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ノクチルイベコミュ『天塵』に関する雑感・感想など


 ネタバレと感想記事です。
 コミュ内のテキストから分かることだけをできるだけ淡々と記載するようにしています。

オープニング「ハウ・スーン・イズ・ナ→ウ」

 タイトルは、the Smithsの『How Soon Is Now?』からでしょうか。和訳すると「(お前の言う)いまっていつなんだよ」という意味になります。
 この曲は簡単に言うと希望に対する不信感を歌にしており、「中途半端で根拠のない希望に導かれたひとは一層、惨めな気分になる」という内容です。歌詞を一部抜粋し、簡単に訳を付けておきます(誤訳あったらすみません)。



There’s a club, if you’d like to go
You could meet somebody who really loves you
So you go and you stand on your own, and you leave on your own
And you go home and you cry and you want to die

行きたいならクラブにでも行けばいい
本当に愛してくれるひとに出会えるかもしれない
けれど、行って、一人きり立ち尽くして、一人きりその場を去るとしたら
それで家に帰ると泣いて、いまにも死にたくなるんだろう

When you say “it’s gonna happen now”
When exactly do you mean?
See I’ve already waited too long
And all my hope is gone

「いまにいいことが起こるよ」と言うけれど
それっていつのことなんだ
ねえ見てくれよ、待ちくたびれて
希望なんてすっかりなくなってしまった

You shut your mouth, how can you say
I go about things the wrong way?
I am human and I need to be loved
Just like everybody else does

黙ってくれ、いったいどうして
やり方が間違っているなんて言えるんだ
同じように人間なんだ 愛されたいと思っている
ほかのみんなと同じように

 当イベコミュの続きを思うと不穏な引用とタイトルです。この歌からタイトルを取っていると思うこと自体、気付き程度の意味しか持たない深読みでしかないのですが……。
 しかしそういう意味では、全体的に不信感を表に出す樋口(樋口は親愛度を4にすると「現実的な将来から遠ざけて……他人の人生にどこまで責任を持てるんですか? 早く答えてください」と印象的なことを言います)がこのOPの語り手であるということには納得がいきます。
 OPで描かれる内容は、現在の樋口と、彼女が回想するノクチルの4人の幼少期の話です。幼い4人は将来、みんなの車で旅行に行こうという約束をし、それを達成するには到底およばない手段(小学生の金銭感覚での貯金、免許を取れない車)について話します。旅行先は海にしよう、と幼い浅倉が言います。
 いつ達成されるか分からない、先行きの見えないこの約束がイベコミュの中核になることが、これを回想する樋口の存在と、彼女が最後に提示する台詞から読み取れます。

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「どこに向かうのか、またそのとき自分たちは何者になっているのか」という不安を持つ樋口が、「遠くの海にいくためには、大人になって自動車免許を持っていなければならないと思っていた過去」を想起するのは、こうして見てみるとつくりが丁寧で驚きます。

 ところで個人的には雛菜のパパの車が大きいという設定が好きでした。車が大きい家には3種類があるように思います。①単純にお金持ち②めちゃくちゃにアウトドア系な家③両者のハイブリッド、です。この辺りの描写(娘の頼みを断れない父・父はお願いを断らないと確信している娘)のある種テンプレっぽさからは、上記①OR③の気配が漂います。シャニマスのアイドルたちは何となく実家の太そうな子が多く、個人的な好みの問題で少しうれしくなります。

第1話「屋上」

 まだデビューして間もなく、本番を迎えたことのない4人が屋上で交わす諸々の会話がまず第1話の中心となります。ダンスの振りのテストがあるからとのことで、それぞれ動きを確認しているようです。
 冒頭で示されるのは、やっぱり浅倉は凄い、ということです。同時に、小糸はまだ自分の技術に自信を持つことが出来ていないようです。

