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ずっと夏でいい


ずっと、なんて願っているせいで、どこにも行けなくなってしまった。思い出ばかりが綺麗だってことを忘れたくて、夏の暑い日にだけ耳を澄ます。蝉の鳴く声が脳を覆う。むせ返るアスファルトの熱で息が苦しい。揺れる景色が夢の中みたいで。気分は鬱屈としているのに、世界は燦々と輝いていて、眩しくて、お前みたいになりたかったな、って呟くと、また蝉が鳴いている。でも、この瞬間だけ、透明になれる気がするんです。風が身体の輪郭をなぞると、また、私はどこにも行けなくなる。そうやって、弱い心を隠すために、私は夏に縋っている。


2019.8.1

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