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子供の頃に読んだ絵本のタイトルを思い出す方法

※本noteは国立国会図書館での事例を引用しながら、文献調査する時のアプローチ方法について学びを得ることを目的に書いたものです。あくまで一例です。ご参考までに読んでいただけると幸いです。

■あの日読んだ絵本の名前を僕たちはもう覚えていない

絵本は好きですか。小さなお子様がいらっしゃる親御さんには欠かせない図書ですよね。数年前から大人向けの絵本なんてものも注目を浴びるようになってきました。

今回は、司書がどうやって本を探しているのかという疑問に対して「絵本の探し方」というテーマに絞って何か書いてみようかなと思います。

お子さんにこんなテーマで絵本を探したい」「子どもの頃読んだ絵本をまた読みたいけど、タイトルが思い出せない」といった方々に役立てるようなnoteになればと思います。

最初にこのnoteを読む前に、ぶっちゃけココを知っておくとめちゃくちゃいいよっていう最強の「調べ物」に関する助っ人をご紹介しておきます。今回はこちらも参考にしながらまとめてみようかと思います。

国立国会図書館リサーチ・ナビ

■その答え、司書が真面目に探します。

本題に入る前に。

普段、大学図書館で働いている僕ですが、実はレファレンス(研究に必要な文献調査のお手伝いみたいなお堅いサポートから、何気ないゆるーい疑問についての答えの探し方、参考になる本を一緒に探してくれる図書館のお仕事の一つ)は大学の職員が対応しており、僕自身はレファレンスに携わる機会がほとんどありません。

しかし、学生や教員の問い合わせは千差万別。司書といえど万能ではありませんのでいついかなる問い合わせがきても対応できるよう日々の研鑽は重要です。

まずは、僕がレファレンスに関する勉強をする時に活用しているデータベースをご紹介します。

レファレンス協同データベース」です。これは公共図書館、大学図書館、専門図書館等におけるレファレンスの事例を図書館員が蓄積し提供されたものによってデータベース化されたものです。要は、図書館では実際いったいどんな質問がくるの?ということが可視化されています。

これ、適当に横断してみるだけでもめちゃくちゃ面白いんです。例えば「アクセスランキング」をのぞいてみてください。

“くしゃみの回数で意味が違うという迷信を友人と話していると解釈が違いました。何種類かあるのでしょうか。”

図書館にはこんな質問が来たりするんです。利用者はいたって真面目です。もし、あなたが親だったとして、子供からこんな質問をされたらどんな風に答えますか?答えをはぐらかしちゃたりしてませんか?

その質問、司書に投げかけてみて下さい。

司書はお堅い仕事だけをしているわけではありません。学術論文を検索してあげたり、レポートの参考になるような図書をピックアップしてあげたり。そんなイメージばかりではないのです。

子供が日常で見つけた発見や疑問について科学的にわかりやすく答えてあげるラジオ番組がありますよね。それと似ているように、司書はこんな質問に対しても真摯に向き合い、ありとあらゆる調査方法でアプローチしていくのです。

司書はなんでも知っているというのは誤解で、知らないことを知る方法に関してはあらゆる方法を知っている、というのが正しい認識です。

気になった方はこのnoteを離脱していただいて構いません。どうぞレファレンス協同データベースをのぞいて見て下さい。

いざ、めくるめく司書のお仕事ワールドへ。願わくばレファレンスの沼にハマらんことを。(もちろん、解決に至らないケースもあります。)

■司書は「パンが家を壊す」という記憶だけで絵本にたどり着けるのか

さて、本題の絵本探しです。国立国会図書館での事例でこんな質問があったそうです。

”大まかなあらすじから該当の絵本(児童書)を探したい。1970年代に発行された絵本で、パンを焼くのに膨らし粉を入れすぎて、パンがどんどん膨らみ家が壊れるというストーリー。結末がどうなったかはわからない。作家は日本人の可能性が高い。表紙は白地で、緑と赤の家が描かれている、登場人物は人間のおばさんである。”

まず、基本的でもっともシンプルなリサーチのプロセスは、

①探している本の「タイトル」がわかっている

②探している本の「作者」がわかっている

状態からのスタートです。

シンプルな調査方法としては、これらの情報が確かなのであれば、これを図書館のOPAC(オパック、Online Public Access Catalog、要は検索機のことです)の「キーワード」項目にぶち込んでエンターキーを押してしまえばいいわけです。

