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ねこさん・わんちゃんのアレルギー その3 どうやって「敵」を見分けるか


はじめに

前回の記事で免疫についての基本的なことを解説しました。

今回は、前回の記事に出てきた免疫に関わる細胞たちがどのような働きをしているか、とくに、どのように「敵」を見分けているかについて、もう少し具体的に解説します。

今さらですが、そもそも「免疫」とはどういう意味でしょうか?

えき”を”まぬがれる”と書いて「免疫」です。
「疫」というのは「流行はややまい」、すなわち病原性のある細菌やウイルスによって引き起こされる「感染症かんせんしょう」のことです。

つまり「免疫」というのは病原性のある細菌・ウイルス・真菌(水虫などのカビの仲間)・寄生虫などによって引き起こされる感染症から体を守るための仕組みということです。
そのため免疫は、病原性のある細菌やウイルスなどを効果的にやっつけることができように進化してきました。

「病原性のある」とわざわざことわっているのには理由があります。

意外に思われるかもしれませんが、細菌の多くは病原性を持っていません。
腸の中や皮膚の表面には、病原性を持たない「常在菌じょうざいきん」や「共生細菌きょうせいさいきん」と呼ばれる細菌がとんでもなくたくさん存在しています。

腸の中にいる「乳酸菌」や「ビフィズス菌」などがその代表です。
これらの常在菌がいるおかげで、病原性のある細菌はむやみに増えることができないのです。

そして免疫は常在菌を攻撃しないようになっています。
すごくないですか?

このような免疫の仕組みを知れば知るほど、その緻密ちみつに作り上げられたシステムの見事なことに感心します。というか、感動すらしてしまいます。

免疫に限らず、生きものに備わっているいろいろな仕組みはどれも、とんでもなく見事にできています。
「進化」という偶然の積み重ねだけでこんな見事なものができるの?と、僕は常々思っております。

免疫のいろいろな仕組みについては、今もどんどん新しいことが発見されていて、僕が学生の時に教わったことが、いくつも「あれはウソでした」ってことになっています。
ここでそんなウソをつくわけにもいきませんから、今回の記事を書くにあたって、最新の専門書を数冊購入して、自分の知識をアップデートしました。


免疫について正確かつ詳しく説明しようとすると、それこそ専門書が何冊も必要です(しかも、わかっていないこともまだまだたくさんあります)。
そこで、今回の記事では”わかりやすさ”に重きをおいて、”正確さ”と”詳しさ”については少々目をつぶりますので、その点はご承知おきください。

記事の最後に、比較的わかりやすく書かれている参考図書をあげておきますので、免疫について詳しく知りたくなった人は、ぜひそちらも読んでみてください。


◾️どうやって「敵」を見分けるか

免疫細胞たちは、細菌やウイルスなどの「敵」をやっつけますが、原則として、健康な自分の細胞を攻撃することはありません。
ということは、ちゃんと「自分」と「敵」とを見分けている、ということです。

では、どのようにして「自分」と「敵」とを見分けているのでしょうか。

免疫学では自分のことを「自己じこ」といい、自分以外のものを「異物いぶつ」あるいは「非自己」といいます。

この「自己」と「異物」とを見分ける仕組みに何らかのバグが発生すると、アレルギーなどの病気が起こるわけです。

免疫細胞の表面には、「自分」と「敵」とを見分けるためのセンサーのようなものが装備されています。
そして、このセンサーには大きく分けると次の2種類があります。

  1. 「どんな種類の敵か」を見分けるセンサー

  2. 「何という敵か」を見分けるセンサー

前回の記事でお話した、自然免疫系の細胞には1.のセンサーが、獲得免疫系の細胞には2.のセンサーが装備されています。

※前回の記事はこちら


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