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大家必見!債権を諦めない!日常家事債務は相続放棄をしても義務が残る!!

日常家事債務に関する考え方

別居中の配偶者の立場でも、日常家事債務で婚姻生活での費用は夫婦で返済する義務がある。
別居というだけでは逃れるのは難しい。
日常家事債務上は、別居者の住まいは別荘という扱いになる。
日常家事債務とは、食料や医療などの生活必需品の購入や家賃・医療費・教育費の支出について負った借金等のこと。
そのため、家賃やガス・電気・水道などの公共料金については、相続放棄をしても、生計をともにしていた配偶者には、支払い義務が残ることになる。

ご入居者の孤独死が発覚

あるひ、保有するアパートの1室で孤独死が発生したと管理会社から電話連絡を受けました。
ファミリー向けの賃貸物件なのに孤独死?
管理会社と会話したところ、お部屋の中でお亡くなりになられて、日数も経っていそうだが、警察同行のもと立ち入って状況確認しないと詳細がわからないとのことで、こちらでできることや動いたほうが良いことなどあるかを確認したところ、ひとまず、管理会社の方で一通り動くので、必要時適宜連絡を入れるようにするとの回答。
このアパートの管理会社は、とても優秀で親切。アパートの経営・運営の中で、基本は大家のパートナーという立場から、入居者の住環境に関して、きちんとお住まいの方にも寄り添って大家に助言もいただける。
そんな管理会社なので、ひとまず、一次対応をおまかせすることにしました。

室内状況確認の結果

室内の状況確認が終わり、管理会社から再度連絡がはいりました。
お亡くなりになられた方は、賃貸借契約者本人とのことで、死後1ヶ月ほどが経過しているとのこと。
ベッドの上でお亡くなりになられており、ベッド、室内のクロス、エアコン、ベッド下の床などは全て廃棄の上、室内の特殊清掃が必要との回答でした。
賃貸借契約上では、ご家族も同居だったはずだったのですが、近年は単身でお住まいだったご様子とのこと。
管理会社は、すぐにご家族(相続人)および、ご入居者契約の火災保険会社、家賃保証会社に連絡をとり、様々なことを手配・整理してくれました。
本当に助かりました。

火災保険会社との調整結果

管理会社がご入居者加入の火災保険会社と調整を行ってくれました。
その結果、孤独死が発生した場合の被害箇所撤去、特殊清掃、及び原状回復は保険の適用になるとの回答でした。

相続人との調整結果

火災保険会社からの回答を受けて、管理会社は相続人と連絡を取ってくれました。
故人の配偶者、息子は現在は別居しているとのことでしたが、各種手続きや遺品の整理などを行うために、管理会社と会話に応じていただけました。
その結果、以下をご判断いただきました。

  1. 賃貸借契約解除までの家賃の支払い

  2. 被害を受けた室内の原状回復(保険適用の上、足りない分を相続人負担)

  3. それらの対応が完了し、室内の遺品が片付いた後、賃貸借契約の解除

その後、管理会社から相続人との話もまとまったため、まずは、室内の特殊清掃に取り掛かるとのことでした。
また、相続人から遺品を整理したいので、その際に駐車場をお借りしたいとの要望があると伝えられ、私はご要望どうりに対応で良いのではないかとお話したところ、管理会社からは、無料で貸してしまうと、他の方にも同じような要望が出た場合に前例により断れなくなることもあるので、貸すけれども、時間貸しで料金を支払ってもらっておいたほうが良いとのことでした。
管理会社からの重要なご意見に耳を傾け、管理会社の提案通りに対応することをお伝えしました。

室内の特殊清掃を行い遺品をすべて撤去

程なくして、管理会社から室内の特殊清掃が完了したとの連絡がありました。
室内は、被害を受けた箇所は全て廃棄し、その上で特殊清掃を行っており、匂いやシミも残っていない状況を確認済みとのことでした。
ただ、管理会社は申し訳無さそうに、室内クロスとエアコン2台も今回撤去になりましたとのこと。
このお部屋は、現ご入居者が入る前に、全面リフォームしており、エアコン設備2台新品、クロスも全部屋新品の状態で貸し出していましたので、賃貸期間からすると、まだまったく減価償却しきれておらず、その分が無駄になってしまうという点で、申し訳ないとのことでした。
しかし、状況的に選択肢はありませんので、後は、火災保険や相続人の方の負担を求めていくほかありません。
ひとまず、原状回復をして次の借り手を見つけることが必要なので、原状回復のお見積りを進めていただくことになりました。
原状回復のお見積りの中で、今回の事故の被害箇所に該当する部分は火災保険で賄える可能性が高いため、引き続き火災保険会社との連絡も取りつつという対応になりました。

保証会社との取り決め

次に、保証会社との家賃代位弁済の取り決めについて、管理会社から説明を受けました。
保証会社は、基本的に、お亡くなりになった日までの家賃を保証する規定とのことで、それ以降の家賃がすでに振り込まれている場合、後日、返還していただく手続きが必要とのことでした。
賃貸借契約が解除されていないため、今回の様々な手配を進めていく中でも保証会社からは該当のお部屋の家賃が振り込まれますが、原状回復が完了し、相続人の方が賃貸借契約を解除されてから、ようやく家賃の振込が停止しました。
お亡くなりになった日から換算して、約2.5ヶ月ほどの家賃は、後日保証会社に返還する必要があります。
保証会社に返還した家賃分は、賃貸借契約に則ってご入居者やそのご家族、連帯保証人(いれば)に請求することになります。
賃貸借契約が解除されるまで(実際は、お部屋の明渡しが完了するまで)は、次の借り手に貸し出せず、そのための準備もできないため、家賃が発生するのです。

