この物語では現実の結末=エンディング0が語られない
だからこそ、VRという架空(原因)→現実(結果)を想像する必要があり、
架空の中に隠れた現実を集めないと真相が分からない仕様になっている

この物語はエンディング1〜3をプレイしてからが本番である。
エンド1〜3は前述の通り全てV Rであり、架空。
この架空の随所からエンド0という本当の結末を回収し、
やがてエンド0に最も近いシミュレーションがエンド3だったのだと腑に落ちる

そういう意味においてこの物語のパッケージ文は非常に正しいだろう。
この物語は 正解=真相=現実の結末=エンド0 がない物語 なのだ

4.エンド0=エンド3ではない

エンド3は現実の結末(エンド0)に限りなく近いがVRである。
なぜならエンド3は乗船名簿を偽らないことで到達できる世界線だが、
エンド0の片桐は偽名で乗船しているのが確定している
(プロローグで西芳寺望が「乗船名簿に片桐の名前は無い」発言)
エンド3はVRであることは疑いようがないが、エクストラとプロローグの整合性から考えると風の島爆破事故の説明がつくことからも、最もエンド0に近いシミュレーションだと考えられる

5.白い部屋の新聞記事と嘘つき達

6人生存説を取る場合に最も矛盾するのがエンド2の白い部屋で縁が見せてくる新聞記事だろう。新聞記事には

生存者は2名であり、一人はロムルス職員の縁。もう一人は大学院生の一葉。

とあり、これは6人生存説と一見矛盾しているように見えるが実はそうではないと考察する。理由は次の3点である。
❶大変な嘘つきである縁
彼女はエンド1〜3全てにおいて「組織のために何らかの嘘をついている」
従って、白い部屋というどう考えてもロムルス組織内の一室において
彼女が今回も何かしら組織のために嘘をついている、もしくは隠していることがあり、真実を言っていない可能性は非常に高い
❷片桐一瀬とアリス罹患者の処遇
片桐一瀬はアリスに罹患し、眠っている間ロムルスにより死亡者として扱われた。今回の場合、縁と一葉以外の4人は最終的にアリスが発症してしまったので
は無いだろうか。そのため一瀬と同様に罹患中は死亡者としてロムルスに隠蔽されるため、新聞記事の生存者は罹患しなかった縁と一葉のみとなっている。
❸無自覚に白い部屋へ囚われる一葉
オニキスをもとにVRを許可されている一葉は、結局エンド0においてもCOOSやアリスといったロムルスの機密を知ってしまった状態だと考えられる。そのような機密を知った人間をロムルスは放置できるのだろうか?
アリスキャリアというCOOSに対抗する上で唯一の手段である光理を失ったロムルスは罹患者4名を手放す気はないだろう。厳重な管理とするためには秘密を知る一葉はなるべく監視下においておきたいはずである。そうなった時、VRに夢中になることで自ら白い部屋という檻に囚われようとしてくれる一葉の存在はロムルスにとっても好都合である。ロムルスとしては一葉にはVRをやめてもらっては困るのである。


以上よりエンド0では、6名は助かったものの、縁と一葉を除く4人がアリスを発症。ロムルスの監視下に置かれることとなった4人は一瀬の時と同じように死亡者として隠蔽されたため新聞記事の生存者も2名。また、ロムルスとしては一葉を監視下に置くため、VRを続けて白い部屋に止まってくれるのが好都合。縁は組織のために嘘をつき、今日も一葉はVRを続ける。

6.デイグラシアの羅針盤とはどのような意味だったのか


メアリー・セレスト号を発見したデイグラシア号。
作中のとある人物は「その羅針盤がもう少し早くメアリー・セレスト号を指し示していれば助かったかもしれないのに」といった内容を語る。

生存者2名という爆発事故の結末を迎えたSHEEPⅢにおいて
「どうにかできたかもしれない方針」=「オゾン爆発による風の島爆発に気がつく」が生存のIFであり、

オゾン爆発がもう少し遅く発生していれば助かったかもしれないのに
が本作で一葉が求めるデイグラシアの羅針盤なのだ。


7.プロローグと光理エクストラ


最後に、この2つからエンド0(&エンド3)を整理するとこうなる。

8月3日18時
探査船ゆうなぎが太陽フレアの影響で操作に支障が生じ、風の島に衝突。
風の島は損傷が軽微ではあるがメタンやエタンが垂れ流し状態。
風の島はボヤで少し燃えるがすぐに鎮火。


8月3日深夜。
片桐一瀬、湾内でオニキスを乗せたアルゴフロートを発見
オニキスの映像により、一葉の乗船とCOOSの存在が確定。

片桐一瀬、オニキスのデータを西芳寺父に送信

8月4日 03;17
プロローグの彼=ときわと光理の父親、西芳寺父
太陽フレアにより自動運転が動かないため『慣れない運転』で湾に向かう
★船に片桐の名前がないことから、一葉はエンド0では偽名を使って乗船したことがわかる

03;25
西芳寺父、風の島に到着。
※この時はまだsheep3がオゾン爆発スイッチを押す前のため
 風の島はボヤは出たものの無事。

大型の調査船が浮かんでいるのに気がつく西芳寺父
海上で潜水服を発見する西芳寺父
(恐らく、ときわか光理が入った潜水服。sheepⅢからの生還者‥とプロローグでは記述されているが、その後、エクストラで爆発するので生還者ではないところがトリック)

8月4日 午前3;30      ※sheep内時間は1時間遅れているため
sheepⅢ側がオゾン爆発を起こし、連鎖的に海上の風の島が爆発する
片桐一瀬の声が聞こえ、西芳寺父、光に包まれる(=風の島爆発)
※一瀬と西芳寺父は200m離れていた

片桐一瀬、潜水服の人物、西芳寺父、爆発に巻き込まれる

8月4日 午前4時14分
潜水艇内からの連絡
※これも風の島爆発の話であり、SHEEPⅢではない。
 プロローグで西芳寺父が「調査船が止まっている」と描写していることから
 「風の島爆発」で無事だった片桐一瀬が近くに停泊していた調査船の潜水艇(恐らくSHEEPⅢの探査船の一つ)より救援を呼んだ。SHEEPⅢからの連絡とミスリードさせている。

8月4日 午前4時26分
救助隊が昏湾湾に到着し、2名の生存者を救出。
一人は片桐一瀬。もう一人は不明。
(ここもミスリード。この救助隊は風の島爆発事故の救助隊でありSHEEPⅢ潜水艇の救助隊ではない。そのため、一葉ではなく爆発現場に居合わせた一瀬が生存者としてカウントされている。)

8月4日 5時06分
オゾン爆発後、30分かけて海面へ浮上したsheepⅢ
風の島が燃えているのを目撃
SHEEP遭難事故の生存者は6名‥

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