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うつ病患者、採用面接を受ける

ゴールデンウィーク初日に、病院の採用面接がありました。この日のために大学のキャリアセンターで面接の練習を重ね、カウンセラーから「今のあなたなら、十分勝負できる」と言って送り出してもらいました。学生相談室の心理士からは、病気はセンシティブなテーマなので、持病に関してふみ込んだ質問はないだろうと言われました。

さて、実際はどうだったのか。

ふたを開けてみると、うつ病が業務に及ぼす影響について想定を上回る突っ込んだ質問を浴びせられました。その面接の一部始終をここに記録して(ぶちまけて)おこうと思います。

何の病気かうかがってもいいですか?

場所は大学病院。面接官は女性の看護師3名です。まずはお決まりの自己紹介に続いて併願確認、民間企業から看護師を目指そうと思った理由、志望動機、希望する診療科、インターンシップで印象に残っていること、ストレス発散方法、最近気になったニュースについて質問されました。ここまではすべて想定内。練習どおり、淡々と回答しました。

問題はここからです。副看護部長から「大学入学から卒業までに7年かかっているようですが、それについてうかがってもよろしいですか?」と問われたので、「大学2年生のときに体調を崩しました。療養に専念するために休学したため、卒業年度が延びています」と答えました。

「何の病気かうかがってもいいですか?」と副看護部長。

いやいや、よくないですよ、勘弁してよと思いましたが、「うつ病です」と正直に回答しました。

「うつ病になるきっかけがあったんですか?」と副看護部長。

「超意識高い系の大学でして、厳しい教員に言われるがまま必死で勉強したら発症しました。主治医からは、あんな大学に通っていたらいつまでたっても治らないし、今度こそ本当に死ぬぞと言われております」なんて口が裂けても言えないので、「環境の変化もありますが、わたし自身が頑張りすぎてしまったという個人的な要因があり、発病に至ったと考えております」とあくまで謙虚に答えました。

「今、症状はいかがですか?」と副看護部長。

「今はほぼ寛解状態で、症状は安定しています。ただ、再発予防のために月1回通院をして、薬を飲んでいます」と、ここはやや誇張して回答。ここで「現在も加療中で、体調には波があります」と馬鹿正直に答えて内定をもらおうなんて考えるのは、よほどのノータリンです。

「夜勤があって生活リズムが崩れますが、そこは大丈夫ですか?」と別の看護師。

「主治医にも相談しましたが、特に問題ないとのことでしたので、大丈夫です」とわたし。これは完全に嘘ですが、しかたがありません。わたしが就職を希望するエリアで、夜勤のない新卒採用枠なんてありませんから(ないことはないのかもしれないけれど、合説や学生向けの就活サイトでそんな病院を見かけたことはありません)。

「実習中に看護師からきつい口調で叱責を受けたことはありますか? 看護師の多くは看護の世界しか知らないので、社会性が弱いところがあるんです。強い口調で注意されたことはありますか?」と別の看護師。

これはうつ病患者であるわたしのストレス耐性を確認するための質問です。ただ、この質問に関しては、看護師が欲していた答えを返すことができませんでした。「わたしが実習をする大学病院では、教員も臨床指導者も一様にコンプライアンスに敏感になっているので、きつい口調で注意を受けたことはありません」と正直に答えてしまったからです。しまったと思いましたが、ときすでに遅し。

「困ったときに相談相手はいますか? 大学を卒業すると、現在通っているカウンセリングに行けなくなると思いますが?」と副看護部長。

「かかりつけの病院は御院と同じ県内にあるので、問題ありません」と答え、就職後も継続的にサポートを受けられることを強調。なんとか挽回を試みます。

「就職すると新しい環境で負荷がかかると思いますが、病気を悪化させてしまう懸念はありませんか?」と副看護部長。

「新しい環境で働くことで症状が再燃するかもしれないという懸念は、ごもっともです。ただ、私は体調を崩してから生活習慣や考え方のクセを見直して、必要に応じて周囲と相談しながら、やるべきことを無理のない範囲でやって、試験や実習を乗り越えてきました。今後もセルフケアは続けていくつもりですので、病気の既往が業務に支障をきたすとは考えておりません」と、最後の猛プッシュ。

面接時間は20分の予定でしたが、わたしの経歴(病歴)に突っ込みどころが多かったせいか、30分ほどかかって終了しました。

怒りのスイッチが入ると、人は変わるのかもしれない

面接を自己採点するなら、100点満点中90点だと思います。自己肯定感の低いわたしとしては破格の点数ですが、それだけ準備に準備を重ね、練習どおりに受け答えをしたと自負しています。これだけ言葉を尽くしても、これだけ立派な成績証明書でも内定がもらえないとしたら、それは「わたし」の責任ではなく、「病気」のせいです。採用担当者、ひいてはその病院の狭量さのせいです。うつ病は努力や根性で改善できるものではないので、わたしとしては手の打ちようがありません。

最後にひとつだけ。

初回の面接を終えた今、わたしのなかに「怒り」の感情が芽生えていることに気づきました。採用担当者はわたしのことを、看護師を志すひとりの看護学生としてではなく、リスクを抱えたうつ病患者としてジャッジしていました。その証拠に、わたしの強みや、その強みを仕事にどう活かせるかといった質問はいっさい出ませんでした。自己PRの機会すら与えられませんでした。 

わたしも民間企業出身なので、採用側の懸念は十分理解できます。面接を受けるまでは、「わたしが採用担当者だったら、うつ病の学生なんて採用しない。精神疾患もちを採用するなんて、借金を抱え込むようなもの。せっかく人件費を投資しても、投資した分を回収する前に休職するか退職してしまう」と思っていました。

でも、実際に「休職・早期退職リスクのある精神疾患患者」という色眼鏡で評価されてみると、不愉快だし理不尽だし、ただでさえボロボロの自尊心がさらに打ち据えられるのを感じました。

だから、今ならこう考えます。わたしが採用担当者だったら、あんな言動はしない。病気になったのに、よくここまでやってきたね。大変な思いをしたんだね。うちで働きたいと思って、わざわざ足を運んでくれてありがとう。あなたが無理なく、元気に働ける方法をわたしたちも一緒に考えるよ。そんな言葉をかけられる管理職に、わたしはなりたい。

変なの。いままで管理職になりたいと思ったことすらなかったのに。怒りのスイッチが入ると、人は変わるのかもしれません。

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