タイトルをメモしてきたor自分の記憶に絶対の自信がある方は「完全一致検索」で絞り込みましょう。利用している図書館に所蔵があればサクッとたどり着きます。

が、

今回取り上げた事例は、①も②もわからない状態なのです。ただし、手がかりは具体的にいくつか挙げられています

問題は、答えにたどり着くための大前提として「質問者の記憶が正しいものなのか」ということです。存在しないものをいくら血眼になって探そうとしても見つけることは不可能だということです。だって、ないんですから。

しかし、そこで諦めないのが司書です。ホールインワンは無理でもニアピン賞をあげたくなるくらいの答えにまで近づけるのがプロなのです。

さて、国立国会図書館のプロ司書はどんなアプローチで回答を導き出すのでしょう。

■リサーチのプロセス

(1)キーワードを設定する

今回の質問で具体的な手がかりになるものをリサーチする際のキーワードとして設定します。この事例では①「パン、膨らし粉、膨らむ」及び「家」(いずれも漢字・ひらがな・カタカナの表記違いを含む)をキーワードとして設定、②1979年以前に出版された絵本ということに絞って調査されています。

(2)データベースにあたる

調査に必要な三種の神器のひとつ「データベース」。世の中にはありとあらゆるデータベースが存在します。たとえば、皆さんの一番身近に存在するデータベースは「百科事典」でしょう。(今時は一家に一冊なんて時代じゃないでしょうが。)

レファレンスブックの他にこのデータベースは司書の業務において必要不可欠な存在です。今回は、まず設定したキーワードを以下のデータベースを利用して検索にかけてみます。

■具体的なリサーチ方法

▼「国立国会図書館サーチ」「国立国会図書館デジタルコレクション」で検索する

納本制度」(図書等の出版物をその国の責任ある公的機関に納入することを発行者等に義務づける制度のことです。)により、日本で出版されたありとあらゆる図書を所蔵する最強の図書館「国立国会図書館」のデータベースです。

迷ったらここで検索してみましょう。少しお堅いイメージなのでとっつきにくく感じるかもしれません。そんな場合は、自分がよく利用している近所の図書館の検索エンジンを使うといいです。ただし、このような問いに対してはキーワードだけでは目的の本にたどり着ける可能性は極めて低いかと思います。

▼「絵本ナビ」「こどもの本on the Web」

次に絵本について調べたいときに役立つサイトを紹介しましょう。「絵本ナビ」と「こどもの本on the Web」です。

特に絵本ナビはサイトも可愛らしくキーワードで検索することも、年齢別やテーマで絵本を探すこともできます。お母さんには嬉しいサイトかと思います。

▼絵本(児童書)に関するレファレンスブック

さて、事例では次は参考図書を使っています。これらは比較的大きめな図書館に行けば揃っていると思いますので、今回のようなケースでなくても「絵本を探したい」という目的でふらっと図書館に立ち寄ってみたときに手に取って開いてみて下さい。本の探し方って色々な方法があるんだなあと知っていただければと思います。例えばこんな手がかりから探す方法があります。

■1、絵本探しの基本的な参考図書

クリスマスやお正月。季節ごとのテーマ別に分類してある『保育・子育て絵本の住所録―テーマ別絵本リスト』や戦後出版された絵本をキーワードから探せる件名索引付きの『絵本の庭へ (児童図書館 基本蔵書目録 1)』など。

■2、手がかりから探す

色や食べ物、道具や乗り物、動物などを手がかりとして絵本を探せる『本の探偵事典』なんてものもあります。

■3、登場人物から探す

さらには、物語には欠かせない登場人物にテーマを絞った『世界・日本児童文学登場人物辞典』『日本の物語・お話絵本登場人物索引 : 1953-1986(ロングセラー絵本ほか) 』 なんかも!図書館の検索機を使うか、司書さんに所蔵しているか尋ねてみましょう。

