「事態が不確実なとき/先が予測できないとき」に自閉症の人たちを支援するということ
コロナウィルス(COVID-19)の蔓延に直面している現在のように、ストレスや不確実なことが多い時期には、あらゆる子どもたちや若者たちが家族や支援者の皆さんからの支援を必要としています。よくわからない学校の閉鎖、ルーティンの急激な変化、先生や友達とのつながりの喪失、ウィルス感染に絡む不安などに対処することは、全ての人にとっての負担になっていますし、家族や支援者の皆さんは、子どもたちや若者が変化を理解し、それについての感情をなぞっていくときの助けとして重要な役割を担っています。自閉症の人たちは、ニュースを理解し、多くの変化に適応するためには、追加の手助けが必要になるかもしれません。このような人たちは、理解すること、コミュニケーションすること、抽象的な言葉の理解の困難さ、同一性の保持、より増えるかもしれない不安や抑うつなどに関連した困難さに直面するかもしれません。そして、自閉症状は、このストレスの多い時期にあっては、より悪化する可能性もあります。
以下の7つのサポート手法は、こうした不確実な事態に自閉症の人たちの個性的なニーズに合うように作られています。さらに、家族や支援者の皆さんたちが、こうした手法を素早く簡単に実施する助けとなるように、いくつかの事例も含んでいます。これらは、年齢や能力にかかわらず、忙しい家族や支援者の皆さんにとって少ない材料でできるものを示すために、さまざまなスタイル/デザイン/複雑さを代表するような形で示しています。ですから、一人ひとりの子どもや若者のニーズにぴったり合わせるには、特別な調整や追加が必要になります。
これらの手法は、ひとつのメニュー、または道具箱として使うように意図したものです。家族や支援者の皆さんは一度に一つのアイデアを取り上げて、自閉症の子どもや家族のためにどうやったらうまくいくのか、その方法を見つけることができるでしょう。家族や支援者の皆さんは、以前にやったことがある手法から始めたいと思うかもしれません。あるいは、おそらく、最も差し迫ったストレスを生み出している問題に対処するツールを見つけるかもしれません。どのツールが最も役に立ちそうか、ということについての意思決定プロセスには本人を巻き込んで一緒に行うことを検討してください。
「事態が不確実なとき/先が予測できないとき」に自閉症の人を支援する7つの手法
1. 理解についてサポートする
2. 表現の機会を提供する
3. 対処と落ち着くためのスキルを優先する
4. ルーティンを維持する
5. 新しいルーティンを構築する
6. つながりを育む(離れたところから)
7. 行動の変化に注意する
1.理解についてサポートする
自閉症の人は、コロナウィルス(COVID-19)について、どのようにそれが広がるか、その広がり方や感染のリスクを減らす方法について、さまざまなレベルでの理解をしてきたかもしれません。この複雑な筋書きについて、さらなる理解をするために使用できるいくつかの手法を以下に示します。
① ウィルスと現在の状況(封鎖、社会的距離など)を具体的な言語と用語で説明し、抽象的な表現は避けます。「彼は気分が悪い」、「彼はウィルスにかかっている」、「彼はこのことを怖がっている」などの抽象的なフレーズや比喩を理解することは、自閉症の人にとって困難であり、混乱を引き起こす可能性があります。直接的な表現で、「コロナウィルスは細菌の一種です。これらの細菌は非常に小さく、体内に侵入すると病気になります」という表現の方が自閉症の人が理解しやすいかもしれません。
② 調整された文章や写真、またはテクノロジーの使用等を通じて、状況と起こり得る反応を明確にするソーシャルナラティブを用います。自閉症の人は、多くの場合、受容性言語の障害があるため、複数の形式で情報を得ることから理解を得ます。それぞれの人にコロナウィルスについてのより多くの情報を提供し、リスクを軽減する方法を理解し、多くの人がどのように感じているかについての洞察を提供し、それらの感情が正常であるという保証を提供するために、いくつかのソーシャルストーリーをつくります。数日間にわたって定期的に自閉症の人とストーリーを読むことは役立ちます。状況に変化があれば必要に応じて、このストーリーに立ち戻り、調整することが必要です。
③ コロナウィルスに応じた固有の行動・動作に関するガイダンスについての視覚的なサポートを提供します。人に挨拶する方法(例:握手なし)、人や家族との交流方法(例:対人間の距離)、手を洗う頻度/時間(例:入室のたびに)についての「ルール」が変わってきています。自閉症の人はより明確で、具体的な説明に最もよく反応するので、視覚的な手がかり(イラスト表示など)を使用することは役に立つかもしれません。
