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【企業インタビュー】コンサルの先駆者が語る、サステナブルな未来に向けて日本企業がすべきこと 株式会社日本総合研究所の事例

脱炭素化社会の推進に向けて、企業はさまざまな取り組みを始めています。

しかし「何をどうすればいいのか」「他の企業はどんなことをしているのか」と考えあぐねている人は多い様子。

パーセフォニジャパンは、先進的に脱炭素化社会に向けた取り組みを進めている企業様にスポットを当て、みなさまが参考にできる実践法をお聞きしています。第5回となる今回は、パーセフォニのお客様である株式会社日本総合研究所様へのインタビューです。

迷ったり悩んでいる方々の参考になりますように。

【用語解説】カーボンニュートラルとは、発生した炭素(CO2が対象)排出量と除去量を差し引きゼロにする状態です。詳しくは過去の記事【秒速理解】脱炭素社会とは?なぜ目指すのか?達成の第一歩とは?で解説しています。

■インタビューした企業様
株式会社日本総合研究所 

■お話を伺った方々
株式会社日本総合研究所 
リサーチ・コンサルティング部門 戦略企画部 部長/プリンシパル 段野 孝一郎 様
創発戦略センター サステナビリティ&ソーシャルインパクトスペシャリスト 水野 ウィザースプーン 希 様

コンサルティングを通じてカーボンニュートラルに貢献

ーー貴社の事業内容について教えてください。 

弊社はSMBC(三井住友銀行)グループに属しており、総従業員が約2,900名超のシンクタンク兼システム・インテグレーションの会社です。売上の95%は、グループの基幹系システムや環境系システムの開発・保守・更新です。残り5%が、私どもが所属するシンクタンク・コンサルティング部門によるコンサルティングビジネスや、インキュベーション活動です。
 
カーボンニュートラルに関心を持つリサーチ・コンサルティング部門のお客さまの約3割は主に官公庁の資源エネルギー庁や環境省といった規制当局です。残りの約7割は一般企業で、我々は、脱炭素実現に向けた各種計画の策定や、GHG排出量の削減策の検討・実行、サステナビリティ経営の支援をしています。そのほかにも、社会価値創造の観点から、社会に貢献しながらマネタイズにつなげる方法など、コンサルティングの内容は多岐にわたります。

ーー政府機関のCN政策立案や一般企業の脱炭素化を、コンサルティングを通じて支援されているのですね。自社内では、カーボンニュートラルに関する取り組みをされていますか?

グループ全体としては、SMBC サステナビリティ企画部の指示にもとづいて、グリーン電力や再生可能エネルギーの調達といった脱炭素の取り組みを阿吽(あうん)の呼吸で進めています。また、我々のメイン事業であるコンサルティング事業では、SMBCのお客さまを含む当社のお客さまのサステナビリティを実現することですので、当社のカーボンニュートラル活動の中心は、コンサルティングを通じてお客さまのCN化に貢献することでもあります。

さらに、創発戦略センターが推進する社会インキュベーション事業では、当社のお客様以外も含む、社会全体のCN化を推進するべく、京都大学と協働して「カーボンサイクルイノベーションコンソーシアム(CCIコンソーシアム)」を立ち上げ、炭素循環を可能にする産業インフラ形成に向けた取り組みを進めております。このように、コンサルティング活動以外にも、インキュベーション活動として、社会的価値創出に向けた取り組みを推進しているところが当社の特徴です。

CCIコンソーシアムで目指す新たな産業インフラ(画像提供:日本総合研究所)

社会の潮流に合わせ、グループ全体の温度感が変化

ーーSMBCグループが脱炭素化への動きが加速したのは、何がきっかけだったのでしょう。

大きな転機は2011年の東日本大震災でした。それまで日本の電力・ガス・環境セクターは旧態依然としていて、企業経営者の皆さんにとっても、環境マネジメントは「無駄なコストをかける必要はない」という位置づけでした。

SMBCグループも、当時は省エネ法や温対法といった法令対応や、グリーン調達率を基準値まで満たすことなど、法令要請を満たす取り組みに留まっておりました。
 
お客さまにはサステナビリティを推進しておきながら自社はそこまで先進的ではない、「紺屋の白袴(しろばかま)状態」で、歯がゆかったことを覚えています。

それが、欧州で「2050年までにネットゼロを目指す」と叫ばれ始めた2018年ごろを潮目に、グループ内の温度感も一気に変わっていきました。それまでのような「必要最低限の対応」ではなく、「企業市民が率先して社会に貢献していかなければならない」という意識が醸成されていったのです。

当社グループだけでなく、一般企業においても、経営アジェンダでの位置付けがそれまでは10番目、20番目に位置していたものが、今やトップ5に入ってきており、この10年間において確実に変化していることを感じます。

(戦略企画部 部長/プリンシパル 段野 孝一郎 氏)

日本が遅れているのは、自国内で取引が成立するから

ーーサスティナブル領域のコンサルティング実績を多数お持ちの御社ですが、現状の日本企業の課題をどのようにお感じですか。

欧州や米国を訪れると、サプライヤーや発注者の間で「いつになったら再生可能エネルギー電力が100%になるんだ?」という話題が日常的に交わされています。ところが日本では、サステナビリティを意識せずともモノが売れるため「今すぐ取り組まなくてもいい」と思われがちで、欧米と取引するごく一部の企業だけが必死になって努力している状況です。

これはサスティナビリティに限ったことではありません。たとえば国連が各企業に対して「責任投資原則(PRI)」を提唱して以降、世界では「ESG要素を考慮して投資先をきびしく選ぶ」という機関投資家が増えました。しかし日本ではそうはならず、依然として「投資収益率(IRR)が上がっていればいい」という基準で、投資先候補を選びがちです。
 
