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【タイ・音楽の旅2023】7日目(2):厳重警備で緊張感が漂うネスカフェのライブ

2023年10月27日(2)

学生達によるイサーン伝統音楽のステージが終わり、次にメインステージで行われるネスカフェ・シーナコンのライブを観る為に移動した。

初めての会場だと目的の場所を探すのに一苦労してしまう事が往々にしてあるが、この会場は4年前にも来たことがあったので、どの場所に何があるのかはだいたい把握していた。

所々にコンサートの垂れ幕はあったが、ステージからはだいぶ離れていた

4年前にここでモーラムのコンサートを観た時、最初は県庁の建物の前にステージが建てられていたので、通りからも見え、分かりやすかった。しかし、コンサートが深夜3時頃になった時、突然打ち切られてしまう。多分、騒音の苦情が来たんだろう。その後、ステージは通りからかなり奥まった、メコン川に近い場所に移動された。

今回もその移動された時と同じ場所にステージはあった。入り口で入場料を払い、荷物チェックを受けて会場に入る。イサーンでは入場料がまだ120バーツだった。バンコクの180バーツと比べるとだいぶ安い。

ステージ前には既に多くの観客がいた。そして、警備を担当する警察も、普段他の会場と比べたら、はるかに沢山いた。そういえば、ネスカフェのコンサートは以前もこうだった事をふと思い出した。

2017年10月チェンカーンでのネスカフェのライブ

ネスのコンサートを最後に見たのは6年前(2017年)のルーイ県チェンカーン。今回と同じ10月でオークパンサーの時期だった。この時は前日にラムヤイを同じ場所で観ているのだけど、会場はいたって普通で、それほど物々しい警備などはなかった。

しかし、翌日のネスの出番になると、空気は一変した。いざネスが登場するかというタイミングで、ステージ前に20人以上の警察が横並びに並び、観客を睨みつけていた。確かに、観客の質もラムヤイの時とはだいぶ違い、柄の悪い感じのする若者が多く見受けられた。

チェンカーンでは男性の観客が多かった

今回のナコンパノムも状況が似ていた。ネスはちょっと悪い系の人に好かれるのだろうか。彼らの中には酒を飲んでいる者も多くいるので、コンサートが始まる前はまだ良いのだけど、終盤になると酔いが回ってきて暴れだしたり、最悪ケンカし始める者もいる。警察が目を光らせて見ているのは、そういう連中だ。

この日も不穏な空気が漂っていた。メイン歌手が登場する前からテンションの高い観客。踊ったり歌ったりしている女の子も多かった。女の子はまだ良いのだが、男性にはあまり近づかない方が良い事は、これまでの経験上分かっていたので、自分の居場所は出来るだけ女性の近くを選んだ。

前座が終わり、いざネスの出番かという時に、ステージには警察が登場。そして、観客に向かいこういった。「ケンカはしないでください。約束を守れなければ、帰ってもらいます」。

コンサートが始まる前に注意を促す警察の人たち

6年前のチェンカーンでもここまではなかった。相変わらず「ネスのコンサートは要注意」という情報が警察に行き渡っているのだろう。かつてよりさらにピリピリしたムードが会場を支配する。

そして、ようやくこの日の主役、ネスカフェ・シーナコンがステージに現れる。彼女の姿を観るや否や絶叫する観客。1曲目マリワナ(มาลีฮวนน่า)の「サハーイ・スラー(สหายสุรา)」のカバーからテンション・マックスだ。女の子の黄色い声は耳に痛いくらい。

ネスカフェは若者のカリスマとしてまだまだ存在感を放っていた

久しぶりに見るネスは幾分ほっそりした印象。ただ、それに反して存在感は増していた。派手に飾る事なく、黒に統一された服に身を包んだ彼女の姿は、プアチーウィット系のアーティストに通ずるカリスマ性を感じる。

以前、僕はネスの事を「新たなカリスマ」と表現したことがあるが、それもあながち大げさではなかったと、観客の反応を見て、改めて感じた。SNSを見ていても思うのだが、彼女の一挙手一投足が今のイサーンの若者(特に女の子)にとっては憧れであり指標なのだろう。

正直な事を言うと、ネスの音楽性は僕の好みからは若干外れた所にある。これまで彼女のコンサートに積極的に行かなかったのは、そういう理由が大きい。今回もライ・ルア・ファイとタイミングが合わなければ、他のコンサートを優先していただろう。

ただ、今回ネスのコンサートを観るチャンスが有って、改めて彼女の良さに気が付くことが出来た。その大きなポイントは選曲の面白さである。ネスのコンサートの観客は圧倒的に若者が多いから、そういう客に受ける選曲をしていくと、往々にしてポップス・ロック系のカバーが多くなる。

しかし、ネスはしっかりルーツへの敬意を忘れていなかった。前半こそ若者受けしそうな曲を歌っていたが、中盤になるとプムプアン・ドゥアンヂャンの「サーオナー・サン・フェーン」をはじめ、モーラムも何曲か入れていた。歌唱力的にはもうちょっと頑張ってほしい部分もあったが、こういうタイのルーツを忘れない点には好感が持てる。

それと、今回印象が良かったもうひとつの要因に、バンドの演奏クオリティーの高さがある。

しばらくステージを観ていなかったので、メンバーの入れ替わりはあったと思うが、以前よりもブラッシュアップされていて、かなり強力な高い演奏していた。ネスとのコンビネーションもしっかり取れていた所も良かった。

それにしても、警察の警備は厳重だった。コンサートの最初から最後まで、かなり厳しい目つきで観客を睨みつけていて、ステージの下からだけでなく、上からも目を光らせていた。それでも、中盤いざこざが有って、一旦演奏が止まった時があった。

自分の周りは危なそうな人間はいなかったはずだからと、すっかり安心していたのだが、コンサートも終盤になってきたら、度々背中にぶつかってくる人がいた。ふと後ろを振り向くと、女性がいたと思っていた場所は酔っ払いの男性たちに変わっていて、かなり危なっかしい踊り方をしていた。

もうコンサートも終わり間際だったので、急いでその場を離れる。そういえば、ネスに挨拶していなかったと気付き、警備をしていた警察の人にチップをあげるだけだからと伝え、ステージへと近づいて行った。

チップをあげる素振りをした時、最初ネスは僕の事に気が付いていなかったようだが、近くに来てチップを渡したら、僕の顔を見て「あーっ!」というジェスチャーをしていた。

彼女がラムヤイやアームと一緒に活動していた頃は、毎日のように顔を合わせていたから、さすがに6年のブランクがあっても覚えてくれていたようだ。しかし、今や3人とも個人個人で活動していて、絶大な人気を誇っている訳だから、あの時間はまさにミラクルだったと言える。

カラバオ「バーン・ラヂャン」のカバーで、コンサートは大盛り上がりの内に終了した

コンサートが終わって、すぐにバックステージに行ったものの、ネスは足早に会場を去ってしまい、2ショットは撮る事が出来なかったが、久しぶりに観たネスカフェのコンサートは、とても満足のいくものだった。


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