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カンヌライオンズ2023視察レポート「#2hQK|#ニジカンキューケー」前編。2023年における新しいクリエイティブとは?

ピラミッドフィルム クアドラ(以下:クアドラ)は今年もカンヌライオンズの視察に行ってきました!
帰国後には視察レポートイベントを実施。充実した内容にするべく2回に分けての開催となりました。

第一弾は2023年7月5日(水)に開催。スピード重視で速報的にカンヌライオンズ2023の受賞作品を紹介しました。
第一弾のレポート内容はこちらからご覧いただけます。

そして第二弾「#2hQK|#ニジカンキューケー」を2023年7月24日(月)にカンヌ初参加のKonelの皆さんと合同で開催しました。

Konel Inc.
「妄想と具現」をテーマに、30職種を超えるクリエイター / アーティストが集まる越境型クリエイティブ集団。ブランドデザイン・研究開発・アート制作を越境してプロジェクトを推進し、未来体験の実装を続けている。
知財と事業をマッチングさせるクリエイティブ・メディア「知財図鑑」を手掛ける。

クアドラからは、今回で6度目の視察となるクリエイティブディレクター阿部達也と、過去3度の視察経験を持つ司会役のプロデューサー溝渕和則が登壇。
Konelさんからは今回初の視察となる、クリエイティブディレクター足立章太郎さん、プロデューサー澤邊元太さんが登壇しました。

本イベントは二部構成で実施。第一部ではのクアドラよる今年のカンヌライオンズの総括や日常業務での考え方を、第二部ではKonelの皆さん(知財図鑑)による現地で見た世界のイシュー&テクノロジーの今をお届けしました。

noteでは第一部クアドラパートのレポート内容を前後編2回に分けてまとめていきます。前編である今回の記事では、今年の新しいクリエイティブと今年のカンヌライオンズで重要視されたものを解説してきます。


2023年における新しいクリエイティブはAI?

2023年における新しいクリエイティブを考える前に、コラムニスト天野祐吉氏の著書『天野祐吉ことば集 広告の見方 ものの見方』に書かれていた言葉を紹介します。

では、2023年における「新しい」とは一体何か。それはAIだったと言えるでしょう。

画像生成AI「Midjourney」のオープンベータ版公開が2022年7月だったことから、今年のカンヌライオンズはどこもAIで持ちきりで、生成AIを使用した作品が昨年に比べて圧倒的に増えました。

さらに、Microsoft のビーチに「Bing」による生成AIのギャラリーが展示されていたり、AdobeのAIで生成したOOHが会場に掲示されていたり、OpenAI COOのブラッド・ライトキャップ氏のセミナーは長蛇の列ができ、入場できない人もいました。

しかし、審査員たちからは次のようなことが語られました。

フォトショを使うのと同じように、AIは素晴らしい作品を作るためのツールであり、賞を取るためのものではない。

Inside The Jury Room | DIGITAL CRAFT LIONS

テクノロジーやAIやその他もろもろを押し付けるのではなく、人間のストーリーを伝える方法を本当に理解している驚異的な例。
(Never Done EVOLVINGに対して)

Inside The Jury Room | DIGITAL CRAFT LIONS

私たちはAIや世界のテクノロジーに興奮する。
そして時には、おもちゃに熱中するあまり、人間の物語が後回しになってしまうこともある。

Inside The Jury Room | PRINT & PUBLISHING LIONS

つまり、AIで持ちきりだったカンヌライオンズですが、審査員たちの中や多くのセミナー内で「AIはツールである」と結論付けていたのです。

では実際にAIをツールとして使用していた作品を2つ紹介します。

「The Subconscious Order」

「The Subconscious Order」は、フードデリバリーサービス内のメニューの選択肢過多を解消するためのシステムです。

人はフードデリバリーサービスを利用する際、何食べようかと迷う時間が1年で約132時間あると言われています。
そこで、ユーザーの潜在意識を利用した新機能として、スマートフォンのカメラを使い、ユーザーの視線を追跡するシステムを導入。ユーザーが見つめた食事の画像をAIが分析し、選択肢を絞り込むことで、メニューに迷う時間を短縮させました。