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 上記のくだりを境界に、場面は「①樋口―小糸」「②浅倉―雛菜」に分かれます。
 まずフォーカスが当たるのは前者①の方です。やはり自信を持ちきれない小糸に対して、樋口がフォローを入れます。それを受けて小糸は初めての仕事に対する意気込みを表明します。同時に、後々効いてくる伏線として小糸が仕事を「ちゃんと」やらなきゃと言っています。
 樋口は今度はその意気込みを若干の間をあけて肯定し、ワンシーンの回想を挟みます。『私の幼馴染がそちらに所属することになりまして~』の発言です。

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 まだ自分たちは裏切られるのでは、という懸念を樋口がしていることが分かります。また初出の時点では、この台詞の「幼馴染」は浅倉を想定しているものと思われましたが、この懸念の対象は浅倉以外にもあてはまることが示されました。

 場面は転換し、上記「②浅倉ー雛菜」の幕にシフトします。こちらは①で示された心配や懸念ではなく、仕事に対して楽観的な様子と、曖昧な今後についての話が中心になります。
 2人がもっとおおきくなったあとの今後の仕事について、パリでのファッションショーを挙げます。
 なお、ここではパリについて「遠い」「楽しそう」くらいのことしか印象として存在せず、幼少期に決めたいつかの旅行先であった「海」を変奏させているように捉えられます。OPで示された、「曖昧な遠い場所に向かう4人」という題が、形を変えて示されています。

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 再び場面は代わり、夕方。それぞれ自主的なトレーニングに取り組む樋口と小糸が描かれます。印象的だったのは、屋上での浅倉のダンスを思い出しながら黙々と練習に励む樋口です。これは後々の「透にできることで私にできないことはない」という思想が樋口のなかで強固なものであること(強固なものにしようとしていること)が示されています。

 夜。事務所でのPと樋口の幕です。初仕事の生配信番組について、仕事としての安全性などをPに念押しします。生放送ではなく生配信、視聴率ではなく視聴者数という辺り、Abema TVあたりが製作しているネット番組なのでしょう。樋口は他3人を思い浮かべながらPに対し「何かあったら許しませんので」と発言します。

 日付は変わって別のレッスンの日。まだ番組への不安感をぬぐえないのか、和気藹藹と話す他メンバーやPとは対照的に樋口はひとり寡黙な印象を残します。
 1話の最後には樋口のモノローグとして、すでに走り出してしまった浅倉について考え、自分と対比しているような描写が挟まれます。

「透は……」
(中略)
「走り出してしまった」

 ところで、最後の幕で出てきた「きらきらしたフルーツゼリー」というのは後々出てくる「感の底にたまるミカンの粒」を経由し「不安定に揺れ小さく光る夜光虫」に接続される最初のトリガーと言えそうです。これは気付き程度のことかもしれませんが、芸が細かいです。

第2話「視界1」

 タイトル自体については「視界2」「視界3」と並列して考えるべきでしょう。一旦、省略します。

 第2話は打って変わって学校の様子が描かれるところから始まります。描写されるのは現社の授業を受ける雛菜と、雛菜が窓から見ている体育の授業中の浅倉です。授業に集中していない雛菜は教師から注意されてしまいます。

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 個人的に「テストに出る=大事」という雛菜の考え方は効率性の重視という意味で『ワークワイフバランスの実現』だと思っていて、そういう意味では、この現社の授業で言及されている内容が高度経済成長以降のライフスタイルの多様化であることも(それが未だ完全な実現を見ていないという点も含め)、脚本上の芸が細かいなと感じます。

 授業のあと、雛菜は小糸に借りていた教科書を返しにいきます。小糸は校内の目立たないところでダンスのおさらいをしており、そんな小糸に対し雛菜は「楽しい?」と訊ねます。小糸は小糸で雛菜のスタンスを知ってはいるので、そこに対する若干の苦い思いを隠しきることが出来ません。

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 場面は転換し夕方。樋口の自主トレーニングが描写されます。樋口の自主トレの場面ではほぼ確実に浅倉の回想なり立ち絵のカットインが挟まれ、その原動力の一部としての存在感を発揮しています。

