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ペルシアの七草粥(前編)

中国から伝わってきた七草粥の風習は、一月六日にうら若き乙女が春先の野に出て七種類の若菜を摘んで七草粥を用意し、一月七日の朝に頂くというものでした。旧暦のお正月は立春の前後だったので、春一番の若草をお粥にしてお正月の食卓に並べるという、農事暦のお祝いだった訳ですね。

さて中国からさらにシルクロードを西にたどって行くと、実は、七草粥の文化は遠くペルシア文化圏まで及んでいます。ペルシアに古くから伝わる七草の風習では、春先に七つの穀物の新芽を育ててお正月のお飾りにし、この新芽をコトコト炊いた七草粥をお正月の食卓に並べていたそう。何故七草かというと、七つの新芽の伸び具合から今年はどの穀物がよく育つかと観察して、春の種まきに役立てた実用的な意味と、七という縁起のいい数字で新年の豊作を願った祈りがともに込められていたとか… 

今のイラン(ペルシア)では、七草を揃える風習がいつの間にか忘れられてしまったようで残念だけれど、今でも春正月のお飾りに小麦などの新芽を用意し、その絞り汁だけで炊いた甘いお粥(サマヌー)を一昼夜かけて大鍋で煮込む行事が欠かせません。そして今でも伝統的なゾロアスター教徒の家庭では、七つの穀物やその新芽で炊く七穀粥や七草粥の伝統が保たれているとか。

さて、ペルシアの七草粥が発祥となったお粥サマヌーは(お風呂かと思うほど大きい!)大鍋でぐつぐつ煮えるお粥が焦げ付かないように、一昼夜ずっと(ボートをこぐオールかと思うほどの!)大きなお酌でかき混ぜ続けなくてはならないという(!)とっても手のかかる一品なのですが、実は、かき混ぜる時に願い事をすればきっと叶うという、とってもロマンチックなお粥なのです。

だから沢山の人が集まって、誰もが願い事を胸に、夜更けまでずっと順番にお粥の大鍋をかき混ぜていくのです。そして朝になったら、とっても甘くて願い事の叶う、新春の縁起の良いお粥のできあがり。

シルクロードをはさんだペルシアと日本の七草粥。なんだか幸先がよさそうです。

(Copyright Tomoko Shimoyama 2019)

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