PGT-Aにおけるモザイク胚の管理

Preimplantation genetic testing for aneuploidy: The management of mosaic embryos

参考論文
Yu, E. J., Kim, M. J., Park, E. A. & Kang, I. S. Preimplantation genetic testing for aneuploidy: The management of mosaic embryos. Clin Exp Reproductive Medicine 49, 159–167 (2022).

PGT-Aの診断技術の精度が向上するにつれて、モザイク胚が同定されるようになってきています。いくつかの研究で、モザイク胚は着床と生児出産のための生殖能力を有するという証拠が得られています。特に、モザイク率50%以下のモザイク胚は、正常胚と同程度の出生率を得るという報告もあります。この概念はPGT-Aに大きな衝撃をもたらしましたが、さらなるエビデンスと理論的な関連データが必要です。移植に適したモザイク胚を選択するための適切なガイドラインは、出生可能な廃棄胚の数を減らし、胚移植の成功率を高めることに期待できます。本論文では、いくつかの学会で提言されたPGT-Aを用いたモザイク胚移植に関するガイドラインをまとめました。

モザイク胚について

モザイクとは、1つの個体に複数の遺伝子型が異なる細胞集団が存在することです。モザイク胚は、受精後の体細胞分裂の分裂エラーから生じると考えられています。PGT-Aでは、モザイクは20-80%の異常と正常のDNA含有量の混合と定義され、異常DNAが20%未満は正常、80%以上は異常としています(30-70%と定義していることもあります)。モザイク胚の発生率は5-30%と報告されています。モザイクは、胚盤胞期胚(5-15%)に比べ、割球期(30-70%)により頻繁に見られます。モザイクは母体年齢と関連していないと考えられています 。

モザイク胚移植について

モザイク胚移植に対する賛否両論が未だに存在しています。これまでに策定されたモザイク胚移植に関するガイドラインに対しての反論もいくつかの論文から出ています(参照1, 参照2, 参照3)。このようにモザイク胚の管理について考え方にはバラツキがあります。しかしながら臨床医がPGT-Aの結果を患者に伝え、モザイク胚移植の推奨をする際には、有益な遺伝カウンセリングリソースを利用できるようにすることが重要です。そのために、本論文ではこれまでに発表されたガイドラインをまとめて提供することを目的としました。

モザイク胚の移植の優先度

モザイク胚の生存率は、モザイク率、関与する染色体の種類や数、モザイクの種類など、複数の要因によって決定されます。下記に各ガイドラインをまとめました。

PGDIS Position Statement 2016
PGDIS2016では、関与する染色体とモザイクのレベルに基づいて、モザイク胚移植の優先順位を決定しました。また、モザイクトリソミー胚よりもモザイクモノソミー胚の移植を推奨しましたが、この声明は2019年に更新され削除されました。
移植優先度最高:モノソミー(45X除く)
移植優先度高:トリソミー 1, 3, 4, 5, 6, 79, 10, 11, 12, 17, 19, 20, 22, X, Y
移植優先度低:トリソミー 2, 7, 14, 15, 16
移植優先度最低:トリソミー 13, 18, 21

CoGEN Position Statement 2016
CoGENのガイドラインでは、関与するモザイク染色体によって移植優先度を決めました。
移植優先度高:1, 3, 4, 5, 6, 8, 9, 10, 11, 12, 17, 19, 20
移植優先度中:2, 7, 14, 15, 16
移植優先度低:13, 18, 21, 22

PGDIS Position Statement 2019
様々な検証により、PGT-Aのモザイク率を20-80%として、30-50%を低レベルモザイク、50-70%を高レベルモザイクと定義しました。低レベルモザイク胚は高レベルモザイク胚よりも、生殖成績は良く、高レベルモザイクの胚は流産のリスクを増加することが分かってきました。これらの報告を踏まえ、PGDIS2019ガイドラインでは、下記のように移植の順位を決定しました。
低頻度モザイクを高頻度モザイクより優先
特定の染色体に基づいた移植の順位付け(
Grati et al., 2018, RBMO参照)
移植優先度最高:1, 3, 10, 12, 19
移植優先度高:4, 5, XYY
移植優先度中高:2, 7, 11, 17, 22
移植優先度中低:6, 9, 15
移植優先度低:8, 20, XXX, XXY
移植優先度最低:13, 18, 21, 22

PGDIS Position Statement 2021
2021年のCapablo et al.の研究により、低レベルモザイク胚は、正常胚と変わらない生殖成績を得ることを明らかにしましたが、PGDIS2021ガイドラインでは、この論文にも言及していましたが、モザイクレベルの移植順位については、PGDIS2019を踏襲していました。またモザイクの種類(Segemntal aneuploidyは正常胚と移植成績が同等)やモザイク染色体の本数(複数のモザイク染色体は成績が悪化)によっても移植の優先度を考慮すべきと定義されました。
低レベルモザイク胚は高レベルモザイク胚よりも移植を優先
類似のモザイクは、形態学的グレードに基づいて優先順位を決定
モザイクの種類(全染色体かSegmentalか)により優先順位を決定
モザイク染色体の本数により優先順位を決定

出生前診断

モザイク胚移植後の出生前検査に関する証拠に基づくガイダンスはまだ不足していますが、ほとんどのガイドラインは一貫して羊水穿刺を出生前診断のゴールドスタンダードとして推奨しています。

遺伝カウンセリング

モザイク胚移植前に、カウンセリングでは、モザイクの結果を解釈する際の課題、モザイク胚移植の潜在的なリスク、およびモザイク胚移植結果のデータや論文などに基づいて議論する必要があります。さらに、出生前診断の利点、リスク、および限界に関する情報を提供する必要があります。これまでのところ、モザイク胚移植後のほとんどの出生前検査の結果は、染色体異常のない正常な健康な胎児を示していますが、稀ではありますが染色体異常の報告もあります(参照1, 参照2)。可能であれば、モザイク胚を移植するのではなく、追加周期を経て、正常胚を得るように患者に勧めるべきです。

まとめ

モザイク胚移植が可能かどうかをめぐる議論は続いています。しかし、モザイク胚移植後の出生後および新生児期の転帰に関するデータはまだ限られています。一方で今日もモザイク胚移植の症例報告や大規模な研究は実施されており、最近ではESHREからもガイドラインが報告されました。また日本でも胚診断指針という名称でモザイク胚のみならず、PGT-Aにおける診断指針が提示されています。

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