 また夜。今度は小糸の自主トレの様子です。練習場所を求めて河原に辿り着いた小糸は幼少期のやりとりを想起します。

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 ここからしばらく別の幕にうつっても、小糸にとって浅倉がどういう存在なのかが示されます。また、4人のなかで小糸自身がどういう立ち位置にいるのか、どのように自覚しているのかが描かれます。

『かっこいいじゃん』
(中略)
って、透ちゃんが言った
その『私たち』に――
わたしもいる
(中略)
透ちゃんがかっこいいって言ったら、
それはもう、かっこいい

 後述の花火大会の仕事を受けるか決定するとき、舵を切ったのは小糸でした。これらの場面の背景には、小糸自身が中学時代に疎遠になっていたことを踏まえ、4人の関係は共通点を持たなければ少なくとも局所的にほつれることを念頭に置いているように見えます。
 だからこそ浅倉の言う『私たち』のなかに自身が含まれていることを、小糸は確認せずにはいられない。遅れないように、置いていかれないように、という思いはここから発生していそうです。
 そしてこのことは相対的に、小糸のなかでは、浅倉が4人の中心にいるという考え方を強固なものにしています。そのため、4人にとって自分は何かという問いは、浅倉の影響力の定義へとスライドしていきます。

透ちゃんがかっこいいって言ったら、
それはもう、かっこいい
(中略)
透ちゃんが笑ってたら、
みんな笑っちゃう
(中略)
雛菜ちゃんも、
円香ちゃんだって笑っちゃう
(中略)
透ちゃんが
行こうって言ったら
(中略)
それはもう
走り出すのに十分――――

第3話「アンプラグド」

 unplugged は、電力を利用しない楽器のみを用いて演奏すること、の意です。エレキギターなりシンセなりエレキベースなりを利用する楽曲をアコースティックにセルフカバーする場合に、そのカバーを「unplugged version」と呼んだりするアーティストもいます。
 この話で言う『アンプラグド』は、マイクの電源を切る口パクに関する諸々のことであると理解できます。また関連し、いつも通りという意味合いもありそうです。

 3話はシャニマスでよく出てくる、やたら毒気と悪意のあるモブたちのオンパレードです。新人アイドルユニットを蔑ろにする関係者(たびたび出てくる割りにPからアイドルへのフォローがないのはどういう訳なのか)と、ひたすら不安げな小糸が繰り返し描写されます。しかし、他のメンバーも結局おなじような立場であるため、有効なフォローをすることができません。

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 また、アンティーカって売れ筋なんですね。番組関係者のいう「このまえのよかった特番」というのは「ストーリー・ストーリー」の話かもしれません。サザエさん時空のくせに、283プロにはデビュー時期という意味で明確に先輩後輩関係があるようです。

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 事前にやり取りしていた内容と全く異なる現場の様子に空気はめちゃくちゃになりますが、浅倉が思い切りのよさを見せます。
 浅倉の内心はすべてのコミュを通じて一切描かれないのが特徴で、すべては実際の発話によって描写されています(回想以外のモノローグが存在しない)が、肝心となるこれらの発話からも浅倉の心情は読み取りにくい(というよりも、いかようにも解釈できるようにテキストと演技がフラットに構成されている)。
 とはいえ、本番ステージでやりたい放題やった結果、本来正当な評価を受けるべく努力してきて、かつそのことを支えにしてきた小糸にカメラをフォーカスさせるなど、浅倉がかなり高いレベルで他人をよく見ていることが分かります。
 雛菜も小糸のそういった努力のことはよく知っているので、それを引き出そうとした浅倉を一層、たかく評価しています。また樋口も同様の態度を示していることが暗示されます。

第4話「視界2」

 4話は生配信の仕事の後日にSNSが、ノクチルの話題で炎上している様子から始まります。
 仕事は干され、アイドルなめんなと言われ、浅倉と樋口の会話にもぎこちなさを感じられます。樋口は、先行きを見えなさを今一度噛みしめ、幼少期の思い出と重ね合わせます。