突然の被相続人による相続放棄

全て順調に進んでいると思っていたのですが、突然管理会社から連絡がはいり、相続人の方が相続放棄をする意向であり、手続きを進めているとの連絡がありました。
ただ、ここでも管理会社はとても冷静で、火災保険会社にすぐにそのことを相談した結果、相続放棄が認められた場合、アパートの所有者が保険申請の手続きをすることで、問題なく保険金対象になるとの回答をすでにもらっていました。
しかし、火災保険で賄えなかった範囲については、相続人に請求する術がなくなったため、大家の自己負担となってしまいます。
また、火災保険の手続き時に相続放棄申告が受理された証明とともに申請手続きをするなど、手続き関係の手間も増えてしまいます。
すぐに管理会社に相談し、相続放棄手続き代理を依頼している弁護士の連絡先と申請先の裁判所の連絡先を教えていただくよう依頼しました。

弁護士・裁判所に連絡

管理会社と会話した翌日に、すぐ、弁護士の連絡先を管理会社が確認して情報展開してくれました。
すぐに、弁護士事務所に連絡し、該当アパートの大家であることをお伝えし、事実関係の確認を行いました。
私からは、以下を確認しました。

  • 相続人の方が相続放棄申入をされたと聞いているかそれは事実かどうか

  • 申入先の裁判所

  • すでにお部屋にある遺品を撤去し、特殊清掃などを相続人承認の上で実施済みだが、相続の単純承認にはあたらないか

  • (最後にわざと意地悪な質問)特殊清掃と遺品整理の請求書が大家の方に来ているが相続放棄したらそうなるものなのか

弁護士からは、以下の回答でした

  • 相続放棄申入は配偶者・息子の2名で実施している

  • 裁判所は●●●●裁判所

  • 撤去した遺品の内容によるが、お部屋を片付けられた程度であれば相続放棄申入は受理される可能性が高い

  • 特殊清掃と遺品整理の請求書が大家さんに届くのはおかしいのではないかと思う

次に、裁判所に問い合わせを行いました。
裁判所には、相続放棄申入が入っているかを確認し、すでに申入が入っているとのことでした。
そこで、事情を説明し債権者の立場である点と相続人の方々が相続放棄をすると被害を受けるため、相続放棄申入の受理がされるか否かを確認したいと伝えました。
また、それと合わせて、裁判所ではどういう事実関係を行って判断をするものなのかを確認しました。
すると、裁判所では、相続放棄について申入があれば、広く受理する方針との回答でした。
さらに、相続の単純承認が成立しているかもしれない事実があった場合、裁判所はどのように確認をするのかを確認したところ、受理に対して不服があれば、弁護士に相談して不服申立てをするかどうかを検討していただくことになるとの回答でした。
結局、相続放棄の条件が揃っているか否かの判断基準については、全く回答を得られず『広く受理する』という方針のみが伝えられました。

未払い家賃について

以前、管理会社から相続放棄に関する連絡があったときに、管理会社は保証会社に返還する賃料についても相続人に請求ができなくなるかもしれないとの心配を頂いていました。
そこで、相続と賃貸借契約の線引について綿密に調査を行いました。
その結果、以下のことがわかりました。

  1. 日常家事債務という義務がある

  2. 別居中の配偶者の立場でも、日常家事債務で婚姻生活での費用は夫婦で返済する義務があるとされている

  3. 別居という状況だけでは、日常家事債務から逃れるのは難しい

  4. 日常家事債務上は、別居者の住まいは別荘という扱いになる

  5. 日常家事債務とは、食料や医療などの生活必需品の購入や家賃・医療費・教育費の支出について負った借金等のこと

  6. 家賃やガス・電気・水道などの公共料金については、相続放棄をしても、生計をともにしていた配偶者には、支払い義務が残ることになる

  7. 夫婦が共同生活をするうえで必要となる費用のことを婚姻費用と言う

  8. 婚姻費用は夫婦が分担することになっており、婚姻期間中、この分担義務は原則として消滅しない

  9. 夫婦が別居しても、婚姻費用の分担義務は継続する

つまり、要約すると故人の配偶者には家賃を支払う義務があり、これは相続とは一切関係がないということになります。
すぐに、管理会社に連絡をとり、以下を伝えました。

  1. 保証会社への家賃返還は然るべきタイミングで実施し、送金家賃と相殺処理を依頼

  2. 保証会社から頂いた返還家賃に関する請求書記載の金額分は故人の配偶者に請求を行う

  3. この請求は管理会社の手間をかけることなく、大家から直接配偶者に請求する

日常家事債務は相続放棄をしても義務が残る

以上が、孤独死後の相続放棄の初動対応結果となります。
大家の立場では、相続放棄をされたことにより、執行できない債権が出てくることも間違いありませんが、滞納家賃については、配偶者がいれば相続放棄とは関係なく、配偶者に請求可能です。
債権を諦めない。

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