④ 時間の経過を明確にするための視覚的な合図を提供することが役立つ場合があります。自閉症の人は、時間の経過、目に見えない概念を知覚するのに苦労する場合があり、月間、週間、および/または1日のカレンダーを使用することは、学校外/検疫状況において過ごすうえで役立つ場合があります。今の不確実な状況の「終了」の日がいつになるかはわかりませんが、時間の経過をチェックするだけでなく、カレンダーの中にショーやオンラインミートアップ(オンライン上のイベント)、ゲームナイトなどお気に入りの活動をカレンダーに含めることは、対処方法として役立つことになります。
2.表現の機会を提供する
子どもたちや若者達は、多くの予期せぬ変化について、どのように感じているかについて明確に説明することは難しいでしょう。恐怖、フラストレーション、心配、かんしゃくのような挑戦的行動、家族活動への参加拒否、ひきこもりを通して表現されるかもしれません。自閉症の人たちにとって、これらのコミュニケーションの困難さは、表出コミュニケーションの遅れ、限られた言語・非言語スキル、他者視点取得の困難さ、あるいは、ソーシャルコミュニケーションの不測と結びついているかもしれません。
家族との話し合い、書く活動、制作活動あるいは遊びを通して、出来る限り彼らの感情について、家族に表現する複数の機会を検討して下さい。感情やニーズは、拡大・代替コミュニケーション(例:ipad、写真など)の使用、音楽を聴くことや演奏すること、ダンス、ヨガ、さまざまな視覚的芸術の形式のような代替表現方法を通して伝えられてくるかもしれません。さらに、挑戦的行動の増加は、不安や恐れの表れかもしれないと認識して、その場での支援方略が適切かどうかを検討してください。
3.対処と落ち着くためのスキルを優先する
対処スキル、自己管理スキルおよびセルフケアスキルを学ぶことは、自閉症の人たちにとってこの不確実なときには優先事項です。自閉症の人にとって、最も不安の高い時に支援を受けてアクセスすることができるスキルのレパートリーとして、いくつかの対処と落ち着くための手法を持っているのが理想的です。これらのスキルには、ロッキングチェアで体を揺らす、ヘッドフォンで音楽を聴く、深呼吸をする、好きなビデオクリップを視聴する、短時間の激しい運動や、お気に入りの活動や素材に触れる、といったことがあります。もし、こうした対処や落ち着くための戦略がまだ日常生活の中に取り入れられていないのであれば、家族や支援者の皆さんは、こうした不確実な時だからこそ、これらを最優先で教えましょう。
① 一日のうちで、自閉症の人が指示されたことを開始するのに落ち着いている時間を選びましょう。
② こうした手法を使うことを助ける具体的、視覚的なルーティンを作り出します。
③ 対処/落ち着くための活動は、変更の最初の数週間は一日の決まった時間に行うようになるかもしれません。そして、家族や支援者の皆さんは、自閉症の人が不安や心配の反応を追って、落ち着くための手法がいつ必要なのかを見きわめるのを助ける自己管理計画を導入し、教えることができます。
運動/身体活動は、より多くの人の不安の症状を鎮めるのに効果があると証明されている手法です。自閉症の人たちも同じです。毎日の歩数のカウント、夜の散歩、オンラインやアプリを使ったトレーニングなどのような、家族向けの基本的な運動のルーティンを確立/追加することを検討してください。この時期には、Down Dog ヨガアプリ、Nike Run Club、Planet Fitness、FacebookのLiveストリームなど多くのサイトが無料でアクセスできます。
4.ルーティンを維持する
すべての家族にとって、不確実さを処理するための時間と空間を作ることが重要ですが、自閉症の人は日々のルーティンを遮るものが最小限であれば対処することができます。ルーティンは、自閉症の人が快適に過ごすことができ、変化に関連する感情をよりよく表現できるようになる場合があります。例えば、一週間の中で画面を見る時間が長くなるため、いつもの金曜日の夜の映画をスキップする代わりに、変化、喪失などに関連する会話が促進できるような映画を選択します。(例えば、インサイドアウト、ファイディングドリー)
コロナウィルス関連による変更のストレスに、変更されたルーティンを加えることで、特に新しい活動が曖昧であったり構造化されていない場合には、調整していく過程で自閉症の人を苛立たせたり、時間がかかることがあります。
維持するルーティンは次の通りです。
① 就寝/起床のルーティン:身体的健康を維持することは、すべての家族にとって重要で、適切な睡眠を確保することは、そのための重要な鍵となります。睡眠障害は自閉症の人たちによくあることで、それゆえ、よい睡眠習慣を助け、就寝と起床のルーティンを維持するために、特別な注意が必要とされるかもしれません。