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 雛菜小糸はやはり宙ぶらりんのままになったまま認識齟齬を起こし、Pは仕事を取ってくることができません。
 シャニPがあどけなさ・純粋さに強い反応を示す感性の持ち主であることは、めぐるやあさひのコミュでもたびたび示されてきました。今回のノクチルの仕事についても、詳細な言語化はこの時点ではなされませんが、価値を見出しています。しかしその甲斐虚しく、営業の電話も即切りされてしまいます。

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 Pが電話を切られているところを恐らく樋口は立ち聞きしてしまったのでしょう。ランニングに出掛けたところ、小糸と遭遇します。経過している時間の関係から、補講は実際には(前幕で浅倉と会話していた通り)さぼったと理解できます。

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 前回の仕事について悩んでいるらしい小糸をフォローする樋口。小糸は浅倉をどこか神格化している節があるけれど、樋口はそれを否定して、小糸のはたらきを褒めます。

あいつ、3回に1回くらい
歌詞ごまかしてるから
(中略)
ほんと
やたら堂々としてるから、気付かれないけど
(中略)
……だから
いちばん『仕事』していたのは小糸
――――小糸がカメラに映ってくれてよかったの

 浅倉のことを本当によく見ていることが示される一方で他のメンバーに対しても同じようにフォローできる樋口ですが、小糸と「先に進むこと」について認識齟齬を予感させます。
 樋口からフォローされたことを受け、小糸はまた4人で一緒にいられることになった事実を再認識します。それを踏まえ幼少期の「海にいく」という約束を回想し、樋口に「絶対、一緒に行くから」と言います。
 しかし樋口は、回想を経由したその言葉の意味をいまいち理解できません。また、この先に何があるのか、行くために何が必要になるのか、そのとき自分たちは何者かに変化しているべきなのか、そもそもどこへ向かうのか、答えを見いだせません。従って、内心で自問するに留まります。

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 この問いは不安を抱えたまま、4話の最後まで継続されます。
 ただ下記のモノローグに変奏されるこの問いは、浅倉と一緒にいる自分たちがどこに向かうのか、という問いに加え、自らを心配症と称した樋口が、他でもない浅倉の向かう先を案じているよう、意味が重ねられているふうに見えます。

どこへいくんだろう
ねぇ、透――――――

第5話「視界3」

 いまだに「視界」の意味が分かりませんが、視界3まで来てしまいました。気合を入れて読んでいきましょう。

 5話は自主練の幕から話が始まりますが、いまだ仕事もなければゴールも目標も定まっていないため、雛菜は先にレッスン室を後にします。しかし真っ直ぐ家に帰らずに、浅倉の部屋で帰りを待っていました。

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 浅倉の爪は雛菜が手入れしているらしいという事実に一旦おどろきます。ご丁寧に入れられている「……?」は、浅倉の爪への関心の薄さを示すのか、雛菜の言動に対する疑問符か、捉え方が悩ましい。

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『溶ける言葉』で樋口が訊けなかったやつ。おどろきの伏線回収。
 とはいえ実際に得られる回答は雛菜のハッピーに関連するものであれば何でも構わないはずなので、樋口の質問とはそもそも意味合いが異なるはず、ということは覚えておきたいことです。

 話題はネットの騒動に転がっていきます。浅倉は本当に無関心であるようですが、雛菜は炎上騒動にも一通り目を通していそうな雰囲気です。
 雛菜のキャラクターとして、自分の幸せが優先事項であることはそうなのですが、一方で単に他者の理解を拒む自己中心性とは異なり、他者の言動に対し自身の内心がどう反応するかを観察し振舞っているように見えます。このプロセスに自覚的であるため、他者の言動の理解には自らの内心というバイアスがかかり、正常な判定が難しいことを知っている。従って雛菜は雛菜のことしか分からない、となるのだと思っています。
 そのため、自分が向ける視線にバイアスがかかっていることを無視しているような他者に対して、皮肉を交えて言います。

