モザイク胚と正常胚の移植成績?

この論文は、Medrxivに「chromosomal normalcy of newborns derived from putative low/moderate-degree mosaic IVF embryos」というタイトルで出版された時は、かなりセンセーショナルな内容で、これまでPGT-Aの結果、モザイク胚は正常胚と比較し、移植率や妊娠率が低いことが通説だったのですが、それを否定しました。当然PGT研究しているグループ内でもこの論文は話題になりました。この論文は、NEJMのような臨床よりの査読誌に載るものだと思っていましたが、AJHGだとは思いませんでした。私としては、Medrxivの内容の方が非常に興味ありましたが、AJHGに出版された論文では薄れた感じがして少し残念です。ともかくこの論文はPGDIS POSITION STATEMENT 2021にも参照され、PGT-A後のモザイク胚移植について、新しい議論を起こしました。

参考論文
Capalbo, A. et al. Mosaic human preimplantation embryos and their developmental potential in a prospective, non-selection clinical trial. Am J Hum Genet 108, 2238–2247 (2021).

結果

Incidence and prevalence of chromosomal mosaicism on blastocyst-stage human embryos
本論文のFigure 1では、ICM(Inner cell mass: 胎児を形成する部位)と4ヶ所のTE(Trophectoderm: 胎盤を形成する部位)での染色体核型の比較の結果を示しています。実際に臨床で生検する部位のTEが、正常胚や低もしくは中程度のモザイク胚を示した場合、ICMでは95.5~99.6%の確率で正常胚となる。一方で高モザイク胚の場合、ICMでは65%の確率で異常胚と判定される。つまり胚盤胞期において、低中頻度モザイク胚は、ICM部位では正常核型を持っている可能性が非常に高いことを示した。

Prospective non-selection clinical-trial results
この論文のハイライトとも言えるデータはFigure 2になります。具体的には、PGT-Aの結果、正常胚やモザイク率50%以下の胚を持つ783人の患者に対して、847回の単一胚移植が行われました。内訳は484個の正常胚の移植と282件の低頻度モザイク胚(20-30%)移植、131個の中頻程度モザイク胚(30-50%)移植を行いました。その結果、出生率は正常胚43.4% (95% CI = 38.9–47.9%)、低モザイク胚42.9% (95% CI = 37.1–48.9%)、中モザイク胚42% (95% CI = 33.4–50.9%)となり、正常胚と低・中頻度モザイク胚の間に出生率の統計的な差はありませんでした。また移植率、妊娠率、流産率にも統計的な差はありませんでした。正常胚(11人)、低頻度モザイク胚(18人)、中頻程度モザイク胚(9人)の移植によって得られた新生児の染色体検査を行い、すべてが正常であることを確認しました。核型やUPDの異常はありませんでした。

考察

モザイク胚を移植から除外することで、累積出生率が低下する可能性があります。著者の予測計算では、最大36%(低モザイク胚と中モザイク胚を移植しなかった場合)、累積出生率が低下しました。現在、品質の低い形態グレードにもかかわらず、モザイク胚よりも正常胚移植を優先します。質の低い正常胚を使用することで、質の高いモザイク胚を移植する場合に比べて成功の確率が下がる可能性があります。また他の論文ではモザイク胚の妊娠率は正常胚と比較して低いという結論がありますが、これはモザイク胚移植のほとんどが、正常胚移植後の移植不成功患者に行っていることが原因ではないか?と著者らは仮説を立てていました。そのため、本論文ではモザイク胚移植のRCT研究が行われたのだと認識しています。


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