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「自分どんな人間?」と、北加賀屋の街に問われる。

生まれも育ちも関東なので、いまだに大阪のまちは未知数で、私のGoogleマップ上では「行きたいスポット」のフラグが立ちまくっている。そんな大阪の中でも、中心地から離れているくせにやたらとフラグが乱立してて、異様な光を放っていたのがこの北加賀屋なのだが、この度お散歩しに行ってみたら、やっぱり思った通りとんでもないまちだった(2023年10月29日のお散歩の記録)

クリエイティブセンター大阪

クリエイティブセンター大阪で自己喪失

今回、北加賀屋にきた目的は、このクリエイティブセンター大阪を会場にして開催された「KITAKAGAYA FLEA 2023 AUTUMN & ASIA BOOK MARKET」だった。
大阪を拠点とするローカル・カルチャーマガジン「IN/SECTS」が主催となって開催する当イベントは、日本だけでなくアジア圏のクリエイターや編集者、本屋が集い、雑誌がまるで空間に飛び出したようなイベントとなっている。

このマーケットの会場となっているのが「クリエイティブセンター大阪」だ。北加賀屋の港にある元造船場だった建物を一部改造し、イベントや展示会場として市民に開放している。元造船場と言われるだけあって、とにかく広い。使われていた当時のままコンクリートや配線が剥き出しの床壁で、何かアクション映画が撮れそうな雰囲気の建物で、映像を撮りたいとか、この場所をテーマにして作品をつくりたい人にとっては、心をグワしっと掴まれてしまうような、そんな場所だ。

会場の雰囲気と出展者の大人たちがあまりにイケているものだから、少し気後れしながら出展者の方々とお話しをしていると、あまりに話し込みすぎたのか、「あなたは普段何をしているの?どんな人なの?」(もちろん悪い意味ではない)と何回か聞かれた。その時々で、伝える自分の肩書きを変えながら、自分の経歴を語っていると、出展しているクリエイターの方々に比べて、自分があまりに自分自身をよくわかって無さすぎて、混乱してきた。そんなところで、会場をお暇して北加賀屋のまちのお散歩に繰り出してみた(もちろん会場で手に入れた美味しいお弁当で腹ごしらえをした後に)

Zine付きのお弁当

Super Studio Kitakagayaで他者の扉の中を覗く。

最初に、入ったのはクリエイティブセンターの目の前にあるアーティストレジデンス「Super Studio Kitakagaya」だった。この日は特別にアーティストのスタジオ(部屋)が開放されているオープンスタジオデイだったので、それぞれの部屋をのぞいて歩いてみた。作品と向き合う場であるスタジオは、その作品が生み出される過程が見られる場所だ。もし、自分がアーティストであったら、作品を作られる途中過程を見られることは、中途半端で未完成な自分自身を見られるようで、ためらうような気もするが、見る側としては、誰かの制作過程が残る部屋を何通りか眺めることで、自分は何をどう制作していくべきか、思考や想像をアウトプットしていく術を知ることができる場となっていた。

Super Studio Kitakagaya

MASKで自分の扉を開く。

スタジオから歩いて3分ほどいくと、元鉄鋼工場・倉庫あとを大型美術作品を見せる収蔵庫兼展示会場である「MASK」にたどりつく。この日は、MASKでも作品を特別に一般公開しており、普段は見られない収蔵庫の中に入ることができた。

この「MASK」に入るには、倉庫の外装に似つかわしくない白くて重たい回転扉を押さないと中に入れない。この扉自体が作品の一つで、持田敦子というアーティストの作品だ。

(持田は)プライベートとパブリックの境界にゆらぎを与えるように、既存の空間や建物に、壁面や階段など仮設性と異物感の強い要素を挿入し、空間に意味や質を変容させることを得意とする

展示パンフレット 「持田敦子」の紹介文より引用

持田は、目の前の当たり前を見つめ直し、見えない要因を掘り起こすことから始め、あえて不可能なプランを立て、如何に可能とするかを自問自答する。困難なプロセスについて、さまざまな知恵や技術をもつ“第三者の参画“を得ながら、数々の失敗を糧に実現へと至らしめている。

展示パンフレットより引用、木ノ下智恵子(MASKキュレーター/大阪大学21世紀懐徳堂 准教授)著

この解説文だけ読むと、やたらとMな性格のアーティストで難しそうだなとか蛇足なことを考えてしまうけど、実際に重たい扉を開いて奥の倉庫入ると、「内と外」違いというか、誰かの中身に入りこむ感じがしてとても面白い作品だ。外見はすごい強面のくせに、中身はすんごくわちゃわちゃしてて楽しい奴みたいな、そんなギャップを体験できる。倉庫の中は、いろんなものが蠢いていて、それはそれはドキドキした(まだ見てない人にネタバレしないようにここには何も書かない)