■4、架空の場所から探す

なんと、物語の中に登場する地名の名前などからも調べることができます!『「場所」から読み解く世界児童文学事典』 『完訳世界文学にみる架空地名大事典』 などでは架空の場所や地名から逆引きできます。あらすじや登場人物は忘れていても、忘れられない「地名や場所」の思い出が導き出してくれるかも!逆にこれから創作をする人にも何かのヒントになりそうな気がします。

▼復刊ドットコム

と、ここまでデータベースやレファレンスブックを紹介してみたものの、実際の事例の中では答えにたどり着けていません。

そして、最初で最後の手段(?)、実はもっと簡単にヒントを得られる方法もあるのです。そう、誰でも抜ける伝家の宝刀「グーグル先生」です。

結局それかい。って思われるかもしれません。違います。あくまでグーグルがドンピシャな答えを教えてくれるケースは稀です。

そもそも情報の大海原から一つの答えを導き出すのには結構苦労します。検索キーワードの設定次第ではあるはずのものにたどり着くことすら難しい場合もあります。しかも、公の情報か個人の発信かの見極めや正誤判断も重要です。

司書はあくまでグーグルやウィキペディアで得た情報を「予備知識」として、正しい情報や回答へのとっかかりとするのです。グーグルの表層で得た知識をゴールとしないということです。(司書はこのとっかかりから参考文献などのさらに信頼性の高い情報へ渡っていくことで情報の精査をしていきます。)

ググる(情報)→参考図書や専門の文献で調査→そこでまた分からないワードに出会う→ググる(この時点で百科事典やその他参考図書にあたるのが一般的だと思いますが)→参考図書や専門の文献で調査の繰り返しです。

さて、少し脱線してしまいましたが、検索結果に登場するのが「復刊ドットコム」の「復刊ドットコム相談室」です。

なんと質問の内容に近似する絵本がいくつか挙げられています。

ここでは「マフィンおばさんのぱんや」や「そっくりパン」、「おひさまパン」、「ふくらむふくらむぱん」、学研 みみちゃんえほんシリーズの「おばあさんの ぱん」といったタイトルが回答として得られました。回答者がプロなのか絵本マニアなのか分からないところではありますが、これらの回答には当たってみる価値があります。(「知らないことは知っている人から答えを聞く」これはある意味、調べ物の鉄則ですね。)

あとは、情報を頼りに現物を手に入れ確認です。

見事、学研 みみちゃんえほんシリーズの「おばあさんの ぱん」が質問者の探している絵本に近いことがわかりました。(この司書は『みみちゃんえほん』シリーズのうち1970年代の巻号を通覧して辿り着きました。)

それでもやはり、「主人公はおばさんではなく、おばあさん。表紙及び裏表紙に緑と赤の家は描かれていない」といった記憶とは違う特徴です。

■あなたが諦めたことを諦められない人がいる

この実例での質問者がこの司書が導き出した絵本を前にどんな表情を浮かべたかまでは知る由もありません。思い出が蘇り顔が綻んだかもしれませんし、ここでもダメだったかと残念な表情を浮かべたかもしれません。

人の記憶は曖昧です。自分ですらはっきりと思い出せないことを頼りに、他人が見つけ出そうだなんて途方もない話だと思います。それでも、それを諦めない人がいるのです。

それが司書です。

見つからない答えを諦める前に、図書館に足を運んでみてはいかがでしょうか。そこで働く司書が、あなたの代わりに諦めてくれないかもしれません。

最後に!ここまで読んでくださりありがとうございました。

今回のnote内で使用したコマは『図書館の大魔術師』というビブリオファンタジーでめちゃんこ面白いマンガがら引用させてもらっています。(「アル」というマンガサービスで作者、出版社様から許諾を得ているマンガのみコマを投稿できる機能があります。このようにnoteでのシェアも可能となっています。ちなみに僕は図書館員をやる傍ら、アルでライターもやらせてもらっています。)

図書館員でなくとも非常にオススメできる作品ですのでぜひ。また、このマンガをテーマにライターの先輩へのマガジンへ寄稿しています。図書館員の目線で読み解くをテーマにいくつかnoteを書きましたので、合わせて読んでいただけたら嬉しいです。

また、stand.fmでもマンガや図書館のお仕事について語るラジオを配信しておりますので、よかったらぜひ聞いてみてください。Twitterもやっています。


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