これは日本の国民性でもあり、グローバル基準の取引のプレッシャーにさらされる割合が、産業構造上少ないことも要因でしょう。つまり、自国内だけで取引が成立してしまうのです。
 
日本は、新興諸国とは貿易が盛んですが、これら貿易対象国はまだ環境活動を視野に入れた活動の進捗が十分ではなく、現行はカーボンニュートラルよりも製品コストを下げることに重きが置かれています。

しかし今後、抗いきれなくなる時代がやってきます。現に5年前には考えられなかったことですが、Apple社のように、世界中のサプライチェーンに関わる事業者に脱炭素化計画の進捗報告を求めるグローバル企業も増えています。そうした時代に備え、今からできることを始めておくのが大切だと考えています。

(創発戦略センター サステナビリティ&ソーシャルインパクトスペシャリスト 水野 ウィザースプーン 希 氏)

ーー具体的には、日本企業は何から取り組むべきなのでしょうか。

企業は少なくとも、環境インパクト(環境への働きかけ)をマーケティングのひとつとして見るのではなく、環境インパクトが利益になるような体制をつくっていくことが第一です。

日本にいると実感が湧きにくいのですが、実はフィジーの海面上昇問題や、2023年9月に発生したモロッコ地震も、環境対策不足に結びついています。「やらないと格好悪いから」ではなく、死活問題としてエコビジネスに取り組まないといけません。

とはいえ、多くの企業さまをコンサルティングしてきた我々も、「この問題をボトムアップで進めるには限界がある」と実感しています。サステナビリティの追求にはコストがかかり、収益機会も増えるどころか、減る可能性すらあるからです。企業として重要度の高い意思決定が必要であり、そのためにはトップの意識を変えることが不可欠です。

ーートップの意識が変わるような働きかけとして、企業担当者には何ができますか。

我々がもっとも効果を感じたのは、企業経営者同士の「対談」の場を設けることです。

それも、一度だけでは記憶に残りにくいので、数回にわたって行うのです。さまざまな角度からアプローチすることで、「そうか、もうそのレベルまで意識が高まっているのか」と、トップの方々に気づいていただきやすくなります。

場をつくるのが難しければ、担当者自身が大規模シンポジウムに参加し、情報収集や意見交換をすると、何か手がかりがつかめるかもしれません。

負の歴史を断ち切り、別次元でサステナビリティを進める

ーー現場はサステナビリティを推進したい一方、経営陣の意識が変わらず悩まれている企業担当者も多いです。

企業によって状況は異なりますが、トップだけではなく、サステナビリティを推進している部署の「出自」も大きく影響すると感じています。たとえば10年前、20年前を振り返ると、環境の法令対応を担っていたのは大半が総務系の部署で、予算も裁量もなく、社内からデータを受理して、分析し、省エネ報告をして終わり……という状況が続いていたのですね。

その部署を、時代の流れにのっとって名称だけ「サステナビリティ推進室」などと変更したケースは、残念ながらほとんどがうまくいっていません。社内の慢性力とは大きなもので、それぐらいでは現場は動いてくれず、それどころか以前と同様「口うるさい存在」としか認知しないのです。

そうではなく、新組織を立ち上げたり権限を増やしたりして、まったく異なる次元でサステナビリティやカーボンニュートラルに取り組むとスムーズに進みます。何より「過去の負の歴史」を引きずらないことが大切で、我々もコンサルティングでは、「従来とはやり方も考え方もすべて変えないといけませんよ」とお話ししています。
 
日本政府も脱炭素経済・社会構造への移行を見据え、GX(グリーントランスフォーメーション)関連政策を進めております。これまでのような「守り」の意識ではなく、脱炭素経済への移行をチャンスと捉え、「攻め」の姿勢で捉えていくように意識を変えていくのも有効です。

今後のGX対応のポイント(画像提供:日本総合研究所)

ーー上記のように、従来の慣習を引きずっている企業が一歩前に進むには、どうしたらよいのでしょうか。

他業種、できれば同業種のサステナビリティ担当部署と交流することがおすすめです。異なるマインドや考え方に触れると、「昔のままじゃだめなんだ」「そんな方法で社内を説得しているのか」など発見があるのです。自分たちだけで悩まず、外に解決策を見い出すことは望ましいですね。

また月並みではありますが、自社のGHG排出量、スコープ1・2・3を可視化することも大切です。仮に、算出結果を見てみて「思ったより数値が多い」と絶望したとしても、前向きに現状でできる手段を考えることが大切。次のステップとして、お手本となる企業の話を聞くことも必要です。

カーボンニュートラルやサステナブル経営に、強い熱意で取り組んでいる方々が、なぜやろうとしているのか。取り組んだ結果、どのようなメリットがあったのか? を、先入観をもたず平静な心で聞いていくと、そこにはかならずヒントがあるはずです。
 
カーボンニュートラルと聞くとハードルが高いように聞こえると思いますが、①経営基盤レベル、②事業ポートフォリオレベル、③サプライチェーンレベル、④製品・サービスレベルの各階層で、様々な対応の方法が考えられると思います。まずはできるところから着手していくという発想も大事ですね。

企業経営におけるCN対応の方向性(画像提供:日本総合研究所)

日本総合研究所の皆様、ありがとうございました!


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最後までお読みいただきありがとうございます。
今回の事例を通じて、皆様の活動のヒントが見つかることを祈っています。
それではまた次回、お会いしましょう!

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