MASKの重たい白い回転扉

他者の色眼鏡を通じてまちを見る@複合施設「千鳥文化」

色々作品を見て、まちを歩いて疲れたので、おやつでも食べに「千鳥文化」のカフェへいく。

複合施設「千鳥文化」は、造船業が盛んだった頃に店舗兼労働者の住宅として使われていた建物を改修してカフェや展示会場として開放されている場所だ。私はこの「千鳥文化」が配信する「千鳥文庫」というインスタグラムが大好きで、ずっと訪れたいと思っていた。公式インスタグラムでは、ここに訪れた人が本棚に置いていった本を紹介する形式となっている。ただ、投稿者がおすすめ文を書いて本紹介をするのではなく、「本を置いていった人たちが残していった、その本にまつわる想い」を添えて本棚の本を紹介している。まるで、このまちで人と人がそれ違うように、この千鳥文化という場所と本を媒体に、知らぬ人同士の琴線が触れ合う。袖振り合うも多少の縁…というか「特別な縁」が生まれる気がする、そんな仕掛けになっている

今回は夕方にお店に入ったのだけど、今日一日北加賀屋のまちを歩き回った人たちが思い思いにここでおやつを食べながら、感想を言い合ったり、本を読んで過ごしてて、とても落ち着く空間だった。

古民家を改装した奥の広い空間では、個展も開催されており、今回は北加賀屋の歓楽街のシンボルであったネオンサインをテーマにした河野愛さんの個展「<I>ichibangai」が開催されていた。この北加賀屋という場所が深く関連した作品で、その街の空気感を作品を通じて感じとることができる。この街を重層的に、他の人の目線で眺めることができ、より街を深く知れたような気がした。

美術館「モリムラ@ミュージアム」で自分に「あんた誰?」と問う

北加賀屋のまちに来るまで森村泰昌というアーティストのことをよく知らなかったのだけど、明らかに独特な雰囲気を醸し出す美術館「モリムラ@ミュージアム」のエントランスホールに心惹かれて、美術館の中に入ってみた(もうお外は夕焼けこやけ)

一見、いかにも空きビルという雰囲気の外装だが、エントランスホールの中を覗くと「5」とピンク色のネオンサインが光っていて、延々に続くテンポファイブの序奏が空虚な空間に鳴り響いている。勇気を持って奥に入ってみると、2階には白い壁と茶箱が数箱あり、なんともチグハグな空間。

森村泰昌は、マリリン・モンローやゴッホなど、著名人に自ら扮して撮影したセルフポートレート写真をとり続けている美術家だ。作品は、手の込んだ自画像(セルフィー)のような感じだけど、誰にでも変身できてしまう自分自身に向き合って撮影をすることで、「自分とは誰なのか」と考え続けているようだ。森村の作品をみながら思い出したのだけど、同じく大阪出身の美術家で佐伯祐三がいるが、彼もまたパリに留学に行く前は、ここ大阪で永遠に自画像を描き続けていた。

これはあくまで個人的な見解だけど、割と「自分はどんな人間?」(※大阪弁のイントネーションにて)と恐れずに単刀直入に聞いてくる人が大阪は多い気がする。突然問われた側はいつも動揺させられるのだが、この問いを、森村は人生を通して自分に投げかけ続けているアーティストである。私はここでも(森村の作品を通じて)「自分はどんな人間?」と問われた。

「モリムラ@ミュージアム」のエントランス

アート=道が混在するまち

朝一番に行った、KITAKAGAYA  FLEA2023の会場でも、話をした人から「あなたはどんなひと?何をしているの?」(もちろん悪い意味ではない)と何回か聞かれたが、自分のことを語っていると、自分自身が「へえ私ってこういうひとなんだ」と気づくことになる。そして思うがままに、雑多にいろんな趣味が存在するブースやまちを歩く中で、ある特定の対象に惹かれる自分の特徴に気付かされる。

「どこにでもいる誰かではなく、自分でいること」そんな思いを持って生きている人をこのまちは歓迎し、受け入れている感じがする(突然大きく言い過ぎかしら)。もちろん、無地で何かに集団に溶けていたい人もそれはそれでいい。そんな人も街の景色に紛れて存在することもできる。北加賀屋のまちは、そんな多種多様にアート=道が混在している、混濁としてまちだった。(もちろん住んでる訳ではないので、あくまで第一印象程度の話だけど)

また、お散歩に行って、今度はもっと深く地域史を調べてみたい。

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