「Inflation Cookbook」

「Inflation Cookbook」は、400種類以上の主要食材の価格変動を追跡し、費用対効果の高い食事選択を提案するシステムです。

世界でもインフレが加速し、多くの人が家計のひっ迫を訴えています。こうしたインフレから国民の生活を守るためのシステムとして「Inflation Cookbook」が開発されました。

AIが400種類以上の主要食材の価格変動を追跡し、食料品の買い物をする際に価格を抑えたものを選び、それらのお得な食料品を使ったレシピを提案。レシピはプロのシェフや栄養士が監修しており、価格を抑えるだけでなく、健康面も意識されています。
また、システムだけでなくアプリ内で使用されている料理の画像もAIで生成したものです。

AI / テクノロジー ≠ すぐれたもの

AIに関して審査員たちは次のようなことも語っていました。

テクノロジーを使ったスマートな実験という手法もあるが、それはクリエイティブなアイデアを持つこととは違う。
ほとんどのケースの勝敗を分けたのはそこだった。

Inside The Jury Room | CREATIVE DATA LIONS

イノベーションが必ずしもテクノロジーを意味するとは限らない。

Inside The Jury Room | INNOVATION LIONS

独自性、独創的思考、新鮮な思考という考え方は、この世界では目新しいものではないと思う。
だから、テクノロジーは道具であって、クリエイティビティに取って代わるものではないと考える必要がある。

Inside The Jury Room | CREATIVE STRATEGY LIONS

先ほど紹介した天野氏の言葉を借りると、「すぐれたもの」は必ずしもAIやテクノロジーそのものではないということが言えます。


では、ツールとして使うべきAIやテクノロジーを中心にすると、どのような問題が起きるのか解説していきます。

AIやデジタル上のデータは、これまでのデータを蓄積した過去の産物です。
しかし近年では多様性が重視されたりと、人々の価値観は常に変わり続けています。「有色人種を含まないデータ」や「健常者のみから検出したデータ」など過去のデータを正解としてアウトプットすると、現代の考え方とは異なっていたり、情報に不備が出てきてしまう可能性があります。

AIではありませんが、過去の累積データが特定の人種に傾いていた例として作品を1つ紹介します。

「Aveeno Baby Eczema Equality Campaign」

「Aveeno Baby Eczema Equality Campaign」は、黒人赤ちゃんを持つ親たちが、湿疹の兆候を自己診断しやすくするために行われた施策です。

黒人赤ちゃんは、白人赤ちゃんの2倍湿疹になりやすいと言われています。
赤ちゃんに発疹ができた際、その症状を調べようにも、Googleの検索結果はどれも白人赤ちゃんの症例で、黒人の湿疹の症状を写した写真が少なく、湿疹の兆候を自己診断することが難しいという問題がありました。
そこで、スキンケアブランドのAveenoは、黒人赤ちゃんの湿疹の症状を何千枚も撮影し、Googleの画像検索で様々な肌色の症状を見れるようにしました。

AI / テクノロジーの中心は人間

Googleのセミナー内でも「AIにおいて最も重要な要素は、AIではないということ。人間だ。」と語られました。

つまり、AIはあくまで、人間を機能拡張するためのテクノロジーであって、その中心に人間があってこそのツールだと言えます。

こういった考え方は昔から言われており、マーシャル・マクルーハン氏の著書『The Medium is the Massage』にも次のようなことが書かれています。

この言葉を借りれば、AIもテクノロジーもメディアの一つであり、核となる身体・心・アイデアを拡張するための手段だと言えます。

今年のカンヌライオンズでフォーカスされたもの

では、今年のカンヌライオンズではどのようなことがフォーカスされ、何を核とすることが重要視されていたのか解説していきます。

今年のカンヌライオンズでは次の3つがフォーカスされていました。

  • DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)
    ダイバーシティ=多様性、エクイティ=公平性、インクルージョン=包括性