覚悟がないとだめなんだって
でもそれ
誰のこと言ってるんだろうね~?
すごいね~
なんで頑張ってないとかわかるんだろう
雛菜は雛菜のことしか
わかんないけどな~

 なお、上記台詞における他者の視線に掛かるバイアスとは、「覚悟がないとなぜわかるのか」「あのような行動をした理由がなぜ分かるのか」「その責任は10:0でこちらにあるとなぜわかるのか」など、だと捉えています。

 雛菜の発言を踏まえ、浅倉は「アイドルの条件・決まり事とはなにか?」を問います。雛菜も知りませんが、じゃあみんなは知っているのか、という意味で、浅倉はその条件・決まり事を知っている人を「アイドルがいる人」と表現します。
 ここは正直、意味がよく分かりませんでした。いる=要る=居る、など? あえて漢字に変換していないため、包括的な意味を持たせていることが想像できます。
 恐らく、いまノクチルがぶつかっている壁はアイドルらしさの欠落にあって、それは既存のアイドルが持つアイドル性(そんなものがあるのか分からないが……)との差分によって人々から認識されている。つまり、雛菜の認識している他者の視線に宿るバイアスであって、それらを踏まえると、「(自分のなかにこれという)アイドルがいる人」と理解すれば収まりがよさそうです。

 その間も、Pは仕事を得ようと営業に走り回っています。Pはどうにかノクチルのメンバーについて、失敗した仕事で感じた輝きを活かそうとしています。

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 結局「視界」の意味が分かりませんでした。視界1~3まであるということは異なる視界のレイヤーが3つあって、それって何なの?という話が各話ごとに展開されているはず。またちょっと考えたい。

第6話「海」

 タイトルは分かりやすい。海。幼少期に交わした旅行の行き先も海でした。では読んでいきましょう。

 自主レッスンの様子から始まります。

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 樋口は、いないところで浅倉を第三者として扱う場合には、(雛菜に対してのみ)透と呼んでいるようです。驚きます。
 この幕で、雛菜は樋口にアイドルは楽しいかを訊ねます。浅倉と小糸にもしていた質問です。二人はそれぞれ楽しいと応えていましたが、樋口は「それは雛菜の観点でしょ」とずらして回答しています。
 雛菜が訊ねたいことは「現状に満足しているかどうか」であって、それを雛菜の言語を介すと楽しいかどうかになってしまう。一方で樋口はその変換を理解しており、かつ自分は楽しいか否かで物事を判別していない、ということなのだと思います。信頼に担保されるハイコンテクストな会話です。

 次にPと浅倉が登場します。Pはジュースに入ったミカンの果肉をどうにか取り出したいようで、浅倉はその様子を観察して笑っています。
 ここでは缶ジュースとミカンの粒に、Pの感じるノクチルの可能性が仮託されていると読めると思います。

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 ところで缶に粒状の固形が入ったジュースは、飲み口の少し下を凹ませてやることで流体の動きを制御すれば、コーンだろうがミカンだろうが簡単に出てくるようになっているらしいです。ここではその缶を凹ます動作が出てこないため、そういうPの姿勢が表れているようで、好感が持てます。

 さて、ノクチルに新しい仕事が舞い込みました。花火大会での営業とのことです。小さな仕事ゆえ、決していいものではありません。通常であれば断ることも選択肢に浮上します。Pはそのことを認識したうえで、仕事を受けるのであれば、何かしらの動機があってほしいと言います。
 仕事を受けるか否か、一瞬空中分解しかける意見を小糸が前向きにドライブしようとします。中学生時代に疎遠になっていただけに、小糸が経験としてばらばらになる可能性の意味を一番よく分かっているという描写があり、説得力があります。小糸の言葉に呼応して、雛菜がポジティヴな返答をします。しかし浅倉と樋口はまだよくわかっていません。
 結局浅倉が、行く理由は特別ないけど(仕事先が海だから)行きたい、と結論付けます。
 樋口の「ほんとに、中身のない会話」という発言はかなりニュアンスが違いますが、ヒナサポコミュからの流用ですね。
 やはり最後の樋口のモノローグは印象的でした。部分的に抜粋します。