② 家事/毎日の生活スキル:自閉症の子どもたちや青年が、構造化された家事や決まった日常生活スキルに参加することは、コロナウィルスに関連するストレスに対処する助けとなるおススメの手法のひとつです。
③ 視覚的スケジュールの使用の拡大:一日全体のスケジュールを定期的に使うことは、家での活動に参加しやすくなり、不安も減るかもしれません。多くの家族や支援者たちは、既に視覚的スケジュールの要素は使用しています。(例えば、冷蔵庫の上に貼ったカレンダー、とか、用事リスト、どのセラピストが来ることになっているかを示す写真)これらは一日を通して使われるでしょう。スケジュールの形態と長さは一人ひとりのニーズに合わせて変化します。
5.新しいルーティンを構築する
家族や支援者の皆さんにとっては、次々と多くの新しいことが要求されて、この時期に新しいルーティンを作り出すことも必要かもしれません。例えば、初めて家で勉強を見なくてはならなかったり、家で、あるいは家の外で働かなければならなかったり、他の子どもたちや家族の面倒を見る必要もあるかもしれません。いくつかの新しい役に立つかもしれないルーティンについて以下に記します。
① 画面から離れ移動することのうながし:多くの理由により、子どもたちたちや若者は、この時期、より長い時間、より頻繁に画面にアクセスするかもしれません。特に長時間使用した後に、デバイスから離れることは、多くの子どもたちや若者にとって難しいかもしれません。ひとつのことにこだわりやすいところ、柔軟性のなさなどはしばしば自閉症の特性の一つですが、こうした移動を問題にしている可能性があります。移動のための明確で一貫した具体的なルーティンを打ち立てることは、自閉症の人に、来るべき移動に対し、よりよい備えとなりますし、全体的なサポートを提供できます。
自閉症の人にとって、デバイスを終え、そこから離れなければならない時間になる前に、視覚タイマーを使ってあとどのくらい時間が残っているのかを「見る」ことができるのは、助けになると思われます。時間に関係する概念は非常に抽象的で(例えば、「数分あります」)、しばしば文字通りに解釈できず(例えば、「ちょっと待って」または「すぐやめる必要がある」)混乱しやすいものです。とくに時間を告げることは習熟したスキルではありません。時間に関連する情報を視覚的に提示することで、概念をより意味のあるものにすることができます。一つの例はTime Timerアプリですが、それは、時間切れになると赤の部分が消えていくことを示しています。
移動をうながす手段のもうひとつに、視覚的なカウントダウンシステムがあります。視覚タイマーのように、視覚的カウントダウンのシステムは、その活動の残り時間はどのくらいなのか、を視覚的に「見える」ようにするものです。このカウントダウンのシステムは、特定の時間増分を示すわけではないので、そこが違うところです。このツールは、移行のタイミングが柔軟である場合に役に立ちます。(例えば、家族や支援者の皆さんが、仕事の呼び出し中に子どもたちにデバイスを使わせたいけれども、しかしいつ終わるのかがわからない場合など)。カウントダウンシステムは、数字をつけたカードや色カード、付箋紙など自閉症の人に意味のある形またはスタイルを使って作成できます。移動が近づくと、家族または支援者の皆さんは、例えば、5枚並べて貼ってある一番上の「5」と記されたカードをはがしたり、斜線をひいたりします。そうすることで、自閉症の人は残りが4枚であることを見ることができます。家族や支援者の皆さんは、いつ移動しなくてはならないのか、その時間によって、残りのカードをはがす時間を決めておきます。3番目のカードと2番目のカードをはがす間が2分間という場合がありますが、最後の番号のカードをはがす前により長い時間がかかることがあってもかまいません。いったん最後のカードがはがされた時に、その自閉症の人は、それが移動の時間だと教わることになります。いくつかの例があります。これらを使用して移動を支援することができます。
② 選択肢を提供する:危機の時代に、ほとんどの人が自分の手に負えないと感じる時に、選択肢を提供することで、自律性と動機付けの感覚を高めることができます。いつ、何が起こるかについて家族が意見を述べるような定期的な機会を一日のうちに用意することは、不安を減らすのに効果的な手法であり、コミュニケーションツールとして役立ちます。これらの選択肢としては、夜の散歩コースや、食事のオプション、その日の活動の順番や好みなどを含み、年齢などによって調整します。
