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「宇宙×防災」で創る新たな事業 – 防災教育 編[葛野 諒]

2018年から開始したJAXAの共創型研究開発プログラム「宇宙イノベーションパートナーシップ/J-SPARC」。そのJ-SPARCから生まれた「宇宙×防災」をキーワードとする新事業について、J-SPARCプロデューサーであるJAXA 新事業促進部 菊池優太 様にSpace Seedlings葛野がお話を伺ってきました。

JAXAが防災教室を行う理由

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©JAXA

葛野(Space Seedlings 以下S.S.):今回はワンテーブルさんとJAXAさんが行われている防災教室についてお話を伺いたいと思います。まず始めに、防災教室はどのような経緯で始められたのですか?

菊池さん: 10年ほど前、私は宇宙教育センターに所属しており、3.11のときも小学校で講演をしていた最中でした。震災後は日本宇宙少年団等と連携してキャラバンカーで東北各地を巡り、宇宙教室を行っていました。そのような活動を行う中で、今までと少し違う視点で、持続的な次世代育成につながるものがないかということで着目したのが、防災教室です。

学校や自治体で毎年行われている防災教育や防災訓練は、形骸化しているものが多いという声を聞きます。防災というとどうしてもマジメな内容を考えてしまいますが、子供たちが楽しみながら、自ら考え、体験したことの方が記憶に残ると言われています。そこで、子供たちに、宇宙という入り口から防災に興味を持つ機会を作れないかと思い宇宙×防災教室のプログラムを考えていました。

宇宙飛行士も自助・共助

菊池さん:防災の大事な三つの要素で、自助・共助・公助という言葉があります。これらの内、自助は自分自身で、共助はその地域の人々で助けあっていかなければならないことです。実際に何か起きたときに助け合うためには、誰に連絡したり助けを求めたりするべきか、事前の把握が必要になります。しかし、これらはそうしなさいと言われても中々簡単にできるものじゃないですよね。

そこで、私たちは宇宙飛行士のミッションや訓練を通じて、「自助・共助」の大切さを子供たちに伝えていくことを行っています。

実は宇宙飛行士が宇宙に行くまで、そして宇宙に行った後は自助と共助に非常に近いことを行っています。宇宙飛行士たちの訓練ではマニュアルの把握や機器の扱い方、他には実験の仕方なども覚えなければなりません。また、宇宙船が不時着した場合などにも備えてサバイバル訓練を行っていることは有名だと思いますが、それらは何か起きたときに慌てずに対応するためのものなんですよね。

何か起きたときに自分で判断する力を身につける。それはまさに、災害時に私たちに必要とされる力と共通しています。

宇宙飛行士は1人で仕事しているわけでなく、地上の管制官や滞在前の訓練チームの他、フライトサージャンというお医者さんがつきっきりでついています。また、地上管制官とのシミュレーション訓練では事前にいろんなパターンを想定して徹底的に行われています。身の安全を守る準備がここまで行われている理由は、これまでの有人宇宙開発において、宇宙飛行士の命が失われたという忘れてはならない歴史も背景にあります。そういったことを乗り越えて蓄積されてきた考え方を防災教室に取り入れています。

防災教室の前半ではこのように宇宙飛行士の訓練やミッションを例にして「自助」「共助」の大切さについて学び、その後は実際に災害を経験されたワンテーブルの方々にお話ししていただくというプログラムも展開しています。興味の持ちやすい宇宙から入った後は、実際の現場でどんな課題があったか学んでもらいます。

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©ワンテーブル

S.S.葛野:ありがとうございます。宇宙飛行士の訓練プログラムと、災害時の避難が通じるという点にとても納得がいきました。

防災を「自分ごと」化する工夫

菊池さん:最後の実技では備蓄食について考えてもらい、子供たちに防災を「自分ごと」化してもらうことを目指しています。

先程の防災食のお話(7月号掲載)にも関連しますが、こちらをご覧ください。

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©ワンテーブル

S.S.葛野:子供のお絵描きがパッケージになっていますね。
菊池さん:これはワンテーブルさんによる取り組みで、子供たちにどんな備蓄食が必要か、誰のために作るか、中身の味やパッケージを考えてもらっています。備蓄食をただ食べてもらうだけでなく、絵を描くなどして子供たちも一緒に考えることで、防災訓練、防災教育にも繋がる取り組みとなっています。

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©ワンテーブル

S.S.葛野:子供たちの中にも防災や備蓄への意識が芽生えそうですね。
菊池さん:こういった体験型プログラムを、それぞれ小学校・中学校・高校生それぞれの世代に合わせる形で提供しています。
S.S.葛野:小学生と中高生で内容が違うのですか?
菊池さん:先ほどお見せした、ゼリーにお絵かきするものが主に小学生用のプログラムになります。高校生の場合、例えば宮城県の多賀城高校では授業の一環として、筑波宇宙センターの見学やJAXA宇宙食担当との意見交換を通じた備蓄食メニューの考案を行いました。多賀城高校はかなり防災意識が高く、防災科があるぐらいなんです。大分県では、その地域の食材を使って、実際にオリジナルの防災食を作ってみるといった取り組みも行いました。

S.S.葛野:いろんな地域のご当地防災食みたいなものがあったら面白いですね。
菊池さん:おっしゃる通り、そういう世界を目指したいなと思っています。宇宙飛行士が宇宙食を食べると故郷の地球を思い出すと聞いたことがありますが、防災食を地元食材で作ることで地域のことを考えるきっかけにもなればと思っています。いま、宇宙食にもなる防災食の開発を目指している自治体も出てきていますが、こういった繋がりから備蓄への興味関心が高まっていってほしいと思います。

S.S.葛野:菊池さん、貴重なお話ありがとうございました!
今回のお話を受けて、私も、東日本大震災のときに仕事中だった親と中々合流できず、不安になったことを思い出しました。当時は家族と防災について話したこともなかったため、もしあのとき防災宇宙教室のようなプログラムを受けていたらもっと落ち着いて避難できたかもしれないなと思いました。このような取り組みが全国の自治体にどんどん広がっていってほしいと思います。

次号では「宇宙×防災」編の最終回をお届けします!

参考資料
授業連携 | 自然科学と災害B(災害科学科1年必修) | JAXA 宇宙教育センター
授業連携 | 宇宙食と非常食の関連 | JAXA 宇宙教育センター


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菊池 優太(きくち ゆうた)

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)
新事業促進部 事業開発グループ J-SPARC プロデューサー
/ 一般社団法人 SPACE FOODSPHERE 理事

人間科学分野の大学院修了後、JAXA入社。主に非宇宙系企業の宇宙ビジネス参入に向けた新規事業や異分野テクノロジーとの連携企画に加え、共創型プログラム「宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」の立ち上げ・制度設計に従事。現在は、J-SPARCプロデューサーとして、主に宇宙旅行・衣食住ビジネス、コンテンツ・エンタメビジネス等に関する民間企業等との共創活動を担当。地球と宇宙に共通する食の課題解決に取り組む一般社団法人SPACE FOODSPHEREでは理事を務める。

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葛野 諒(くずの りょう)

東北大学大学院 工学研究科 航空宇宙工学専攻 博士前期課程1年

【専門・研究・興味】宇宙エレベーター/宇宙テザーなど宇宙空間における柔軟構造物の研究
Space Seedlingsの活動を通して、皆さまの「宇宙」が広がるお手伝いができれば幸いです。

【活動】
SELECT(宇宙エレベータークライマー製作)
Tohoku Space Community
復興応援団
Flexible Spacecraft in Julia


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