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世界の半分イスファハーンに佇むアルメニア教会(後編)

さて、アルメニア地区を散策しながら、点在するアルメニア教会の建築を見ていくと、ドーム型の丸屋根やタイル細工、建物内部の装飾、庭の様式など、ペルシアの伝統建築と似ているように思われる部分がなぜか多いのです。どうやら、外から一見するとドーム型の丸屋根がかぶったモスクのようにも見えるのに、中に入ってみると、東方教会独特のカラフルな色彩に溢れたな装飾で散りばめられていて、教会だとわかる(!)というのがこれらの教会建築の特徴なのです。きっとオスマン朝下で迫害されていたアルメニア教徒たちがイスファハーンに亡命してきた時、少数派の彼らが安心して暮らせる町をつくろうとした建築家たちの仕掛けだったのかも… そしてよく見てみると、教会内部にも、サファヴィー朝時代のモスクなどで目にするタイル細工が同じような様式で使われているのでした。

なかでも印象に残ったのは、糸杉を描いたタイル細工や、糸杉となつめやしの木を並べたモチーフが祭壇などの装飾に使われていること。糸杉はゾロアスター教にとって聖なる木とされていて、ミニアチュールをはじめ、ペルシアの伝統美術で多用されるモチーフです。また糸杉と並んでなつめやしも古来大事にされてきた木で、世界遺産のペルセポリス遺跡でも糸杉となつめやしを並べたモチーフが使われています。他にも、タイル細工に施されたペイズリー模様もたくさんあったけれど、これも実は糸杉をかたどった伝統的なモチーフなのです。こんな風に、イスラム時代のペルシア芸術の様式もあちこちで顔をのぞかせ、東方教会特有の壁画美術などと融合して独特なアルメニア美術の様式をつくっている点が魅力的でした。

またもうひとつ面白かったのが、ヴァンク教会で展示されていたアルメニア教徒の墓碑のデザイン。仕立て屋や肉屋、金細工職人、音楽家、詩人などなど、生前に従事した職業がイラスト入りで描かれていて、なんとも楽しげな墓碑なのです。また生前の生き方から英雄(ジャヴァーンマルド)と呼ばれていた人の墓には石でかたどったライオンが置かれているとのこと。でも博物館の人と話していると、こうした墓碑はアルメニア教徒特有のものではなく、ペルシア文化圏のアゼルバイジャンやコーカサス地方から来た様式で、イランの各地で見られるという。こうした墓碑には、死者を葬るときは、きちんと働いて楽しく一生を全うした人々を称賛と記念の意味をこめて楽しく来世に送り出すという意味が込められているとか… いつか博物館ではなくて、旅先で訪れた小さな墓地でもこんな楽しげな墓碑を見てみたいもの。そうそう、言い忘れていたけれど、実は世界で一番古い教会は、イランからトルコに向かう国教近くの町にある東方キリスト教会だと言われています。これについてはまた今度。


(Copyright Tomoko Shimoyama 2019)

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