③ やることリストのあるワークスペースを作成する:多くの子どもたちや若者が家の中で学校の課題を達成することを求められていますが、こんなことは初めてのことです。自閉症の人は、学校環境で使った手法やスキルを家の環境に汎化することが難しい場合があります。(例えば、資料を整理したり、学校でやるべき課題に取り組んだり、オンラインで課題を提出するなどです。)ですから、期待されていることを明確にし、注意散漫を減らす助けになるように、「指定されたワークスペースを作ること」が有効です。居間のテーブルに色のついたテーブルマットで決められた場所を作り、テレビや窓から離すようにします。もし複数の子どもたちが一つのスペースで作業している場合は、子どもたちの間に小さな視覚的な仕切り(例えば開いたフォルダ)を置くことを検討してみてください。家族や支援者の皆さんは、いくつかの違う視覚的なやり方で、視覚的なやることリストを作ることができます。
ア) やるべきワークシートを子どもの左側において、できあがったら子どもの右側に置いた小さなかごの中に入れる。
イ) 勉強時間の間にやらなければいけない課題の付箋に短いリストを書いておく。(例えば、1つの科学ストーリーと15分間のABCマウス)そしてできあがったらこれらは消すことができる。年長の子どもたちや青年であれば自分のやることリストを作成することができますが、ワークスペースを確立してこれらのルーティンを起動するためには初期サポートが必要になる場合があります。
6.つながりを育む(遠いところから)
自閉症の人は、社会的孤立と孤独の影響を受けやすく、これは検疫(隔離)の条件によって悪化する可能性があります。積極的な社会的支援は、この期間中のすべての人にとって重要であり、自閉症の人にとって社会的つながりが継続することを保障するために、より明確な促進を必要とする場合があります。家族や支援者の皆さんがメールまたは電話で直接メッセージを送ることで、自閉症の人が社会とのつながりを継続していることを認識することができます。テレビ電話やzoom等を介して、家族、友人、近隣の人、教師等との日々の社会的な接触の機会を作っていきます。オンラインプラットフォームを介して他の人とつながる時間をスケジュールの中に入れてソーシャルゲームに参加したり、オンラインで学校の勉強をしたり、PC上でボランティアをしたりすることは、安全に社会的相互作用を促進し、孤立を回避する方法です。
7.行動の変化に気を付ける
自閉症の人は、多くの変化、健康に対する恐れ、欲求不満、不安を言葉で表現できない場合があるため、これらを他の手段で表現する場合があります。家族や支援者の皆さんは、この不確実な時期の自閉症の人の行動に気をつけ、不安やうつの兆候に注意をする必要があります。この兆候には、睡眠または食事のパターンの変化、反復行動の増加、過度の心配や反すう、動揺や過敏さの増大、またはセルフケアの減少が含まれる場合があります。これらの行動の変化が観察された場合には、メンタルヘルス、かかりつけ医、セラピスト、心理士、精神科医などの医療関係者からの追加的なサポートが必要になる場合があります。より多くのサポート、または異なる種類のサポート(例:定期的な治療、定期的な運動、投薬)を必要とする場合もあります。ほとんどのメンタルヘルスの提供者と緊急ではない医療従事者は遠隔医療を介してサービスを提供しており、有事立法によりこれらのオプションの保健範囲(メディケイドを含む)が拡大されていまので、必要に応じてご利用ください。
まとめ
コロナウィルスのパンデミックに対応するひとつの道筋を作ることは、すべての人にとって挑戦的な経験です。この時期の自閉症の人を支援している家族や支援者の皆さんは特別な朝鮮に直面しているのです。7つの手法や例によって、自閉症の人たちが、コロナウィルスについてより理解を促され、関連する多くの困難に対処できるようになればと願っています。
そして、家族の皆さん、支援者の皆さんも、どのような形であろうとも、自分自身のケアを最優先していただきたいと思います。それは、好きな音楽を聴いたり映画を観ることでも、美味しいものを食べることでも、ゆっくりお風呂に入ることでも、ヨガなどで体を動かすことでも、ゲームや読書でもいいです。自閉症の人のそばにいる家族の皆さん、支援者の皆さん、自分に優しく、そして自分を守りつつ、はっきりとした終わりのない、この今まで経験したことのないこれからをしっかり進んでいってくださることもまた願っております。
私たちの仕組みだけではまだまだ十分とは言えません。ここ、鹿児島県大隅地域は東京都や大阪府くらいの広さであるにもかかわらず公共交通機関がほとんどなく、家族の送迎が無ければ支援に繋がることができません。特に、一人親や困窮家庭で支援が必要な方のために送迎の仕組みを充実していきたいです。