  • サステナビリティ

  • インパクト

「DE&I」でいうと、実際に審査員の構成も、男女比や国籍など多様性がかなり意識されており、世の中の人の構成に近いかたちを目指していました。
とある審査員の方のお話によれば、普段付き合いのある人を6名挙げさせて、その人の多様性を見たり、ダイバーシティに関する講習ビデオを見て英語で感想文を提出させるなど、審査員の思考の幅を問うていたそうです。
様々な国の多様な問題と向き合った作品を評価する立場である審査員にも、正しい思想を持っていることが求められていました。
そう考えると、作り手である我々も自分自身の付き合うコミュニティは多様であるべきだと言えます。

また「サスティナビリティ」「インパクト」でいうと、これまでは影響する範囲の広さが評価される傾向にありました。しかし、今年はイノベーションが影響する人数が少なくても、いかにその人物に大きく影響したか?が重要視されており、「広く浅く」より「狭く深く」という考え方になっていました。

実際に審査員たちからは次のような声が上がっていました。

そのイノベーションが何をするのか、どのように人々に影響を与えるのか、そしてそのインパクトを結びつけることが不可欠。
インパクトとは、リーチの規模ではなく影響の規模。
一人の人の人生を根本的に変えたとしても、それが観察に値するものであれば、受賞する可能性はある。

Inside The Jury Room | INNOVATION LIONS

問題のハイパーローカライゼーションというトレンドもある。
当初はサステイナビリティばかりが注目されると思っていた。
しかし、世界が危機に瀕している今、消費者が本当に経験していることを理解し、そこから始めることが重要。
そしてそれを土台に、今度はグローバルな問題に移行していける。

Inside The Jury Room | CREATIVE STRATEGY LIONS

つまり、一人の人生を大きく変えられたものは、後からグローバルな課題にも展開できるということです。

この例として1つ作品を紹介します。

「Renault - Plug Inn」

「Renault - Plug Inn」はフランスの施策で、電気自動車の普及度合いに反して、特に辺鄙な地域での充電ステーションが足りていない問題を解決するために行われました。

フランスでは充電ステーションが足りていないにも関わらず、公共の充電ステーションを作ることは制約が多く非常に難しいという実態がありました。
そこで、電気自動車のドライバーと家庭用充電器の所有者をつなぐピアツーピアのアプリを作成。公共の充電ステーションが無かった遠隔地への長距離運転を可能にしました。

この作品に対して審査員たちは次にような評価をしていました。

スケーラビリティという点では、今日のフランスで展開されたものから、明日の日本でも展開できてしまう。
それが本当の変化であり、意味のある変化なのだ。
世の中のためになり、クライアントやビジネスのためになり、消費者のためになるのだから。

Inside The Jury Room | CREATIVE STRATEGY LIONS

つまり審査員たちは「他でも使えるアイデア」であることを評価しており、世界で使えるアイデアや人類全体の進歩のためのクリエイティブを探しているのです。

人類にイノベーションを起こすアイデアが求めていますが、イノベーションとは何かを分かりやすく表した言葉として、Innovation部門審査員 細田氏(TBWA HAKUHODO)の「イノベーションとは、不可逆性をもたらす、ニュースタンダードなもの」という言葉があります。
つまりイノベーションとは一度その変化が起きたら、もう元の状態には戻る理由がなくなるような発見なのです。
自分自身のアイデアがイノベーティブであるかを判断する際に、そこに不可逆性があるかということが一つの判断材料になるでしょう。

前編のまとめ

ここまで、今年の新しいクリエイティブと今年のカンヌライオンズで重要視されたもの解説しました。
次回の記事では、今年のカンヌライオンズで評価された作品の傾向、カンヌの学びを日常業務でどう活かすかを解説していきます。後編もぜひご覧ください!

また、本レポートの録画データは以下からご視聴いただけます。ぜひご覧いただけますと幸いです!

(この記事の内容は2023年8月23日時点での情報です)

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