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タンパク質ってそんなに大事なの?       栄養素編

前回のおさらい

前回は、タンパク質が生き物にとってどれほど大事なのかを、体の中で働いているタンパク質、なかでも「酵素」に注目して解説しました。
(前回の記事はこちら

下にそのまとめを書いておきます。

  • タンパク質は20種類のアミノ酸がつながってできている

  • タンパク質にはすごくたくさんの種類があり、いろいろな働きがある

  • 酵素もタンパク質の一種で、すべての代謝を行っている

  • 酵素にはビタミンやミネラルがないと働かないものがある

  • 総合栄養食の基準をみたしたフードでも、個体差のせいで、ある種の栄養不足になることがある

そして今回は「栄養素としてのタンパク質」について解説していきます。


タンパク質は特別な栄養素

ちかごろ「サステナビリティ」という言葉を聞かない日はないくらいですが、食べ物についての「サステナビリティ」を考える中で、数年前から「昆虫食」が注目されていることをご存知の人も多いと思います。

このような食糧問題を「食糧」という大きなくくりではなくて、ちょっと栄養素に分解して考えてみましょう。

食糧問題を考えるときに「脂質をどうするか?」という話には、ふつうはなりません。一般的に、問題になるのは「タンパク質源をどうするか?」です。
「昆虫食」が注目されるのも、「お肉にかわるタンパク質源として昆虫がいいのでは?」と考えられているからです。

ではなぜタンパク質源が問題になるのでしょう?

前回お話したように、生き物のからだを構成する成分のなかで、水分をのぞけば一番多いのがタンパク質です。ですから、もちろん生き物にとって重要な栄養素であることは間違いありません。

でも、それだけではありません。

タンパク質はアミノ酸がつながってできていることを前回お話しました。
アミノ酸にはかならず「窒素(ちっそ)」が含まれていますから、タンパク質のもとになるアミノ酸を作るには窒素が必要です。

動物は、アミノ酸からタンパク質を作ったり、タンパク質を分解してアミノ酸にしたりすることはできます。また、アミノ酸を分解して「アンモニア(NH3)」にすることもできます。が、アンモニアからアミノ酸を作ることはできません
そのため動物は、タンパク質あるいはアミノ酸を含む食べ物が必要なのです。

それに対して植物や酵母、細菌などはアンモニアや硝酸(しょうさん)、尿素(にょうそ)からアミノ酸を作ることができます。
でも、アンモニアや硝酸、尿素を、なにかを分解するのではなくて、いちから合成することはできません。
そのため、植物を育てるにはアンモニアや硝酸、尿素を含む肥料を与える必要があります。

ところが一部の限られた細菌だけは、空気中の窒素からアンモニアを作ることができます。(空気の78%は窒素です。)
言ってみれば、この「アンモニアを作れる細菌」が、タンパク質のおおもとを支えているのです。

アンモニアを作ることができるのは一部の細菌だけ

この「アンモニアを作れる細菌」は大豆などのマメ科の植物と共生しています。マメ科の植物は、この細菌がアンモニアを作ることのできる環境を提供し、そのかわりに細菌が合成したアンモニアを受け取ります。

大豆は「畑のお肉」と言われるくらい、タンパク質が豊富です。それは「アンモニアを作れる細菌」と共生しているからなのでした。
(大豆を「畑のお肉」と言おうとして、間違って「畑のお豆」と言っていた人がいました。。。)

すべての生き物にとって、タンパク質とそのもとになるアミノ酸は必要不可欠です。ところが、アミノ酸をいちから作ることのできる生き物は非常に限られています。
つまり、生物界ではタンパク質(アミノ酸)はとても貴重な栄養素なのです。

そのため、食べ物についての「サステナビリティ」を考える場合、タンパク質源(アミノ酸源)が一番の問題になるのです。


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