どうせ、わかんないって言うんだろうけど
(中略)
けど――――――
どこに行くか知ってて
走り出してる
(中略)
行きたい理由は無い
――――ただ、言えるのは
透にできることで、私にできないことはない

 先頭を走る人間に追い付き追い越せをやるというのはストレイライトも同じでしたが、根本的な対立軸がストレイライトは対内部のメンバーだったことに対し、ノクチルは対外部にあるため、ストレイライトのイメージが「競走」であるならば、ノクチルは「並走」という印象です。
 あるいは、ノクチルというユニットは4人のなかでは海に向かう車のようなもので、そうであるならば並走よりも同乗なのかもしれません。
 この視点で見たとき、では免許とは、貯金とは、ということになりますが、これらは樋口の回想のなかでは「車に乗って旅行にいく大人」が備えているべき条件として描かれているため、いまの4人は持っていない、かつ持っていなくても構わない、と捉えられます。

エンディング「ハング・ザ・ノクチル!」

 錦の御旗を掲げる、みたいな意味合いのタイトルでしょうか。読んでいきましょう。

 海辺の花火大会の仕事の場面です。とりあえず下記の画面からエンディングのテーマを理解しました。

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  伝説のロックバンドが昔ガレージで撮った貴重な音源みたいなエピソードが展開されていきます。

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 この仕事は4人がノクチルとして再スタートするためのものであっても、これまでの4人の関係を再定義するものではない、というのが興味深いポイントです。だからライブの後に浅倉は、「じゃ、行こっか」と完全に4人のなかで閉じていた海にいくという約束を果たそうとしますし、それを最終目的だと思っている。実際、最初に海に飛び込みます。Pはその行動に困惑します。

 付随して、浅倉の下記台詞は、WING編の人生のくだりを思い出します。また、海に行く約束を忘れていると小糸に思われていた浅倉ですが、この台詞を見るに覚えていそうです。

夏休み
いつも終わらない感じして、苦手だったけど
早かったわ
海に行くの、決まったら

 最後の最後、海であそぶ4人の様子を見て、その姿の言語化に迷うPの姿が描かれます。

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 これは「くもりガラスの銀曜日」でも用いられた手法に見えます。「くもりガラスの銀曜日」においては、インタビュー上で「なかよし高校生ユニット」として扱われるイルミネの3人について、日常を過ごすうちに生まれた、3人のなかだけで閉じた「銀曜日」という造語(=外部では用いられない語)を用いることで、3人が自分たちだけで育んだ絆を描写する、という内容の物語でした。
 ノクチルの「なんて伝えればいい」のかわからない美しさも、外部に存在する言語では表現できない、4人だけのものであることを強調するための表現と理解できます。またノクチルは4話以降で示された通り、「アイドルがいる人」の文脈を共有していないため、4人自身も外部の言語を持っていないことが強く示されています。そしてPもその輪から外れた位置にいる。今回の仕事に対しPから理由を求められつつも4人は結局、それらしい理由を備えなかったことから、この4:1の構図は継続されるものと想像できます。
 ただ、これらのことのみを指して、ノクチルは外部からの理解を拒否する内部完結したユニットである、と理解するのは難しく思えます。というのは、「みんなで始めるために、きた」仕事は「うちらがよければ」いいのですが、ではその後は、という点については特に語られていないためです。また、内的な価値観を重視することと他者の理解を拒むことはイコールではないと、既に雛菜のWINGで示されている例もあります。
 そういう意味で今後の外部との交流は、恐らくファン感謝祭編で描かれると思うので、そっちを楽しみにしたいと思います。

〇追記

・「なんて伝えればいい」のか分からないのにどうやって営業してたんだろう。

以上

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